十三話
分身は突進して拳を突き出してくるのだが、俺は当然のように分身の攻撃を避ける。直情的すぎるのでわりと簡単に回避ができる。その分身に対してシアが右ストレートを脇腹にぶち込む。そうすると分身の意識はシアに向き、今度は俺の右ローキックが分身の左足を崩す。体勢がぐらりと揺れたところでシアが顔面にアッパーをブチかます。そうやって即興の連携で分身を攻撃し続ける。
「動きが遅い!」
ちょっとテンポがズレただけで叱られる始末。
「だったらお前が合わせろよ……」
なんて言いながらも攻撃のテンポを修正。
たまに背中同士をぶつけながらも俺は俺の分身を攻撃していった。
ある程度までいくと分身は立ち上がれないくらいまでになった。本体の俺だってこれだけ殴る蹴るされれば立ち上がれないと思う。
「よし、いい感じにボコったな」
「意外とあっけなかったわね」
「ボクが魔法を防いでいたおかげもあるからね」
「分身は大して魔法を使ってないけどな」
時々役に立ってたっぽいのはわかってたけど。
「とにかくこれで終わりだ。一体目の魔王の分身討ち取ったり」
そう言って手をかざして魔力を込めた瞬間、シアが分身の頭を踏み潰していた。物理的に生命体なわけではなく、あくまで魔力の塊だと思うのだがグチャッと頭が潰れたのは衝撃的だった。っていうか魔王じゃなくて俺の顔してたのに躊躇なく踏み潰したなコイツ。俺に対しての鬱憤を晴らしてないかこれ。
分身の頭は非常に柔らかくスライムみたいな感じで周囲に飛び散った。そして飛び散った頭部の残骸が運悪くシアの顔面に直撃したのは面白かった。
シアは拳を握りしめてワナワナと震えているのだが自業自得だ。ボスを倒す役を横取りしたんだからこれくらいの報いは受けて然るべきだ。
「まあ、まあそういうこともあるよな」
笑いをこらえながら肩を叩いた。
「うるさい」
キレながら腕を振り払い、分身の亡骸をめちゃくちゃに踏み潰していた。ヒステリーかよ。
「まあ、まあ落ち着けって」
マントでシアの顔を優しく拭いてやる。するとシアは不機嫌そうではあるがやや恥ずかしそうに「ありがとう」と言った。
が、次の瞬間には顔をしかめていた。
「これ、私のマントじゃない……?」
「よくわかったな。レッドスカーレット御用達の真っ赤なマントだけどなにか問題でもありました?」
「ふんっ!」
蹴りが空を切った。これくらいはまあ避けられるさ。でも顔を拭くくらいの至近距離で蹴りを外すっていうのはなかなかレアな状況だ。
「脚が短いからかな?」
「殺す」
「どうしてキミは煽ることしかできないんだい?」
霧が晴れていく中で俺とシアのおいかけっこが始まった。しばらくすればシアの気持も落ち着くだろう。最悪は一発くらい殴られても問題ない。シアの攻撃くらいならある程度は耐える自信があるしな。
こうして分身との戦いは一応終わった。まだ一体目なのであと三回は似たようなことをしなければならない。しかし三回も同じようなことするのかと考えるととてつもなく退屈である。遠方から分身がいる山とかふっとばした方が早いんじゃないかと思ってしまうくらいだ。しかしそうはならないんだろうなという漠然として確信めいたなにかがあるのは間違いない。
ローラのことはイズルにまかせておいてシアのストレス発散に付き合うことにした。早く帰してくれればいんだが……。