7歳 ー 1
妹ができて五ヶ月経った。俺とは違って無垢な瞳。夜泣きはちょっとうるさいけど、それも含めて可愛いと思える。
名前はスピカ。早く「お兄ちゃん」と呼んでもらいたいものだ。妹に「お兄ちゃん」と呼ばれるのは、妹がいない男にとっては憧れナンバー3くらいの憧れ力がある。
「痛い、痛いって」
でも俺が抱き上げると顔面めちゃくちゃ殴ってくる。嬉しそうに笑いながら殴ってくるのだが、悪意がないのがわかっているから怒りづらい。
たぶんこの子は美人に育つ。母さんによく似ているからだ。父さんに似なくて本当によかったなと思う。あんなゴツい妹だったら俺はどういう顔して毎日過ごしたらいいかわからないしな。
「おーい! アルファルドー! 遊びにきてやったぞー!」
ドアの向こうからクソガキの声が聞こえる。ビリーだ。なんだかんだ言いながらよく誘いに来る。物好きなのかバカなのか。違うな、俺のことが好きなんだろう。ツンデレってやつだ。
「母さん、俺遊びに行ってくるよ」
「俺、じゃなくて僕、でしょ? いいわ、行ってらっしゃいな」
スピカを母さんに渡し、俺は家を出た。つかなんで母さんと父さんの顔は殴らないんだ。
「おまたせ。他の連中は?」
「家のヨウジだって。いこうぜ」
「行くってどこに。なにして遊ぶつもりだよ」
「まずはソニアのとこいこう」
「お前、実はソニアのこと好きだろ」
「すすすすすすきじゃないわ!」
「もういいよ。さっさと行くぞ」
ポケットに手を突っ込んで歩き出した。
「おい! 先頭は俺だぞ!」
「うるせーな、好きにしろよ」
このまま大きくなったら、こいつ間違いなく面倒になるな。どこかで俺が矯正してやらなければ。
ビリーを先頭にしてソニアの家までやってきた。
「ソニアー! 来てやったぞー!」
さっきと一緒じゃねーか。ボキャ貧か。
七歳でボキャ貧もクソもねーか。俺が悪かった。
ドアが少しだけ開いて、ソニアが顔を出した。困り眉の、いつものソニアだ。
「アルくん、いるの?」
「ああ、いるぞ」
「それなら行く!」
今度は笑顔になって、家の中から飛び出してきた。
ちらっとビリーの方を見るとすごい顔をしていた。顔中のシワが中央に密集したみたいな顔。七才児が怒った時の顔じゃない。
「んで、なにして遊ぶんだよ。あとその顔やめろ」
「あそこいくぞ」
ビリーが不機嫌そうに指さした。
「森の方か。父さんと母さんには行くなって言われてたな」
「だいじょうぶだ。しんぱいない」
「どこから来る自信だよ……」
モンスターが出ても俺は大丈夫だが、こいつらはダメだろ。なにも出来ないで食われるのが関の山だ。
「もうちょっと大きくなってからな。今日は鬼ごっこでもしよう。健全だ」
「ケンゼンってなに?」
ソニアが顔を覗き込んできた。
「あー、そうだな。危なくないってことだ。それじゃあ鬼はビリーな。よーいどん」
そう言って駆け出すと、俺の後ろをソニアがついてきた。ビリーは泣きそうな顔で追いかけてくる。鬼ごっこのルール知らないんじゃないか、アイツ。
こういう子供の時にしかできない遊びっていうのも貴重だ。今は今で楽しんでおく。ようやく手に入れた人間としての人生だしな。