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101回目の異世界転生!  作者: 絢野悠
十一章:そろそろ転生者引退の時期
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一話〈?〉

「ここにいたのか」

 牛のような頭で身長が高く、筋肉隆々の男が暗闇に向けてそう言った。いや、暗闇の中に誰かがいる。

「仕方がないでしょう、気になってしまうのですから」

 暗闇の中にいた魔族が薄く笑った。より人間に近い見た目の中年の魔族だった。

「進捗はどうだ?」

「まずまずといったところでしょうか。それでもこの方の魔力からすれば、他の魔族の魔力など微々たるもの。それも致し方ないでしょう」

「新しい魔王様も頑張っちゃいるみたいだがな」

「魔力だけならば文句はありませんよ。しかし魔王として考えると、ね」

「まあ確かにな」と牛頭が深くうなずいた。

「人を束ねるような器じゃねえな、ありゃ」

「頭の方が足りてませんからね」

 中年の魔族がゆっくりと首を横に振った。

「なので、私たちには新しい統治者が必要なのです。数多くの魔族が頭をたれても不思議がないくらいの統治者がね」

「俺にはわからねえが、こいつはその資格があるってんだよな」

 牛頭が中年魔族の更に奥の方へと顎をしゃくった。

「当然じゃないですか。この方は本当の意味で魔王になるに相応しい人物なんですよ。直近の二人の魔王など比べ物にならないくらいに」

「とんでもねえ入れ込みようだな。俺にはわかんねーや」

「貴方は好きなように暴れられたらそれでいいタイプですからね」

「そうそう、誰の下につくとかどうでもいいからな」

「貴方にも困ったものです」

 中年魔族がため息をついた。

「そういえばどうしたのですか? 私を探していたようでしたが」

「おおそうだ忘れてた」

 そんなことを言いながら、牛頭は豪快に笑って見せた。

 性格は正反対であり、このようなやり取りはいつものことだ。だからこそ怒ることもなく、ただただため息を吐くだけにとどまっている。

「魔王様が呼んでたぞ」

「私をですか?」

「そうだよ、だから呼びに来た」

「それはまた、珍しいですね」

 顎に指を当てて首を捻った。

 魔王は牛頭のような魔族を好み、中年魔族のような堅苦しい魔族はあまり好きではないようだった。そのため中年魔族は今の魔王とはあまり接点がない。

「力を貸してほしいとかなんとか」

「私の力ですか? 魔王様に比べれば魔力はそこまででもないはずですが」

「倒したいやつがいるとか言ってたな」

「それで私に声をかけるとは、ない頭の割には考えたみたいですね」

 ふふっと鼻で笑い、部屋の奥へと視線を向けた。

「ひでえ言い方だな」

「せいぜい新しい魔王の糧となってもらおうではありませんか」

 月明かりが部屋に差し込む。そこには氷漬けにされた褐色の少女の姿があった。

「待っていてくださいシア様。必ずや貴女を魔王にしてみせましょう。あの伝承のように、最強の魔王に」

 そう言って、中年魔族が少女に背を向けた。

「行きましょうか。魔王様に力を授けねば」

「その顔、なにか企んでるな」

「さあどうでしょうね」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 そして階段を登って魔王のもとへ向かう。

 魔王パウルはまだ知らない。部下が自分を尊敬していないことも、自分を信頼していないことも、まだ知らない。

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