五話
と、こんなじじいと話してる場合じゃない。ヒルヘルム兵の方をどうするか考えないといけない。
「ヒルヘルムの方、到着までどれくらいだ?」
「ざっと三時間。どんな用意をするのかなー」
「お前楽しんでんだろ」
「そんなことないぞよ。お主が四苦八苦しているところを見ながら一杯やるのが楽しみだなんてそんなこと、あるわけないじゃろ」
「もう全部言っちゃったじゃん。野球観戦しながらビール飲んでるオヤジと発想一緒じゃん」
「似たようなもんじゃ」
「認めちゃうのかよ。もういいや、さっさと帰れ。俺は俺で準備すっから」
衣装もまだ完全に直ってないしな。
「期待しとるぞー」
「優しい眼差しで手を振るな、気色悪い」
パッと、光の粒になって消えてしまった。
さて、衣装直すか。
「なあ、アルファルド」
ドアが開いて、シアが入ってきた。
「ノックぐらいしなさい。ここはお城じゃないのよ」
「気持ち悪い喋り方をするな。その衣装取り出して、またなにかやらかそうってわけじゃあるまな」
「直すだけだ」
「嘘ね。東の方に人間の気配がある。数は三千ほどか。生命力からすると兵士か。方角からするとヒルヘルムかしら」
「お前すげーな。よくそんなことわかるじゃん」
「これでも魔王だからな」
えっへんと、無い胸を張っていた。可哀想に。
「今失礼なことを考えたわね」
「滅相もない。でも魔王ってそんなことできるんだな、知らなかった」
俺が魔王だった頃は、生命力を感じることはできても数まではわからなかった。それに歩いて三時間の距離まで把握できなかった。
「私は戦闘力が高くない。その変わりに感覚系が鋭いのよ。一言に魔王と言っても、その特性は千差万別だから」
「そりゃ便利だな。これからも有効活用していこう」
そんな場面がないことの方が重要だけど。
「で、そいつらを追っ払うために衣装の用意をしていたのでしょう?」
「さ、さあ、なんのことだか」
「しらばっくれなくてもいいわ。人間なら私でもなんとかなるし」
「なに? もしかしてお前も出るつもりなの?」
「この町には助けてもらってるしね。それにここの生活も悪くないもの。それが奪われるっていうのはちょっとね」
「面倒なことになるからいいよ、俺だけでやる」
「面倒ってなによ。私は魔王なんだから」
「いや、ホント迷惑なんでそういうの。俺だけで十分なんで」
「ありがた迷惑ってはっきり言いなさいよ!」
「ありがたくない迷惑だからそのへんでスピカと遊んでって?」
「いきなり直球なの、嫌いじゃないわ」
噛み締めた唇から血が滲んでいる。思った以上にメンタルが弱い魔王だな。
「まあそうだな。万が一俺が取りこぼしたら、その兵士を殺さない程度の魔法で追っ払ってくれ。んじゃーな」
衣装を袋に詰めて立ち上がる。
「兵士はまだ来ないでしょ?」
「町の近くでドンパチやるわけにもいかんだろ。到着まで時間があるなら、できるだけ早く追っ払いに出向くさ。町に被害を出したくないからな」
まあ主に俺の攻撃で、なんだけど。その辺の国の魔法とか対して強くないしな。
「じゃあ頼んだぞ、俺の町を守ってやってくれ」
シアの頭を撫でてから部屋を出た。たぶんむくれてるんだろうな。
母さんに「でかけてくる」とだけ言って家を出た。できるだけ人には見られたくないな。
とか思ってるとばったり出会っちゃったりするんだよね。しかもソニア。
「どっか行くの?」
「ま、まあな。それじゃあ」
「ちょっと待ちなよ」
「なにかな。ボクは急いでいるんだよ」
「荷物なんか持ってどこ行くんだよ。ももも、もしかして女のところにでも行くのかよ」
「んなわけねーだろ。そんな女がいたら俺だって苦労してねーわ」
「そ、そうか。それならいいんだ」
「なにがいいいのかわからんけどとりあえず行くからな」
なんなんだ、いきなり現れて。まあついてこないみたいだからいいか。
町を出て、すぐに東の森に向かった。人間の目じゃ追えない速度なので、誰かが監視なんかしてたら視界から消えたようにも見えるだろう。
森に到着して衣装に着替える。この前よりも衝撃に強くしてあるし、魔法に
対しての対策は俺が魔法を使えばいいことだ。問題は仮面が外れた時だな。なにか考えておかないと。
マントを羽織り、颯爽と森を後にした。町とは反対側の方角だ。
森の最東端の木に登り、サイクロプスの目で遠くを見渡す。
「いたいた。あれか。うわー、ありゃすげーな」
「数だけでしょう。装備は貧弱だわ」
左側を見た。
「なんでいるの?」
シアがいた。反対側の木の枝に上っていたのだ。俺に気付かれずにここまで来たのか。確かに戦闘力は低いみたいだけど、コイツの隠密能力はなかなか使えるかもしれん。
「アナタの力が見てみたいのよ」
「そこは「アナタと一緒にいたいわけじゃないんだからね!」とか言えよ。人のテンション上げるの下手くそなヤツだな」
「なんでここまで言われなきゃいけないのよ!」
「まあいいや、見るだけだったらここにいいろ。面倒事増やしたくないから」
木から降りて即座にダッシュ。でもここまで追ってきたんだよな、アイツ。なにげに優秀な魔王になるんじゃないか。なんて思ってしまう。
ちょうど坂道になっている平原。その一番高い場所に立つ。ヘルヘイムの兵士が眼下にあって、魔王だったころをちょっとだけ思い出す。




