一話
結局、シアには「再生能力が備わっている」とだけ言っておいた。事細かに説明してもいいっちゃいいが、いろいろ突っ込まれると面倒くさい。
それにそれきり突っ込んでこないしこれで問題なさそうだ。
畑仕事をして、狩りをして、夜になった。
「やあ」
風呂から上がって部屋に戻ると、何食わぬ顔をしたハゲがいた。
「おいハゲ。自然に上がり込んでんじゃねーぞ」
「まあまあ、堅いことは言いっこなしじゃ」
「堅いことじゃねーから。プライベートな空間を侵すなっつってんの」
「ワシとお主の仲ではないか」
「顔を赤らめるんじゃない、気持ち悪いな。で、なんの用だ」
「当然、次のクエストを持ってきてやった」
「マジか、そりゃありがてぇ。んで次はなにすりゃいいんだ?」
トランペットが響き渡る。
「俺の脳内でしか鳴ってないんだろうけど、もうちょっとボリューム絞ってもらえない? 割とうるさいんだよね」
「仕方ないのぅ」
空中でなにかのつまみをいじるような仕草をするじいさん。
「これくらいかの」
またトランペット。しかも本当に音量下がってる。
「もう原理とかどうでもいいわ」
「神様がやることじゃからな、気にせん方がいいぞよ」
そして背後から紙芝居を取り出してきた。実はちょっと気になってるんだよな、この紙芝居。
いや、決してワクワクしているわけではない。
またまたアンニュイな絵でおじいさんとおばあさんが描かれていた。
「あるところにおじいさんとおばあさんがいました」
「うん、よくある冒頭だね」
「おじいさんは山へ天使の羽を毟りに」
「もう絵が怖い。なんでいきなり劇画タッチなんだよ」
「おばあさんは川へラフティングに」
「おばあさんの年でラフティングはアクティブすぎない?」
「はい、特殊クエスト、100万ウェン手に入れろ」
「また無茶苦茶なの来たな。この年で100万は大金だぞ。普通に仕事してても数ヶ月かかる額だぞ」
なお、この世界でのウェンとは、俺がもといた世界での円と同じくらいの価値がある。まあ大体100ウェンとかでパン一個買えるくらいなもんだ。
「制限時間は七十二時間。ちなみに、今隣町のギルドで高額なクエストがあるらしいぞ」
「無理矢理それやらせたいだけだよね?」
「たまにはお前が頑張って戦ってる姿が見たいんじゃ。親心じゃよ」
「危険に身を投じさせる親心とかいらないんだけどね」
「お前に危険とかないじゃろ」
「確かにそうだが。まあ仕方ない。これもシアを人間にするためだ」
もといあれこれするためでもある。
「そうそう、そうやっていかがわしいことのために頑張るのも若者の特権じゃ」
「お前その年でいかがわしいことばっかり考えてんじゃないか?」
「そんなことないぞよ。いつだって、ワシは神様としての仕事を全うしとるからな」
「もうそういうのいいから。そうだ、魔王の特性を消すのに必要なコインは何枚だ?」
「聞きたいか?」
「はっ倒すぞ」
「冗談じゃ。そうじゃのう……十枚でどうじゃ?」
「いや、思いつきでしゃべんのやめろって。十枚でいいんだな?」
「おっけー」
「ノリが軽すぎる。後から「やっぱり二十枚」とか言うんじゃねーぞ」
「大丈夫じゃ、そこまで心狭くないから。あーでも、このままだと面白くないのぅ」
「面白いってなんだよ、そういうのいらないけど」
「隣町の高額なクエスト、たしかギガントうんちゃらを倒せみたいなクエストなんじゃ」
「そういう系だと楽だな、一瞬で終わる」
「ということで、トドメはお前以外が刺すっていう条件付きで」
「誰か連れてけってことか。報酬減っちまうじゃねーか」
「報酬は100万なんてレベルじゃないから大丈夫じゃ。それじゃあ頑張れよー」
パッと、瞬く間に消えてしまった。今まで振りまいてたエフェクトはなんだったのか。
誰かを連れて行く、か。連れて行くようなやつって言えば、まあ限られてるよな。
三日あるし、とりあえず今日は眠るか。
でもなんだろう、じじいが座ったベッドか。なんかちょっとやだな。
「そうだ、シアを連れて来よう」
嫌がるシアを連れ込み、抱きまくら代わりにして眠ることにした。やや肉質は薄いが、温かくていい匂いがする。最高の抱きまくらだな。
なんて思いながら眠りにつくのだった。
「なに一人で納得してるのよ! もう! なんでこうなるのよ!」
「うるせーな。たまにはいいだろ。命の恩人なんだから文句言うな」
「やめっ! 抱きしめないで!」
「なあ、いいだろ?」
「耳元でささやかないで!」
ちょっとだけ大人しくなったのをいいいことに、さらに強めに抱きしめて目を閉じた。
「もう、なんなのよ……」
あーあー、聞こえなーい。
いい感じに温かいし、これからはたまにシアを抱きしめて寝ることにしよう。
おやすみなさい。




