十話
「おいアル見ろ! マトゥタケだ!」
声がした方に視線を向けた。数十メートル先にいるソニアの前、地面一体にキノコが生えている。ものすごい数だ。
俺はこの時気付かなかったが、近づくたびに世界の神秘を目の当たりにすることとなる。
「これが、マトゥタケ……」
「そう、超高級食材」
地面一面に広がるそれは、俺の想像を絶する見た目をしていた。
肌色、というかややピンクがかっている。俺が知っている松茸の見た目には酷似しているのだが妙に艷やかで菌類には見えない。なによりもなぜ先端に一筋の切れ目が入っているのか。これではまるで――。
「ち○こじゃん……」
「ち、ち○こじゃないわ!」
耳まで赤くなって、うぶなねんねじゃあるまいに。
「もう見た目がヤバイもん。映像作品ならモザイク畑だわ」
「そんなことないわよ! こう、あれってもうちょっと小さいものでしょ? あんなんじゃないわ」
「え……?」
「なに……?」
「お前、もしかして見たことないのか?」
そんな見た目なのに、とは言わない方が良さそうだ。
「みみみみ見たことくらいあるわよ。昔一緒にお風呂入ったことだってあるじゃない」
「つまりその時以来見てないと」
ソニアは更に顔を赤くし、更に頬を膨らませた。
「仕方ないでしょ! そういう経験だってないんだから! それに料理すれば関係ないし美味しいんだからね! 生でも食べられるけど」
「あれ、生で食うの……?」
「先端の切れ目に甘みがあるの。人の唾液に反応して甘くなるんだって」
「映像的にヤバイんだってそれはさ」
「こうやって食べるの」
「サービスシーンを積極的に提出してくスタンス」
やめろ、先端を舌先で舐めるんじゃない。
「すごい、めちゃくちゃ甘い……」
口の中に含んで上下させるんじゃない。
「あ、すごい……」
すごいってなんだ。なにがすごいんだ。というかこれ、母さんもスピカもやんのか。それ想像すると言葉も出ないんだけど。
「とりあえず咥えて上下させんのやめろ。これ以上は我慢できそうにない」
「我慢ってなにを?」
「いいか、見るだけで育つキノコってのも世の中には存在するんだ。そういうのは家でやれ。というか頼むからやめてください」
「アンタがそう言うならそうするけど……」
ソニアはマトゥタケをバリバリと食べ始めた。これはこれでダメージがすごいな。
それから俺たち二人はカゴいっぱいにマトゥタケを押し込む。高級食材っていうくらいだし美味いのは間違いないだろう。この見た目だからあれだが、母さんがちゃんと調理してくれるはずだ。
「アンタたちも来たのね」
そこで現れたのがシアだった。おそらくだが、俺たちよりも早くここに来ていたんだろう。カゴから溢れんばかりのマトゥタケを採っていた。
「もう欲張りすぎてカゴからモザイクが漏れてるんだよね」
見るに堪えないと言わざるを得ない。
しかしだ、少し考え方を変えるとすごくいい絵になる。カゴいっぱいにあれが詰まっているのだから、まあ、その、イケナイ感じに見えなくないわけだ。シアの見た目でこれは相当犯罪の匂いはするが。
「キノコ狩り、相当楽しんだみたいだな。じゃあさっさと帰ろう。あまり良い気はしない」
「マトゥタケ、嫌いなの?」
「食べたことないからわからんけど、マトゥタケが刈り取られる姿はちょっと絵面がヤバイから勘弁してほしいかなって」
「まあこれだけ採ったからいいわ。帰りましょう。スピカたちの分もあるから」
「うむ、それがいい」
しかしなにかが引っかかる。これは超高級食材でそれがこんなに生えてるんだ。なにもないわけがない。
次の瞬間、地面が少しだけ揺れた。
「グオオオオオオオオオオオ!」
言葉にすると陳腐になるような雄叫びをあげながら、森の奥からなにかが姿を表した。二足歩行のモンスターだ。顔は豚、肥満体型だが身長は高い。いや高いどころじゃないな、俺の四倍はある。
「お約束極まりない」
だいたいこういう感じなんだよね。クエストの最後にはボスが出るもんだ。最初からキノコ狩りだけで終わるだなんて俺も思ってないさ。
思って、ないさ。
「どうするの、あれ」
「なんとかなるだろ。数秒でいいからソニアの目を塞いでて欲しいんだけどできるか?」
「できるけど、私の身長だと難しいわよ?」
「なんのための魔法だよ」
「ああ、そうか」
コイツ本当に突っ込み担当か? と言いたくなる。
「時間が長ければ長いほどいい。飛びかかってソニアの頭を抱きかかえて視界を塞ぐ、みたいなことしてくれるとありがたい」
「本気で言ってるの? 私にそんな醜態を晒せと?」
「やるの? やらないの? 魔王に戻るの? 戻らないの?」
「脅迫がすぎる……」
頭を抱えて数秒「やるわよ」と不貞腐れながらそう言った。
こういうやり取りをしているにも関わらずモンスターは襲って来ない。特撮とかアニメで「長ったらしいヒーローの変身シーンでは敵が襲ってこない現象」とはこのことだな。




