三話
でも追いかけていってなんて言えばいいのかわからない。そのへんもちゃんと考えておかないと同じことになりそうだな。
「その話はとりあえず終わりだ。話をしてもなにも変わらないからな」
「じゃあ他にどんな話をするんだい? お茶をしながらする話なんてないだろう」
「別に世間話とかでもいいぞ」
「世間話をするような仲でもないと思うけどな」
「そもそもほぼ同じ場所に暮らしてるから生活に大した変化がないんだよね」
「基本的にはなにもない場所だからな」
農業中心の町なんてそんなもんだ。
「やっぱりそうなると話し合いは避けられないと思うよ」
「だから拒否られてるんだからどうしようもないだろ」
「となると、やっぱり必要になるよね」
「何がだよ」
「仲介役がさ」
「いらない」
「そう言わないで」
「うるさい。あんまり言うと帰らせるぞ」
「帰らせたいんだ? ホントに帰っていいの?」
「どういう意味だよ。まるでお前らにいて欲しいみたいじゃん。別に俺はお前らがここに来なくてもいいんですけど?」
チラッとローラを見ると悲しそうな顔をしていた。俺に拒否られると泣きそうになるんだよなこいつ。そういうところがちょっと可愛いんだけど。
「ニヤニヤしない方がいいよ」
「してない」
「どうせ胸でも見てたんでしょ」
「胸は見てない。それは断言できる」
「どうだか」
「ローラは俺を慕ってくれてるからな。嬉しいなって気持ちが大きくなっただけだ。ローラはお前らとは違うからな」
チラッとローラを見ると今度は恥ずかしそうに、嬉しそうにはにかんでいた。頬が緩んでおる。
「ほら、ボクとローラがいるだけで気が紛れるでしょ」
「だからってこの家にいていい理由にはならん」
「必殺技の開発に付き合ったのに酷いよね……」
「お前は俺に負けてるだろ。付き合うのが当たり前だ」
「まるで奴隷だね。でもそんなボクたちだからこそ気が紛れてるんだろう? ほら、こうやってればシアに会っても気まずくない」
「シアに会って気まずいなんて思ってないし」
そのときガチャっとドアが開く音がした。音の大きさからして奥の部屋だろう。
そして現れたのはシアだった。
シアは俺を見て目を細める。が、ローラとイズルを見て元に戻った。
「付き合わなくてもいいからね。どうせつけあがるんだから」
なんて言って外に出ていってしまった。
「どれだけ嫌われればこうなるんだか」
「可哀想な師匠……」
「別に可哀想ではない。女ひとりに嫌われたからってどういうことはないんだ。女は星の数ほどいるからな」
「とか言いながらも結構引きずってるからボクやローラと一緒にいるんだけどね」
「うるさいぞ」
こいつ、本気でしばいてやろうか。
シアはため息をついたあとで「それじゃあ」と家を出ていった。行き先を告げないくらいには会話したくないのかもしてない。
「ということで、だ。なんとかしようじゃないか」
「別にいらんけど」
「ホントに? ホントにいいんだね?」
「なんの念押しだよ。しかしまあ、お前がそこまで言うならなんとかしてもらおうという気が起きないでもない」
「どうしてここまで頑固なの……」
「特別になんとかしてあげさせてやろう」
「言語機能に問題が生じている気がしないでもないけど、ボクとローラが手伝いをしてあげよう」
だが待てよ。こいつはなんで俺とシアの間を取り持とうとするんだ。そんな面倒なこと、したいなんて言うやつの方がどうかしてる。
「……で、なに企んでんだ?」
テーブルに両肘をついてからそう言った。少しだけ声のトーンも下げる。
「なにも企んでないさ。少しばかり恩を売っておけば今後なにかしらの形で還元されるかな、って思ってだけだから」
「下心はあるけど取引材料ってわけじゃないんだな」
「そこまでじゃないさ」
「まあいいさ、とりあえずお前らを信じよう」
「任せてください!」
「お前は張り切らんでいい。イズルメインでなんとかしてくれ」
「そんな……」
ローラは余計なことしそうだからな。