十二話
魔王と元魔王なので魔力は高い。到着まではそこまで時間がかからなかった。木々の間から様子を伺うが、魔王軍というだけあってその数は尋常ではない。戦力的には俺とシア二人で十分だがあまりにも多い。戦闘になった場合は打ち漏らすこともあるかもしれない。
でもなんだろう、結構楽しそうに遊んでる。様々な人外のモンスターたちが海で遊んでる姿、狂気に満ちていると言っても過言ではない。
魔族たちが遊んでいる浜辺の向こうに低めの山が見えた。そして更に山の向こうには小さく魔王城が見える。本当に天辺の先端しか見えないが。
「できるだけ穏便に片付けたいところだな」
「あのレドラが穏便に済ましてくれるかどうか、甚だ疑問ではあるわね」
「物腰は柔らかいんだけど血の気が多いんだよな、アイツ」
「曲がりなりにも魔王の従者だもの。今は魔王の敵だけど」
「新しい魔王を欲しがってるところを考えると、魔王の敵というよりはお前の敵だな」
「余計なこと言わなくていいのよ」
割と強めにケツを蹴られた。しかしながら手加減をしているのか、前にちょっとつんのめるくらいで済んだ。
「とりあえず行くか。ここで見てるだけじゃなにも始まらん」
「そうね。でも話すことは決まってるの? 思いつきだけで来てないでしょうね」
「俺だってそこまでバカじゃない。ちゃんと考えてきてるさ」
「じゃあどんなこと話すの? なにを交渉材料にして時間を稼ぐの?」
「まずは刺客なんて送り込まず一年待ってろって言う」
「で、交渉材料は」
「ちゃんと考えてあるから安心しろ。その用意をするためにちょっと時間おいたんだから」
「用意してあるならいいけど」
「疑ってんのか? 大丈夫だ、問題ない」
「なんか嫌な予感がするんだけど……」
「言い争っても始まらん、行くぞ」
「あ、ちょっと!」
ぐいっと上着をひっぱられた。
「なんだよ」
「仮面とマント忘れてる」
「おう、そうだったな」
最近使ってないから忘れてた。
茂みを飛び出して魔王軍へと直行する。魔族の中で俺の存在に気づいたのは数名。いずれも魔王軍の中では手練だろう。もちろんレドラもその一人だ。
少しだけ手前に着地して砂浜を歩いた。俺が歩くのと同じように、レドラもまたこちらへと進んでくる。
「お久しぶりですね、ブラックノワール殿」
レドラは張り付いたような作り笑いを浮かべた。
「そうだな。でも余計なことしてくれたみたいじゃねーか」
他の魔族が集まってくる。が、加勢するのとは少し違うようだ。おどおどしている上に「どうする、これ」「俺に聞くなよ」「余計なことしてるのお前だよ」なんて声が聞こえてきた。
「余計なこと、とは?」
「俺に監視つけたろ? 一年間待ってろって言わなかったか?」
「監視? さて、なんのことやら」
「獣人が村の森の中にいたぞ。いろいろ吐いたし言い逃れは無駄だと思え」
レドラは笑顔のまま「ちっ」と舌打ちをした。聞こえてる聞こえてる。
「私が遣わした刺客だとして、だったらなんのですか? なんの契約も交わしていないのですから関係ありませんよね」
「所詮は口約束だと言いたいみたいだな」
「それに獣人一人いたところで、貴方が住む村がどうこうなるわけではないでしょう? だったら問題ないのでは?」
「開き直ってるみたいだけどな、村のみんなが俺みたいな戦闘力を持ってるわけじゃねーんだよ。一般人が獣人を見つけて、その獣人が村人を食ったらどうすんだよ」
「大丈夫ですよ。彼、人肉嫌いなので」
「あ、そういう感じで来るの?」
さすがに想定外だ。まさか魔族で獣人なのに人の肉が嫌いだなんて。逆にそういうヤツを遣わせたなら、レドラはめちゃくちゃ気を使ってくれたことになる。
「いやしかし監視されるのはいい気がしない。その獣人はおっぱらったが、二度とこういうことをするな。村にも近づくな」
「それを言うためにここに来たというのですね」
「そういうことだよ。守ってくれなきゃ、こっちだって新しい魔王の誕生なんて祝福してやらん。当然シアの魔王特性を除去するなんて面倒なこともしない」
マントをぐいっと引っ張られた。そのせいで首にテンションがかかって息苦しいことこの上ない。
「嘘、嘘だから! ちゃんとするから離して!」
シアにしか聞こえないくらい小さな声で懇願した。すると一気に力が緩められた。視線を向けるとジト目でむくれているが「嘘」ということはちゃんと信じてくれているらしい。抱き枕代わりにしまくったせいで情が移ったか。
「それを呑まなければ、どうなりますか?」
またマントを引っ張られた。たぶん「ほら見てみなさい!」とでも思っているんだろう。
しかし俺はちゃんと準備をしてきている。こうなることも想定していた。目には目を、脅迫には脅迫をだ。つまり最初から取り引きをするつもりはあっても契約をするつもりはないのだ。
「そういうだろうなと思ってたよ。予想してないとでも思ったか?」
「予想していたからなんだというのでしょう。貴方になにかできるのですか? 魔力は高く戦闘力が高いのは認めます。ですがそれまでですよ」
「わかってないんだよなあ。俺は確かに強いがそれだけじゃないんだこれが」
ビシっと魔王城を指差した。レドラも含め、多くの魔族が魔王城の方に顔を向けた。
「やってしまえ!」
次の瞬間。わずかに見えていた黒々とした魔王城が水色のなにかに飲み込まれた。ぶにょんぶにょんしたなにか。そう、スライムである。スライム最強か?
「貴方がやったのですか!」
「あれくらいできる男だという認識を持ってもらいたい。魔王城が跡形もなく消化されちまってもいいのか?」
初めてレドラが苦い顔をした。そうそう、お前のそういう顔が見たかったんだ。
「なにをしたのです!」
「なに? 教えてほしいの? じゃあお願いしなきゃ駄目じゃない?」
腕を上げたかと思えば、俺に向かって魔力の玉を飛ばしてきた。それも前回見たやつだ。俺に当たる前に消滅させてやる。弾き飛ばしたとかではなく完全に消去した。ちなみに俺は指一本も動かしていない。




