二話
ということで、あれからイズルとローラに協力してもらって必殺技の開発を試みた。人がいなさそうな山奥を選んで、それはもう魔法を使いまくった。まあ結果がともなったかと言われると頷けないんだが。
最終的になにもなく家に帰ってきた。人がいなさそうな山をちょっとハゲ散らかしただけで収穫はなかった。
「結局なにをしにいったかわからないな」
イズルがコーヒーを口に運び、ゆっくりと上品に飲んでいた。
「うるせーよ帰れ」
「まあまあ、そう言わないで」
俺を制したローラは、そのデカい乳を俺の腕に押し付けてくる。嬉しいのは間違いないのだが暑い上にどうやって反応していいかわからないから困る。
「その塊なんとかしろよ」
肘で押し返すとちょっと泣きそうだった。
「こればっかりはどうすることもできないんだ……」
「わかった、わかったから泣くんじゃない」
ティッシュを何枚か出して鼻に当てると、ローラはそのまま鼻をかんだ。自分でティッシュ持てよ、子供かよ。
幸いというかなんというか、母さんとスピカは買い物に出ていて家には俺しかいない。少し離れた町まで行ったので帰ってくるのは夜になるだろう。一年に一度のセールがあるとかなんとか。なんの化粧品だか服だか、そんなことを言っていたような気がする。
「今日シアはどうしたんだい?」
ふと、イズルがそんなことを訊いてきた。
「どうでもいいだろ」
「よくないから訊いてるんだよ」
「お前に関係あるか?」
「そりゃ関係あるさ。これから魔王をなんとかしようって時に仲間割れなんかしてる場合じゃない」
「別に仲間割れしてるわけじゃないさ」
俺もコーヒーを飲んだ。
「誤魔化してる」
「べ、べべべべべつに誤魔化してなんかない」
「下手くそ」
下手くそって言われると脳みその奥が揺らされて心臓がドキドキしてしまうのはどうしてなんだろう。
「シアになんて言われたんだい?」
「だからなにもないって」
「私のことどう思ってるのかって訊かれた?」
「ノーコメントだ」
「それに近いこと訊かれたんだろうね」
「だからノーコメントだって」
「それでシアが望んでるような答えを出せなかった」
「相手が望んでる答えを出すことが正しいわけじゃないいだろ」
「やっぱりそれが原因じゃないか」
「誰もそうは言ってないだろ」
「今のキミの返答は「はいそうです」って言ってるのと一緒だよ」
「なんなんだよお前は……」
意地が悪すぎる。
「ちゃんと謝りなよ」
「なにをどうやって謝るってんだよ。俺は悪いことしてないぞ」
「そう思ってるうちはダメそうだね」
大きなため息を吐いたイズル。とてつもなく腹が立つ。
「まあまあ、師匠のことをあまり悪く言わないでくれ」
「俺の味方はローラだけか」
確かにローラは最初から可愛かったな。女としてというよりは小動物みたいな感じだったけど。
「とにかく、関係の改善はちゃんとした方がいいよ。謝るにしろ謝らないにしろ、ちゃんとした話し合いをすべきだ」
「話し合いをしようとしたが拒否された、場合はどうしたらいい? いや、拒否されたわけじゃないぞ? もしもそういう場合だった場合はどうしたらいいかっていう場合だからな? 勘違いするんじゃないぞ?」
イズルはニヤニヤと笑っていた。なんなんだよコイツ。俺を馬鹿にしたいのか気にかけてくれてるのかまったくわからん。
「根気強くやるしかないよ。本気でなんとかしようとして行動してるんだっていうのが伝わればきっと立ち止まってくれるはずだ」
「立ち止まってくれなかったら?」
「諦めない」
「なんだよそれ……」
粘り強く追いかけるしかないってことか。