五話
そうして二時間ほど土いじりをして家に帰ることになった。その間もソニアは俺の姿を見続けていた。正確に言えばソニアは畑仕事を手伝ってくれたので早く終わった。要領がいいのか、ちょっと指示しただけで動いてくれるのがありがたかった。
「あ、そういえばもう肉がなかったな」
帰る途中で思い出してしまった。
「山にでも行く?」
「行くかー。お前はどうする?」
「ついてこうかな」
「また?」
「だめ?」
そうやって上目遣いをするんじゃない。
「おっけー」
女の上目遣いには弱いんだ。
「でも危ないから俺から離れるなよ」
「わかってるって」
そう言いながら俺の腕を抱きかかえた。だからそういうのはダメだって。もしかしたら好きになっちゃうかもしれないじゃん。
「ほら、早く行かないと日が暮れちゃんじゃん」
「さすがにそんなに遅くならないだろ」
「わからないでしょ」
「わかった。わかったから腕を引っ張るんじゃない」
そんなこんなで、一度家に銃を取りに行ってから山に向かうことになった。本当は銃なんていらないのだが、一応人間のフリをしているので指先からレーザービームとかを出すわけにはいかない。もう手遅れ感がないわけでもないが、一応ソニアの前では人間のフリを続けていこうと思う。人間、のはずなんだけどな。
この山はあまりモリモリしていないので歩きやすい。整備された道以外はちゃんと木々が生い茂っているし、普通に動物も出没するので狩りには最適だ。たまーに変なところに突っ込んでいって傷だらけになるがそこはご愛嬌である。
山にやってきた俺たちは、とりあえずそのあたりを飛んでいた鳥を落とすことにした。
「あんなの取れるの?」
「農民兼猟師を舐めるんじゃない」
俺のとうさんがそうであったように、俺もまた農民でありながら猟師なのだ。俺たちの町にはそういう人たちしかいないのだが、そのおかげで魔法なんか使わなくてもちゃんと狩りくらいはできるようになった。
銃を構えてちゃちゃっと鳥を落とす。四羽も落とせば十分だろう。
「やるじゃん」
「これくらいは普通だ次行くぞ」
鳥の足を紐でくくって肩にかける。次は四足歩行してる感じの動物を狙っていきたい。
と、そこにちょうど鹿がやってきた。まだ遠くなのでもう少し近づかないと弾も当たらなそうだな。
「もう少し近づきたいな。大丈夫か?」
「まあ大丈夫でしょ、長袖長ズボンだし」
「ならもうちょっとだけ前にでるぞ」」
「了解」
ソニアを連れて道を外れる。彼女は俺のバッグの紐をつかんでいるので、いなくなってもすぐにわかるだろう。
射程圏内までやってきた。銃を構えて狙いを定める。そして一発で脳天を撃ち抜いた。胴体だと食える部分が減るのでできるだけ頭を狙うようにしている。魔法をつかって視覚情報とかを鋭敏にしているので難しくはない。ちょっとズルいけど。
「よーし、今日の夕食は豪華になりそうだな。お前も少し持ってけよ」
そう言って振り向いた時、違和感に気づいた。
「ソニア?」
そこにソニアの姿がなかったのだ。
「おい! ソニア!」
声を張ってみるが反応はない。さっきまでバッグの紐をつかんでいたはずなのに、鹿を追うことに気を取られすぎてしまった。
「クソっ、どこ行ったんだよ……」
とりあえず来た道を戻っていく。落とし穴なんかがないか、他の動物がいた痕跡はないか、どこかで倒れていないか。そうやって探していくがソニアは見つからない。
少しずつ、冷や汗が増えていた。頭の中は「ヤバい」と言う言葉しか浮かんで来ない。
「いや待て待て。アイツの気配を辿ればいいだけじゃないか」
焦りすぎて自分がとんでもない存在だということを忘れていた。俺の手にかかれば遭難者も一発よ。
そうしてソニアの気配を探すと、少しばかり遠くにいることがわかった。遠くと言っても森の中を進んで坂道を下ったところだ。
「なんだよ脅かしやがって……」
冷や汗が引いていくのを感じる。あのまま行方不明なんてことになったらそれこそ問題だ。俺が近くにいて行方不明というのもヤバいが、ソニアの両親になんて説明したらいいか思いつかないのが一番ヤバい。
「おーい、さっき呼んだだろうが」
気配を辿って坂を登りきった。先ほどから気配は動きを見せていない。きっと俺に意地悪をしたいだけなんだろうとそう思った。