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101回目の異世界転生!  作者: 絢野悠
十章:モテ期は誰にでも訪れる
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十二話

 また今度じじいに訊いてみるか。


「で、泳げなくてその場で上がったってことか」

「まあそういうことだな」


 そりゃそうか。この人類で俺より水泳が得意なやつはいないだろう。


「しかしお前、すごいな」

「すごいってなにが? 泳ぐのが早いってことか?」

「いや、泳ぎ方がすごいなって話だ」

「まあ、普通ではないな」

「普通ではないという感じでもないと思うが……」


 パウルは怪訝そうにそう言った。


「ちなみにどうやって泳いでた?」

「手足を伸ばして指先をくっつけて体を横に揺らすように泳ぐ」

「たぶんだが普通ではない」

「人には人のやりかたってのがあるんだよ」


 たぶん水しぶきとかでちゃんと見える人は少なかっただろう。が、グッピーの影響で魚みたいな泳ぎしかできなくなってしまった。当然だが息継ぎなどないため、早く泳いで勝負しないといけないのだ。


 まあグッピーの影響で水中でもある程度呼吸できるけど。


「周囲の人たちを見てみるといい」


 そう言われて周囲を見渡す。なんかみんな気持ち悪そうに俺のことをみているじゃないか。


「なんでこうなるわけ? 勝ったの俺なのに」

「一回も息継ぎしない上にあんなとんでもない速度でゴールすればそうなる」


 擬態に失敗したってことか、俺もまだまだだな。勝負と言われてついつい本気を出してしまった。そのせいでこんなことになるなんて。


「まあ別に知らんやつのことはどうでもいい。俺の人生にさほど関係ないわけだしな」


 俺はこの108回という転生を経て、他人の目を気にしすぎないという特技をものにした。


「とにかく俺が勝ったんだな? じゃあ優勝商品は俺のものだな? 本当にいいんだな?」

「仕方ないな。今回は諦めてやろう」

「仕方ないもクソもないけどな。ちゃんと勝負にも勝ったわけだからこの分身も消せよ?」

「魔王城の障壁は消えてしまうが仕方がないな」


 パウルは北叟線でから「ではまたな」と言って指を鳴らした。


 次の瞬間、パウルの体が空中に溶けで消えていった。なんというか、出会い方さえ違ったらいい友人になれたような気がするな。


「さて、帰るぞお前ら」


 そう言って振り返る。


 しかし、そこには誰もいなかった。


「帰りやがった……」


 そんんあ馬鹿なと思うかもしれないがアイツらならやりかねない。意図的に帰るというよりは「割りとマジで俺の存在を忘れてる」という可能性がすごい。っていうかたぶんそう。


 そんなこんなで、俺は一人でプールから出ることになった。どうして世界は俺に厳しいんだろうな。


 結局その日、俺は一人で帰ることになった。なんでかってーと、シアに絡んでいた三人のチンピラに「あねさんは先帰るって言ってました」と言われたからだ。


 実はあのチンピラ、見た目はチンピラだが郵便の配達員や、王都と僻地を行き来する商人だったりするようだ。そこでシアと知り合ったのだと言う。シアのことを「あねさん」と呼ぶのは、彼らがモンスターに襲われていたところをシアが助けたかららしい。


 ということで俺は一人で馬にまたがり帰ることになったわけだ。


 馬に乗って数分間走ったところでなにやら雲行きがあやしくなってきた。この世界には天気予報というものがないので天気を見て出かけるというのはなかなか難しい。


「降りそうだな……」


 なんて独り言ちって手綱を振った。


 しかしその時、なにかが前に飛び出してきた。急に止まるほど近くないため、馬をゆっくりと停止させた。


 思わずため息が出た。ここで会いたいような相手じゃないからだ。正直この先ずっと会いたくはない。


「なんでお前がここにいるんだよ」


 目の前には一人の男が立っている。


「俺は執念深いんだ」


 そう、魔王パウルだった。プールで勝負したときよりも少しだけ背が伸びた、ような気がする。ガッチリとしている感じもあるな。


 やっぱり、分身を一人倒すごとに他の分身が強化される的ななにかがあるんだろう。何度かパウルを目にして、たぶんそうなんだろうって思う。


 ちなみに二回倒したのであと五回倒さなきゃいけないことになる。今目の前にいるやつを倒せばあと四回か。


「また勝負をふっかけてくるつもりか?」

「そういうことだ」

「今回はなにをするつもりだ? ランニングで競争でもするのか?」

「それも悪くない。だが、やっぱり俺たち二人だけなら一つしかないだろ」


 パウルがニヤッと笑ってみせた。


「結局そうなるか」


 ため息を一つついた。


 馬から降りて、馬の尻を叩いた。


「行っていいぞ。ちゃんと家に戻れよ」


 俺がそう言うと馬が走り出して、どんどんと小さくなっていった。家の方に向かって走っていったからたぶんだいじょうだろう。


 パウルは見るからにやる気満々だ。体中に魔力を循環させて、いつやりあってもいいと言わんばかりだ。


「優しい男だな。巻き込まないように馬を逃したか」

「別に普通だろ」

「いや、間違いなく優しい。そしてそこがいい」

「お前にいいって言われても嬉しくもなんともないが」

「魔王に褒められたんだぞ、嬉しがっておかしくなどない」

「だから魔王に褒められても嬉しくないんだってば」

「なぜだ! 俺は魔王だぞ!」

「話が通じないのはマジでやばいって」


 誰だよコイツ魔王にしたの。


「とにかく、俺はお前とやりたいんだ」


 少しずつ、少しずつ魔力が膨れ上がっていく。正直なところ大したことはない。確かに一般的な魔法使いなんかから見れば縮み上がるくらには強力だが、俺やシアやイズルからしてみれば「ワンパンは無理だけどちゃんとやれば疲労することなく勝てる」くらいの魔力だ。山で戦ったのは俺の分身みたいなもんだったので、本来のパウルはこの程度なんだろう。

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