十二話
帰ってからがまた酷かった。
マトゥタケはそのまま火で炙って食べるのが美味しいらしく、皆そうやって食べていた。ビリーがマトゥタケを食べる姿には心の中でモザイクをかけたので問題ない。問題なのはやはり女性陣だった。
スピカが小さな口でマトゥタケの先端を何度もぺろぺろと舐めていた。今度は軽くしゃぶり始め、そしてもごもご言いながら口で咥える。頬を染めるもんだからこっちも恥ずかしくなってしまう。
そしてそのまま噛みちぎる。
「ああああああああああ! くそおおおおおおおおおおおおお!」
「ど、どうしたのお兄ちゃん?」
「いや、なんでもないんだ。なんでもない」
ソニアもシアもローラもネティスも同じような食べ方をする。母さんですらそうやって食べる。
舐めて、咥えて、しゃぶって、噛み切る。
噛み切る。
噛み切る。
これがまた心にクる。俺の身体の一部が引きちぎられてるんじゃないかと思ってしまうからだ。
にも関わらずビリーは普通に食べている。この世界はいったいどうなってるんだ。俺が意識しすぎてるのか。それならそれでいいんだが、しばらくマトゥタケは見たくないな。心が壊れてしまう。
「ぷぴぃ」
そんな時、俺の膝の上に豚が乗ってきた。頭を撫でてやると目を細めて気持ちよさそうにしている。
「いつまでも豚じゃ可哀想だな。名前、どうにかしなきゃな」
しかし俺はネーミングセンスが皆無だ。「よしこ」とか「きみえ」とか付けかねない。いや、まだメスと決まったわけでもないんだが。
「お兄ちゃん、その子の名前って決まってるの?」
「まだ決まってない。そもそもオスかメスかもわからないしな」
「メスに決まってるじゃない。見てわからないの? お兄ちゃん、デリカシーっていうのを身に着けた方がいいよ」
「ぷっぴぃ!」
なんかよくわからないけど怒られてしまった。そもそも見てわかるわけがないんだが、今そこに突っ込むほどの気力はない。
「それは、なんか、すまないな」
「わかればいいの。で、名前はどうするの?」
「どうするもこうするも、俺そういうの苦手なんだよ。スピカはなんかいい名前ないか」
「いい名前、かあ……」
スピカは箸を置き、腕を組んで考え始めた。
実は、我が妹ながら考える時間が長い。思考停止や無計画な即決よりは全然ましなのだが、スピカが答えを出すまで俺は待っていなければいけないのだ。
皆が食事を進めていく中で、俺とスピカの時間だけが止まってしまった。スピカをじーっと見つめているのにも飽き、豚の背中を擦ってみたり、腹を叩いてみたり、抱き上げて軽く振り回してみたりして遊んでいた。豚もかなり楽しかったようで、嫌がる素振りは見せなかった。
この豚、非常に肌触りがいい。産毛のように細く短い毛がとてもふさふさしていていつまでも触っていられる。腹部なんかには毛が生えていないのだが、もちもちしていてこれもまた触り心地が素晴らしいのだ。
「決めた!」
ガタッとスピカが立ち上がる。思わず豚をふっとばしそうになってしまった。
豚を胸に抱くと、豚は俺の指をガジガジと噛んでいた。可愛いかよ。
「この子の名前はピルフェット!」
「あ、はい。じゃあそれでいいです」
「略してピーちゃん!」
「それは鳥につけるやつだね」
「ぷぴいいいいいいい!」
「めっちゃ喜んでるからこれでいいか」
見事、豚の名前はピルフェットに決定した。なんだかんだでスピカにも懐いてるしこれでいいだろう。




