十四話
くたくたになって家に帰った。シアには殴られるし自分のそっくりさんもとい魔王の分身と殴り合うハメになるし散々な一日だった。だがクエストは完了した。あと六体いると考えれば憂鬱だが、一体倒せればあとはまあなんとかなるだろ。
土埃にまみれた体を風呂で洗い流し、母さんが作ってくれた夕食を食べて、大きなため息をつきながらベッドに寝転んだ。
天井にじじいが張り付いていた。
「うわああああああああああああああああああ!」
「いやああああああああああああああああああああああああああ!」
俺が叫ぶとじじいも叫んだ。
「なんでてめえが叫ぶんだよ!」
思わずタブレットを投げつけてしまった。
「痛い」
じじいにヒットして、タブレットとじじいが一緒に落ちてきた。俺はタブレットを素早く受け止め、じじいは壁の方へと蹴り飛ばしてやった。画面は傷ついてないしスリープもちゃんと解除できる。
「よし、壊れちゃいないな」
「ワシのことも心配しとくれ」
いつの間にか床に座り込んでいるじじい。不機嫌そうに頬を膨らましているのがまた腹立たしい。
「なんで俺がお前の心配をせにゃいかんのだ」
「神様じゃぞ?」
「神様なら心配する必要ないだろ」
「ワシだって心配されたい!」
「うるせーはっ倒すぞ!」
って言いながらタブレットを投げつけた。ハゲ頭にガツンと当たり、タブレットが床に落ちた。
「やば、俺のタブレットが」
「ワシの心配……」
ハゲ頭がちょっとだけ凹んでいたので思わず笑ってしまった。そんな俺を見てじじいは泣きながら不機嫌そうな顔をしていた。どっちかに寄せてくれ、俺もどうやって対処していいかわからない。かといって対処するつもりもないが。
「もう、プレゼントも持ってきてやったというのに白状じゃのう」
「じゃあプレゼント置いて帰れよ?」
「白状というか残酷じゃな。感情がない」
「感情がないわけないだろうがクソが」
「なんでワシに対してそんなに態度悪いの? ワシがなんかした?」
「この状況がお前のせいだろうがよ」
「確かに!」
急にテンション上がるの怖いんだけど。不安定過ぎて一歩引いてしまう。
「で、プレゼントってなんだ?」
「ほれ、これじゃ」
じじいが投げて寄越したのは一枚のコインだった。満面の笑みを浮かべたじじいがデザインされている。
「なんだよこのコイン……」
「ニュー神様コインじゃ」
「なんでそういう余計なことするんだよ」
前の無地のまんまでいいんだけど。
「これなら神様コインだってするわかるじゃろ」
「それはいいけどデザインはもうちょっと考えろよ。誰がじじいの顔見て喜ぶんだよ。肌身離さず持ってても良さそうなデザインにしろよ」
「神様がデザインされてるんだから持っててもいいじゃろ。お守りっぽくない?」
「この世界にお前を主神とした宗教があれば認めてやらなくもない」
「え、知らんの?」
と、ここでじじいがちょっとだけよそよそしい反応をした。
「え、マジで?」
この感じ、もしかするともしかするのかもしれない。
「ちゃんとあるぞよ、ワシを主神とした大きめの宗教が」
「ヤバそう」
「ヤバそうっていう感想は良くない。これでもこの世界を創造したんじゃから、そりゃちゃんとした宗教になっていてもおかしくはないじゃろ」
「ちなみになんて宗教だ?」
「グランガスタ教じゃ」
「お前グランガスタって名前なの?」
「まあ人類はそう呼ぶのう」
「知らなかった……」
今明かされる神様の名前。
しかし、だ。俺はそのグランガスタ教という名前を聞いたことがない。
「本当にあるのか? そんな宗教聞いたことないぞ」
「極西で作られた宗教でのう、このへんでは違う名前で派生していたりするみたいじゃ」
「つまりグランガスタ教のガチガチの信者は少ないのでは……?」
「そんなことはない。派生宗教もまたワシの子じゃ」
なんか頭が光出したがどういう構造になってるんだろうか。
「まあいい。神様コイン渡したならさっさと帰りな」
シッシッと手を振った。
「わかったわかった。じゃがこれだけは言っておこう。今すぐにシアちゃんのところに言った方がええぞ。ちゃーんと埋め合わせはしないとな」
じじいは「ほっほっほっ」とその場で色あせていった。文字通り、ゆっくり、ゆーっくりと薄くなっていった。
「どういう消え方だよ……」
だがじじいが言うことは正しい。アイツともちゃんと話しをしなきゃいけないし、神様コインの使い方も二人で考えたいところだ。