九話
しかし、本人から言われると俺ってかなり低俗ながらも精神的に酷いことしてたんだなとか思ってしまった。
いやでもなんというか、ちょっと可愛かったんだよなあ……。
「よし、とりあえずは協力して今回の件を片付けような!」
「わかった……」
まだぐじぐじと泣いているがそこまで構ってる暇はない。シアとローラも心配だし早めに回収するに限る。
「はい、それじゃあお手々つないで仲直りな! じゃあ行くぞ!」
「え、ちょっと待って――」
問答無用でイズルの手を引っ張った。
右手でイズルの手を掴み、左手でタブレットを持ち、肩にはピルを乗せている。なんだよこの状況、とは思うが仕方がない。
「ねえ、いつまで手を繋いでるつもりなんだい?」
顔を真っ赤にしながらイズルが言った。
「ローラを見つけるまでかな、どこかに行かれても困るし」
「どこにも行かないってば」
「しかし離さん」
「なんでさ……」
女の子と手を繋いでいるという状況は男の子にとってとてつもないステイタスだからにほかならない。常に女の子とスキンシップしていたいというのは男の子が持つ非常にわかりやすい煩悩であるからだ。
森の中を進んでいくと仰向けになっているローラを発見した。腹ので指を組んで、まるで眠っているように見える。
「ローラ……?」
声をかけると耳がピクリと動いた。ゆっくりと瞼が開かれていく。
「師匠」
「返事をする前にまず起き上がるという選択肢はないのか」
「考え事をしていた」
「話を続けていくー!」
こっちの話を聞いてるのか聞いていないのかわからないのでちょっとだけ怖い。
「私はこのままでいいのか、と」
「俺の意見としてはこのままだとヤバいとは思う」
もうちょっと頭の体操した方がいいんじゃないかな。短絡的だし。
「そこでもうちょっと落ち着こうと思った次第だ」
「わざわざこんなところでやらんでもいいのでは?」
地面に寝転んで指を組んでるのは落ち着きがとかっていうか人としてちょっとやば目だからな。
「さきほども強烈な気配を感じて気配を追ってきたらドラゴンと遭遇し、つい討伐までしてしまった」
周囲を見ると割と太めな尻尾が見えた。霧のせいで本体は見えないが、この尻尾の感じだと全長数十メートルはあるんじゃなかろうか。
「でも魔物を倒すのはいいことなんじゃないか? 無害なやつを倒すのはあんまりいいとは言えないけども」
「私はこのままでいいのだろうか」
「っていうかなんでそこを疑問に思ったんだ?」
「ふと、お母様のことを思い出してな。私も女性としての気品を身に着けたほうがいいのかと思ったのだ」
「なるほど、お前の母ちゃんはすごく落ち着いたお嬢様だったんだな」
「いいえ、母は剣聖なのですごく強く、昔から豪快だったとお父様が言っていた」
「剣聖、血筋説」
驚愕の新事実だわ。
「いや待て待て、母ちゃんのこと思い出してどうして落ち着きがどうのって話になるんだよ」
「お父様が上品に生きろ、と」
「妻と娘がこれじゃあな、仕方ないとしか言いようがないな」
「しかし私には剣しかない」
「絶対母親のせいだろ」
「今からでも変われるだろうかと悩んでいたんだ」
「だからってわざわざマジで今地面に横になる必要はねーんだよなあ」
真面目だっていいうのはわかるんだけど間違いなくバカなんだよ。可哀想だけどバカなんだ。
「その件はまた手伝ってやっるから今は魔王の分身を倒す手伝いをしてほしいんだが」
「師匠がそう言うなら」
ようやくローラが立ち上がる。これで前に進めそうだ。
「よし行くか!」
やる気になってくれたようでなによりだ。
「帰ったら手伝ってもらうからな」
「わかったわかった」
小指を差し出してきたので小指を絡ませて約束した。
「嘘ついたら斬魔絶叫剣十連発の刑ー、指切った」
「必殺技やめろ」
これだけでかなり疲れてしまった。
「そういやお前の家族のこと聞いたことないな」
「大したことはないが、それでも聞くか?」
「母親が剣聖って時点で大したことあるんだけど聞くわ」
気になって仕方がないからな。
「母は剣聖、父は財務大臣、兄は官僚、弟はまだこれから先がある十二歳だ」
「なんでそんな面白そうな家族構成で黙ってられたんだ?」
「ちなみに母方の両親は豪商、父方の母は元騎士団長で父が薬剤師だ」
「母親強烈なの多くない?」
「ちなみにまだ母には勝てない」
「お前が勝てないっていうのは相当ヤバいレベルだと思うけど」
イズルをぶっ倒したやつが勝てないのは世界最強クラスだ。正直戦うことがないことを祈るしかない。
「母親に感化されて剣士になろうと思ったのか?」
「いいや、お母様にお前には剣しかないと言われた」
「どうしてそうなっちゃったのかが疑問だな」
「単純に頭が良くなかったんだな」
「頭が悪いとは言わないんだな」
あんまりこの話を長引かせるとローラが可哀想になるのでこのへんで切り上げた方がいいかもしれない。
「とりあえずシアを探しに行く。今度は離れるなよ」
「ああ、もちろんだ!」
「全然信用ならんのはなんでだろうな」
そんなこんなでローラを仲間に加えてから青い点を目指して歩くことにした。