三話
でも集まった冒険者たちが一斉に駆けていくではないか。勇気あるな、キミらじゃ無理だぞ。
「なあ係員の人」
女性係員に話しかける。
「あ゛い゛」
「喉潰しちゃってるじゃん。これ飲みなよ」
腰から水筒を取って渡す。係員のお姉さんがそれを飲み、一息ついた。これは俺が生成した回復役で、いろんな病気や怪我にきくすごい回復役だ。命名するならアルファルド水とかだろう。
どうやって生成したかは内緒だ。
「ありがとうございます。それで、どうかしましたか?」
水筒を返してもらった。口、付けてたな。
なんて考えてる場合じゃない。
結構可愛いじゃん。名札に名前が書いてある。えっと、セシリー=コリンズっていうのか。
そうじゃないって。
「ギガントマウンテンなんてモンスター聞いたことないんだけど」
「あれは鉱物系のモンスターの集合体なんですよ。例えばダイナマイトロックとか」
「触れたら爆発するやつね」
「イワ○クとか」
「それダメだね。それは出しちゃダメなやつだ」
「ぬりかべとか」
「妖怪だねそれ」
「イシツブ○とか」
「もうほとんど言っちゃってるけどダメだってそれは」
「ボンバーヘッドとか」
「それモンスターじゃないよねたぶん。わかった、もうわかったわ」
絶対ゴーレムとかでいいでしょ。なんで際どいとこ行くんだよ。
「んじゃ俺たちも行くか。と、その前にパーティを二分割しよう。俺とシアが左から、右からはローラとネティスな」
「なんでその分かれ方なんですか?」
「他意はない」
というのは嘘で、正直ネティスがいると自由に動けないからだ。主な理由として、低レベルなので俺とシアの動きについてこられない。そうなるとネティスにかまっているだけでも時間を無駄にしてしまう。
その点ローラならば、あの正義感でネティスも守ってくれるだろう。
「それなら私とアルさんでもいいってことですよね?」
ここでネティスからクソみたいな提案を持ちかけられた。
「却下だけど?」
「なんでですか!」
そういやコイツは俺の強さを知ってるんだっけな。そりゃ俺の方に来た方が安全だと思うだろう。
「普通に邪魔だし」
「じゃ、邪魔ってなんですか! 私は元軍人ですよ!」
「レベル34の軍人が相方とか勘弁して欲しい。本当に邪魔」
「それ以上はぁ、言わないでぇ、くださいよぉ」
「ええい泣くな泣くな。そうだな……お前は英雄の資格っていう特殊スキルを知ってるか?」
「知ってますけど、それがなにか?」
「ローラは英雄の資格が持っている。英雄の資格は経験値増加や上限レベル解放なんて特典もあるが、もう一つ特典があるのだ」
「もう一つ?」
「そう、幸運であることだ。だからローラと一緒にいれば死ぬことはない」
そしてなにより、お前自身にも特殊スキルがある。
ネティスには強運、七光、順応性、深淵を覗く者という特殊スキルがある。七光は黒くなってはいたが、強運があるのでおそらく死ぬことはないだろう。
ただ、この「深淵を覗く者」っていうのがよくわからん。スキルの詳細くらい見えるようにしておけよ。使えないじじいだな。タップしても「深淵を覗けるスキル」しか出ないのは問題すぎる。
「本当に大丈夫なんですか……?」
「いざとなったら俺が直接助けてやる。あんま考えるな。んじゃ、ネティスのこと頼むぞ、ローラ」
「心得た。私に任せるがいい!」
あー、めちゃくちゃ不安だ。こういうやつって絶対余計なことするタイプなんだよなあ。
こんなことをしていても先に進まないので、とりあえずギガントマウンテンと戦うことにしよう。
しかしこのギガントマウンテン、少しずつこっちに近付いてきてるな。このまま行くと町ごと飲み込んでしまいそうな感じだが……。
いやいや、フラグなんてあるわけがない。そんなことを考えてしまうからフラグになってしまうのだ。ギガントマウンテンを倒して賞金ゲットだ。
とは言っても、あんなデカイのどうしたらいいのかわからん。ローラとネティスは一気に駆けていってしまったが、俺とシアは割とゆっくりめに進行中。
「そもそもあれはなんなんだ。あれが出るってわかってたってことは、今までもこういうことがあったってことだし。よくわかんねーな」
「ホントテキトーなのね。百年に一度現れる山のモンスター。それがギガントマウンテンだって書いてあったじゃない」
「どこに書いてあった?」
「依頼書よ。ギルドの掲示板にデカデカと張り出されてたやつ。お金は国から出るとも書いてあった」
「ちなみにギガントマウンテンを倒せないとどうなる?」
「町が滅びるって。ギガントマウンテンの下敷きになるって書いてあったわ。で、そのまま進行を続けると他の町にも被害が出るから、国からお金が出るみたいよ」
「いきなりシビアな展開になったな」
「最初から結構シビアなんだってば。で、これからどうするつもり? 普通に攻撃してただけじゃ、あんなのどうやっても止められないわよ」
「俺の力を侮ってもらっては困る。ちょっと試したいこともあるし、ちょっとその辺に隠れて試してみるか」
左へと逸れて、逸れて、逸れて。人気がない森の中へとやってきた。




