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101回目の異世界転生!  作者: 絢野悠
十章:モテ期は誰にでも訪れる
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十一話

「でもまあシアを渡すわけにはいかん」

「となればやることは一つしかないな」

「それはそうなんだけどここじゃちょっと」

「そうだな。人の邪魔になるしな」


 物わかりよすぎか。なんか本気で憎めない存在になってきたぞ。


 魔王は周囲を見渡し、思いついたようにプールを指さした。


「あれで勝負だ」

「もしかして水泳か?」

「そうだ。負けた方がその女をいただく」

「名前はシアな。ちゃんとしないと女の子は怒るんだぞ」

「そうか! ありがとうな!」


 なんだよコイツ、めちゃくちゃいいヤツじゃん。


「ちなみに俺の名前はパウルだ」

「衝撃の初出し」


 ここで始めて名前が出るっていうのもすごい。


「で、やるのか、やらないのか」


 50メートルのプール。割りと泳ぎには自信があるのでこの提案はありがたかったりする。


「ルールは?」

「200メートル自由形だ」

「ホントに今思いついた? 前々から考えてたよね?」


 即答がすぎる。


「そんなことはない。さあ、やろう」


 ここまできて断るのもなんかよくないな。というよりも普通に戦闘するよりもイージーかもしれない。


「わかった」


 俺がそう言うと魔王パウルはニカッと笑ってからプールに向かって歩いていった。

「うし、やったるか」


 俺は腕をぐるぐる回しながらそのあとを追った。


「はーい、観客の方はこちらに並んでくださいねー」


 なぜかよくわからんがネティスが列を整理していた。


 この辺はあまり気にしないようにしてスタート台の上に立った。


 と、どこからともなくゴーグルとキャップが飛んできた。あまりにも高速で飛んでくるもんだから避けそうになってしまった。


 ゴーグルが飛んできた方向を見ると、シアが不服そうな顔をして睨んでいた。


「しっかりしなさい」


 声は聞こえなかったが、口の動きだけでなんとなくわかった。


「それじゃあ位置について!」


 やる気満々のピルがどこからともなく取り出した拳銃を上に向けた。


「ここまでの展開が早すぎるって」


 勝負が決まってから数分である。


 しかしちゃんと飛び込みの準備をするあたり偉いな。


「よーい!」


 全身は柔らかく、けれど蹴り出せるように最低限筋力は収縮させる。


 そうして、拳銃が火を吹いた。


 二人同時に水に飛び込んでいく。けれど水に入った瞬間、パウルの姿は完全に見えなくなる。当たり前だ。相手を気にしているような余裕はない。


 だがパウルは知らない。俺が幾度となく転生を繰り返してきたということを。


「最初から、フィーバータイムだ」


 思い出せ、あの頃の記憶。


 ちなみにあの頃、とはグッピーである。


 ぐんぐんと速度を上げていく。自分でも驚くほどの速度で水の中を進んでいく。華麗に一度目のターンを決めて更に泳いでいく。二度目、三度目のターンもさっと決めた。


 伊達に五回もグッピーやってないんだよこっちは。


 そして手が壁に当たって顔を上げた。


「いい泳ぎっぷりだったな」


 スタート台の上に座り、俺を見下ろすパウルの姿があった。


「そんな馬鹿な」


 泳ぎで俺が負けるなんてありえない。というか泳ぎで負けたら俺の存在価値にも直結しかねない。グッピーとかスライムしか転生させてもらえなかったんだから。


 手を差し出された。


「上がれよ」


 俺は無言で手を取った。プールから上がってため息を付いた。コイツとの勝負に負けたってことはシアを奪われるということだ。


「悪いがあの約束はなしだ」

「あの約束とは?」

「シアを賭けた勝負のことだ」

「なし? そういうわけにはいかないな。勝負は勝負だ」

「そうか、なら――」


 魔力を拳に込める。


「こうするまでだ!」


 目一杯の力を込めて拳を突き出した。その拳は魔王の胸をたやすく貫通した。


「え、いや、そこまでするつもりは……」

「じぶんでやっておいてよく言う」


 しかしパウルはなんでもないように、俺の拳をスポッと抜いた。


「分身なので別に問題ない。それとなにか勘違いしているようだ」

「勘違い?」


 俺がなにを勘違いしてるっていうんだ。もしかしてあの約束、俺が考えてるのとパウルが考えてるのでニュアンスがちがったのか?


 パウルは歯を見せて笑う。


「お前の勝ちだ!」

「意味がわからない」


 先にプールから上がっていたということは、俺よりも圧倒的な速さでゴールしたってことじゃないのか。


「俺は泳いでないからだ!」

「びしょ濡れじゃねーか」

「プールには入った。でも自分が泳げないことを知らなかったんだな」

「自分のことなのに」


 ここ最近、パウルを相手していて気づいたことがある。悪いやつではないが途方もないバカであるということだ。


「まだまだ生まれたばかりだからな、自分のことも、この世界のことも知らないことばかりだ」


 それでも生まれた瞬間からある程度の知識がある。


 その点においていくつかの疑問があるのは事実だ。学習もせずにある程度の知識を持った状態で魔王になるということ。それはおそらく、俺やイズルと同じなんじゃないかということだ。

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