六話
そう思った時だった。後方から魔力が接近してくる。なんてことはない、シアの魔力だ。
俺のもとに到着するやいなや、シアは俺に仮面とマントを被せてきた。できる女すぎて惚れそう。
「忘れ物」
「うむ、よきにはからえ」
「礼を言いなさいよ礼を。で、そいつはレドラの手下なんでしょう? どうするの? 拷問していろいろ吐かせる?」
「それも悪くないんだがなあ」
「くっ……殺せ!」
「それは姫騎士が言うセリフであってお前みたいなむさ苦しい獣人が言うセリフではない」
『ミッションコンプリートゥ』
「だから今じゃないんだって」
じじいの声がしたってことはこいつが暗殺者で間違いはない、と。
「正直手荒なことはしたくない。だから聞くぞ、レドラはなんでお前をここにやったんだ?」
徐々に放出する魔力を強くしていく。抑えていた魔力を開放していけば、魔王の手下くらいならばビビって腰を抜かすはずだ。
「お前、ほんとになんなんだよ……」
「おーいちびってるちびってる。ビビって欲しいとは思ったけど漏らせとは思ってないから」
こいつマジでなんなんだって俺が言いたい。
「で、どうなんだよ」
獣人は喉を鳴らし、大きくため息をついたあとで話し始めた。最初からそうしていれば漏らすこともなかっただろうに。
「いつまで経っても魔王が再臨しないから様子を見てこいって。その気がないようであれば殺してもいいって、そう言われたから……」
「いやいや、レドラでも殺せなかったんだからお前じゃ無理でしょ。ってことは、お前が死んでもいいってレドラは思ってたんじゃねーかな」
「そんなバカな! 俺はレドラ様の一番の部下だぞ!」
「ハッキリ言うけど絶対にそれはない。んー、でもそうか、そろそろなにかアクションを起こさないといけないな」
つっても神様コイン、まだ三枚しかないんだよな。クリアしたクエストが4つで、ピルのために一枚使っちまった。10枚まではまだ時間が必要だ。しかし期限は一年のはずだし、まだ半年以上ぶらぶらしてても問題ないはずなんだが。
「レドラは焦ってんのか」
「当たり前だ! 魔王がいなきゃ魔族はどんどん魔王城から離れて行くからな! 魔王は力だけじゃねえ、威厳ってもんがあるんだ! 魔王がいるだけで魔族がついてくる、そういう象徴なんだよ!」
「なるほどなあ」
とは言うが、今すぐにどうにかすることはできない。ここはこいつになんとかレドラを説得してもらうしかないんだよな。
「帰ってレドラに伝えろ。魔王の特性を消すためにちゃんと活動はしてる。ちゃんと期間内になんとかする。信じられないってんなら自分で来い。俺が自ら話をする。覚えたか?」
「くっ……殺せ!」
「壊れたオモチャのつもりなのか、そのセリフが気に入ったのか。いずれにしろ開放してやるからちゃんとレドラに伝えるんだぞ。わかったか?」
「わかった」
「素直か」
俺が手を離してやると、獣人は涙目になりながら森の中へと消えていった。俺の予想だと数日の間にレドラがこの村に来るだろう。それが狙いでもあるんだが。
「それにしてもよくここがわかったな」
「人間じゃ気づかないでしょうけど、魔力使ってどこかに飛んでいけばわかるわよ。なにかあったのかと思ってついてきて正解だったわ」
シアが髪の毛を右手で払った。
「衣装まで持ってきてくれるとは、ここまで来ると以心伝心だな」
「やめてよそういうの。べ、別にアンタのためなんだからね」
「ツンデレが下手くそすぎる。まあ俺のためなんだろうけどもね」
頭に手を乗せてゆっくりと撫でてやった。ライトボールに照らされた彼女の顔は心なしか赤らんで見えた。
「でもどうするの? レドラが村を襲撃なんてしてきたら」
「話をする。それだけ」
「それでなんとかなると本気で思ってるわけ?」
「なんとかなるさ。いや違うな、なんとかする」
「なんとかってなによ」
「それはそのうちわかる。見とけよ見とけよー」
考えただけで楽しくなってくる。レドラ、いや魔族の連中が顔を青くして縮こまる姿が目に浮かぶようだ。
「さて戻るか」と言いながらシアを抱え上げた。
「ちょっとなにするのよ!」
「こっちのが早いんだから仕方ないだろ」
暴れるシアを抑えながら、夜の森を走り抜けるのだった。シアがちっちゃくて軽いのは助かるが、もう少し肉をつけたほうがいいと思う。主に胸あたりに。




