二話
ガツン。
頭いてー。
障壁を破られ、障壁を強化し、障壁を破られ、障壁を強化し。なんてクソみたいなやり取りを繰り返しながら今にいたる。
その後、俺は馬でソニアと一緒に王都にやってきたわけだ。
馬に乗っている時に胸が背中にあたっ――。
「あたあーーーーーーーーっ!」
後頭部になにかが直撃。砕けたピーナッツが地面に転がっていた。いや、砕けていた。おそらくコインはコストがかかるとようやく理解できたんだろう。
なのでピーナッツと言えどめちゃくちゃ痛い。思わず後頭部を押さえてしゃがみこんでしまった。ちょっと過去回想しただけでこれかよ。
「強化魔法使ってまでやることか……」
ピーナッツの強度を上げてまで俺の後頭部にぶつけたかったのかそうか。
「どうしたの、大丈夫?」
顔を上げるとソニアが前かがみになっていた。
「おうふ」
非常に発育が良いので目の前に谷間がある。あれが俺の背中に当たっていたのか、なんて考えるとなかなか興奮する。
そしてピーナッツを破壊する。避けると関係ない人にも当たってしまうので、ある程度予想して破壊するのが一番いい。
内心ドヤりつつも「大丈夫さ」と言いながら立ち上がった。
ところにピーナッツがドーン。
涙をこらえながら再度歩き出した。最初のやつがフェイントだなんて誰も思わないだろう。
そんなクソみたいなやり取りを繰り広げながら、俺はソニアと一緒に王都を見て回った。
様々な店で服を試着するソニア。それを見て感想を言う俺。後方からピーナッツを飛ばすシア。太っていくビリー。
ご飯を食べて、歩いて、デザートを食べて、アクセサリーを見て。そんな完全なるデートをして一日過ごした。こんな幸せな日常があっていいのかと思うくらい完璧なデート。今まで感じたことがないような、妙な達成感があった。
遊びすぎて太陽が沈んでいくのも気にならなかった。そのせいで、最後の店を出た時には空は茜色に染まっていた。
「行きたいところあるんだけどいい?」
「なんだよ、いつもは有無を言わさず連れて行くくせに」
「今はそういう気分なの」
「まあいいけど。ここまできてヤダって言うのも違うだろ」
「じゃあ行こう!」
ソニアが俺の手を引っ張った。柔らかく温かな手が俺の手を包み、なんだか気恥ずかしくなりながらも黙ってついていくことにした。
ピーナッツは、飛んでこなかった。
そうしてたどり着いたのは王都にある高台だった。それなりに歩いて、高いところにある公園の一角だった。
「こんな場所よく知ってたな」
「おじいちゃんが住んでるからね、昔はよく来てたんだよ」
「そういえば昔聞いたことがあったな」
「いつかさ、ここにアルと来たいって思ってたんだ」
そう言って、公園の中へと入っていく。するりと手が解かれて、俺は自分の足でソニアについてく形になった。
高台の端に到達して、ソニアは手すりに両手をついて王都の景色を眺めていた。茜色に染まった、広い広い王都を見下ろしていた。
「なんで俺となんだ?」
「この景色を見せてあげたいって思ってたから。綺麗じゃない?」
「まあ確かに綺麗だな」
こんな景色を見ることはなかなかない。高低差もさることながら、人工物がここまで広がっている風景は王都くらいしかないからだ。
夕日に照らされたその景色は情緒あるものだった。
そういえば、こういうふうに景色を楽しむことなんてなかったなとふと思ってしまった。それだけ俺は余裕がなかったのかもしれない。何度も転生を繰り返して、生きることに精一杯だったから仕方ないと言えば仕方ない。
生きることに精一杯……だったか? 非常に楽しく過ごしてたと思う。楽しすぎたせいで景色とかどうでも良かったのかもしれない。
「ねえアル」
声をかけられてソニアに向き直った。
とても綺麗だった。茜色に照らされて、温かく、柔らかく、それでいてすごく艶やかに見えた。
「な、なんだよ」
ドキドキしてきた。いや違う。最初からドキドキはしていたんだ。
ソニアが急に大人っぽくなったことには気づいていた。妙に距離が近いこともわかっていたし、俺のことを意識してるのかもしれないとか思ってた。
「シアのことどう思ってる?」
いきなりの質問に困惑した。俺が考えていた質問と違ったからだ。
どう答えればいいんだろう。どう答えたら正解で、どんな答えを望んでいるんだろう。
そう考えて、正直に応えることにした。
「よくわからん」
「わからないってどういうこと? 一緒に住んでるんでしょ?」
「それはアイツに宿がないからだ。家がないんだし仕方ないだろ」
「そういうことじゃないんだって。シアと一緒にいてなんか感情が動いたりすることがあるでしょうってこと」
俯いて考えた。
シアは小さくて可愛いと思う。なにげに健気だし、へんなところが不器用で愛らしい部分もある。かと思えば見た目以上に行動が激しかったりする。それもまあ悪くはない。と思っている。
それでも言えることは多くはなかった。