五話
「じゃあこっちが終わったら手伝いに行くか」
「急に真面目になったわね。なにかあった?」
「まあいろいろとな。それに金がかかってる。お金は大事」
「よくわからないけどとりあえず行くわ」
「お前のそういうところ好きだぞ。さっぱりしてて」
「気軽に好きとか言わないで」
顔を真っ赤にして、それを隠すように飛び出していった。まだどっちを狙うか決めてないのに。
シアがギガントマウンテンBの方に行ったので、消去法で俺がAに向かうことになった。
さて、ここで少し整理しよう。
半分にした場合、どっちかが残っていて、その残った方を俺以外が倒せばいい。つまるところ、分離させてしまえば俺は暴れ放題なわけだ。ギガントマウンテンをどんどん分割していって、ちっちゃくなったところでシアに倒させればいい。シアはギガントマウンテンBに攻撃を仕掛けに行ったが、さすがに力をセーブして攻撃するはずだ。アイツもバカじゃないから、俺がAを倒すまではなんとなくでやり過ごしてくれるだろう。
次の瞬間、ドカーンというデカイ音がした。ギガントマウンテンBを見れば、バラバラになって崩れるところだった。
「アイツに対しての評価を考え直さないといけないな……」
時間かかるって言ってたクセに。
しかし、これでAを倒すわけにはいかなくなった。仕方がない、また真っ二つにするか。
シアが満面の笑みを浮かべて戻ってきた。
「どうだ! 私だってやればできるのよ!」
無い胸張って、自信満々にそう言い放った。正直なところ、思いっきりぶん殴ってやりたい気持ちでいっぱいだ。しかしここは我慢我慢。たまには飴をくれてやることも必要だ。
「ああ、そうだな。よくやった」
頭に手を乗せ、優しく撫でてやった。シアはくすぐったそうにして頬を緩めているが、俺の内心など知る由もないだろう。
「ぬへへー」
「気持ち悪い笑い方すんな」
「気持ち悪くなんかないわよ」
「とりあえず次の作戦を伝える。俺がアイツを真っ二つにするから、俺が片方を倒した後で、もう片方をお前が倒す。いいな?」
「なぜ?」
「いいから。わかったか?」
「ええ、わかったわ。仕方ないからやってあげる」
さっきので勢いづいたのか、はやり無い胸を張っていた。顔は悪くないんだが、どうにも俺は巨乳が好きなんだなぁ。
ギガントマウンテンは小さいくなると、僅かではあるが速度が上がるらしい。このままだと予想よりも早く町を踏み荒らすことになりそうだ。
幸いなことに他の冒険者たちはギガントマウンテンを追っている。ここでビームを出しても問題なさそうだ。
目に光が集まって以下略。
一直線にギガントマウンテンへ以下略。
「よし、いい感じに真っ二つになったぞ」
「ちょっとヤケになってない?」
「誰のせいか、そのぺったんこな胸に手当ててよく考えてから言え。行くぞ」
「そ、そのうち大きくなるわよ! 見てなさい!」
「じっくり観察しろってことか……それならやぶさかではない」
思いっきり腹を殴られた。まったく準備していなかったのですごいダメージだ。だが俺はこれでも魔王の力を持っている。これくらいで音を上げるような男ではない。
「いつまで地面にキスしてるつもりなの? さっさと行くわよ」
「この星が、愛おしくて、仕方がないのさ」
ちびっ子のパンチで倒れたなどと思われたくはない。ここは譲らないぞ。
立ち上がり、腹を撫でた。
「痛い……」
「そこは強がらないんだ……」
実は顔面から地面に落ちたので顔もめちゃくちゃ痛いのだが、それを顔に出すわけにはいかない。なんでもないフリをして、ギガントマウンテンへと走り始めた。
「その顔、痛そうね」
シアはそんな独り言を言っていたが、俺は気にしないことにした。
右のギガントマウンテンをC、左をDとしよう。Cが走り続け、Dは冒険者たちに囲まれている。一発で仕留めるなら俺がCを狙った方がいい。
「冒険者に囲まれてる方を頼む。独走してる方は俺が倒す。いいか、これは競争じゃないんだからな? 必ず俺が撃破した後に倒してくれ」
「何度も言わなくてもわかってるわよ。でも他の冒険者に倒される危険性もあるんだから手早くやってよね」
「俺がそんなヘマを――」
ドーンと、大きな音がした。ギガントマウンテンDが崩れ落ちるのが見えた。
「俺がそんなヘマを、なんだって?」
「ははっ、これも計算のうちだ」
思わず「意外と冒険者のレベルが高いな……」とつぶやいてしまった。
「なにか言った?」
「なんでもない。しかしあの大きさならお前でも十分倒せるよな?」
「当然じゃない。あの倍の山をぶっ倒したのよ?」
「それじゃあ後は任せた。お前がアイツを倒せば金は俺たちのもんだ」
「任せなさい。さっきはダークバーストで倒したから、今回はダークセイバーで倒してやるわ」
走りながら、シアは呪文を唱え始めた。
「深淵の使徒たちよ刮目せよ。刃を突き立て光を払う。捧げろ、深淵の刃」
身体から黒いモヤが漏れ出して、それがシアの右手に集まっていく。じょじょに形を変え、シアには似つかわしくない大きな剣へと変貌を遂げた。
「ダーク、セイバー!」
黒い剣を振り下ろせば、大きく長くなってギガントマウンテンへと向かっていく。




