六話
ここに来たのはなにか話があるからだろう。重要かどうかは知らないが。
「で、今日はなんのようだ」
「分身倒したじゃろ。神様コインじゃ」
「急に手渡し」
いつもはこんなことしないのに。
おそるおそるコインをもらっていつもの袋の中に入れた。
「それだけ?」
「それだけだと思うか?」
思い切り禿頭をひっぱたいた。
「ノータイムでそれは困るんじゃが」
もう一発くれてやった。
「痛い……」
「で、次の用事は」
「そろそろビーチ回でもいいかなと思って」
「マジでどうしようもねえなお前」
ドスケベハゲジジイは始末に負えない。
「で、ビーチ行く?」
「まだ行かない」
「なんで?」
「ちょっと遠いから」
「理由が小さい」
「とにかく次は一番近い点、山の方に行こうと思ってる」
「また山じゃ……」
「俺に言うなよ。分身配置したの魔王のやつだろ」
「もうわかっているとは思うが、今回の魔王はちょっと頭がな」
「まあ頭弱そうだなっていうのはなんとなく理解した」
語彙力もないし戦闘スタイルも突っ込んでくるだけだからな。脳筋であることは間違いない。
「マジで山行くの?」
「山の次にビーチにするから文句言うな」
「マジか!」
「喜び方が気持ち悪い。とにかく次は山だ」
「でもなんであの魔王は山好きなんじゃろうか」
ブーブルマップを見ると、一つはビーチ、二つが山、一つが森、一つが町の中である。前回の分と合わせると山に設置された分身は三体になる。
「置いておきやすいんだろ。たしかに楽だろうな。障害物もあるし」
「まあ好みは人それぞれじゃからのう」
なんて言いながらじじいはひげを触っていた。
「話がそれだけならさっさと帰れ。いつまでもお前の相手をしているほど暇じゃないからな」
「暇なくせに」
「お前に割いてる時間はない」
「まだ話さなきゃならんことがいっぱいあるじゃろ」
「例えば?」
「恋バナじゃ」
じじいは頬を染めてウキウキしていた。
「その年で恋バナとか言ってんじゃねーぞ」
「他人の恋路は気になるもんじゃ。それで、ソニアちゃんを選ぶのか?」
「選ばん。今のところは」
「じゃあ可能性は十分あるってことじゃな」
「なに、お前ソニア贔屓なの?」
「そういうわけじゃない。シアちゃんも応援しとる」
「応援って、シアが俺のことをどう思ってるかもわからないだろ」
「お主は本当に鈍感じゃのう」
「どの部分が?」
「全部じゃ」
じじいにため息つかれるとなんかムカつくな。
「シアちゃんは間違いなくお前に気がある。恋愛マスターのわしが言うんじゃ、間違いない」
「その恋愛マスターっていう称号が嘘なのに会話の内容を信用しろってのがまず問題なんだけど」
「とにかく大丈夫、お主は今モテ期じゃ」
「大丈夫の意味はよくわからないけど、調子に乗っていいってことでいいんだな?」
「そういうことじゃ。しかし、モテ期だからといってなんでもしていいわけじゃない。ちゃんと二人で階段を登って行かないとな。そのためには一人を選ぶ必要はあるんじゃがな」
そう言われると難しい。ソニアのこともシアのことも好きだが、恋愛感情込みかと言われるとちょっと違う。
「まあゆっくりと考えるといい」
じじいは「じゃあの」と言ってドアを出ていった。いつもいつも好き勝手に言いたい放題で帰っていきやがる。
「くそっ」
恋愛なんてよくわからない。考えたって答えもでてこないから、俺は布団に飛び込んで頭を抱えた。
自分の気持ちがわからない。この先わかるようになる日が来るのだろうか。そんな不安に苛まれながら俺は眠りにつくことにした。