九話
「ちょっと鈍ってるんだ。戦闘とか最近してなかったからな」
しかし、俺には特殊能力がある。
二度ほど深呼吸してからその能力の一部を使用した。
「腕が、再生した……?」
「だからさ、俺はお前らが、思ってるような「ちょっと強い粋がってる人間」とは、わけが、違うん、だよ」
服は破けたが腕は元通り。ちなみに腕が吹き飛ばされたことに関しては、涙ぐんでるというかガチ泣きなので仮面の内側は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったりする。仮面被っといてよかった。
これは確かスライムに連続で転生した時に身に着けたものだったな。でも転生継承のスキルは自然発動しないから、自分で意識して使わないと再生もしない。自然発動したら普通に死なないからな。
「貴方、なんか無理していないかね……?」
「む、無理など、していない」
あんまりそこは突っ込まないでくれ。めちゃくちゃ痛いんだ。
「でもこれで、取り引き、してくれるよな?」
難しい顔をするレドラ。そりゃそうだ、アイツにとっては今まで出会ったことがない生物だ。どう扱うか迷ってるんだろう。
「一年でどうだ。一年以内に新しい魔王が誕生するようにする」
「一年ですか。もしも私が断ったら?」
「お前らは町を襲うんだろ? それなら俺が阻止するさ」
「あの女戦士は戦力にならないようですが、貴方一人でこの数を倒すと?」
「正直やってみないとわからないけどな、たぶんなんとかなると思う。でも俺だって必要ない殺しは趣味じゃないんだ」
ちょっとだけ魔力を開放。徐々にレドラの顔が歪んでいく。いい感じに脅しがきいてるな。あんまり派手に開放すると魔王の特性が俺にもあるってバレちまうからな。
「わかりました。今日のところは退きましょう。ですが、次にこのようなことがあった場合、同じように言いくるめられるとは思わないことです」
「肝に銘じておくよ」
レドラが背を向けた。よしよし、そうやって逃げ帰ってくれれば問題はないんだ。
ぞろぞろと、魔族の軍勢が下がっていく。完全に見送るまではここから動けそうにないな。
「お前一人で追い返したのか」
シャツに薄手のズボンという出で立ちのローラが戻ってきた。隣にはシアとスピカがいる。
「まあな。お前も無茶するんじゃない。絶対勝てない相手に向かってくのは勇気じゃないからな」
「私も修行を積まねばならない。ブラックと言ったか。よければ私を鍛えてはくれまいか」
その言葉を聞いて、様々なシチュエーションが脳裏をよぎった。
『師匠、お背中をお流しいたします!』
『おっほ、ローラよ、背中にいけないものが当たっているぞよ』
『これは失礼を』
『よいよい、近う寄れ』
『い、いけません師匠……!』
うん、悪くない。
『師匠、耳掃除はいかがですか?』
『おっほ、お前の太ももは最高だな』
『い、いけません師匠……!』
『よいではないか、よいではないか』
うん、非常に悪くない。
『師匠、添い寝いたします』
『添い寝だけで済ませると思ってはいないだろうな?』
『い、いけませええええええええええええん!』
はあ、最高か。
と、ここでもう一度ローラを見て見よう。
身体は最高だけど、たぶん俺の妄想通りにはならない。話は聞かないし、マッパでも羞恥心の欠片もないからな。風呂に入ってもさっと上がってしまいそうだ。
「悪いけど俺が教えられることはもうない。いや、房中術くらいは教えられるけどキミそういうタイプじゃないしな」
コイツがくノ一だったらよかったのに。
「そう言わず! 是非私の師になってくれ!」
「面倒臭いからパスね。一応一難去ったから俺帰るわ。それじゃあ」
魔族が去った方とは反対の方向にダッシュ。ちなみに人間が追える速度じゃない。
そして近くの森へ。森の中で衣装を脱いだ。
「やべ、元の服持ってくるの忘れちまったな」
素っ裸のまま町へ戻ることを余儀なくされてしまった。
「ほれ、新しい服じゃよ」
「じじい、本当にどこにでも出現するんだな」
「いいからはよ着ろ。男の裸なんぞ見たくないわい」
言われた通り、服を着ることにした。俺だって男の前で裸のままというのは嫌だからな。
「んじゃ俺は戻るから。お前もさっさと帰れよ」
「待て待て。次のクエスト、考えて来たんじゃ」
「早くない?」
「シアちゃんから魔王特性を取り除きたいんじゃろ?」
「そりゃそうだけども。もっとこう、俺が達成できそうなやつにしてくれよ」
「大丈夫じゃ、そのへんも考慮してある」
「わかった、聞こう」
「偉そうじゃな」
じいさんは一つ咳払いをした。




