七話
「はっ……!」
意識を取り戻した。左右に首を振って周囲を確認するがまだ森の中にいるらしい。いつの間にかそこそこ深めの霧が立ち込めていた。
ってそうじゃない。
「誰もいねーじゃん」
仲間とはぐれたとかじゃない。アイツら勝手にどっかに行きやがった。
「なんで俺を置いていくんだよ」
ここまで連れてきたのは俺なのに。というか気絶してるやつ置きっぱなしでどこかに行くっていうその精神がどうかしてる。
「ぷぴー!」
と、そこでピルが俺の元にやってきた。
「アイツらの居場所わかるか?」
「ぷっ」
可愛くうなずいた。
「めちゃくちゃ可愛いんだけど人型になってくれると意思疎通しやすいかな」
頭を撫でながらそう言うと、ピルは不服そうにしながらも人型に変身した。
「って全裸じゃないの」
なるほど、豚の状態で全裸だったらそりゃそうなるか。
ブラックノワール用のマントを取り出してピルの体に巻き付けた。一応胸周りと下半身は隠せたからいいだろう。
「だからあのままだったのに」
頬をふくらませるピルに頭を下げる。
「悪かった」
不服そうだった理由がわかった。そりゃピルも女の子だもんな。
「で、アイツらは?」
「シアがあっち、ローラがあっち、イズルがあっち」
「なんで別々の方向行くの? アホなんかアイツら」
遊びに来てる感覚なのかなんなのか。
おそらく、シアは俺にブチ切れて頭に血が登ったまま一人で突き進んだだけなんだと思う。ローラは正直よくわからん。なんか動物とか追いかけそうだし。イズルはなんだかんだとおそらく一番信用が置ける。
「よし、とりあえず動くか」
ピルが指差した方向へと歩みをすすめることにした。
こうして仲間を一人ずる回収する作業をする羽目になったわけだが、クッソ安いRPGのイベントみたいになってて本当に笑えない。しかも「魔法の影響で森の中ではぐれました」とかじゃないから。勝手に歩いてったから。それが一番ヤバい。
「っていうかなんでお前も止めなかったんだ?」
責任転嫁ではない。仲間として言っているんだ。そう、これは責任転嫁では決してないのだ。
「なんていうか話しかける間もなくて」
「そんなすごい速度でどっか行ったってこと?」
「うん。シアはずんずん歩いていったけど、ローラとイズルはなんだからかなり急いでたみたい」
「なんか魔力とか感じたか?」
「ちょっとだけ。なんだか森全体をふわっと包み込むような感じだったよ。そのあとで二人がどっかに行っちゃった」
「この霧と関係あるのかもしれないな」
こういう時の相場は「霧が幻覚を見せている」っていうパターンだ。ちなみに俺には効かなくても仕方がない。レベル差というものが存在するからな。ピルはまあ、人じゃないからかな、たぶん。
「魔力で探せない?」
「一応ずっと探知はしてるんだがな、ピンとくるような魔力がない。それもまた霧が原因なのかもしれんな」
「どうするの?」
「そりゃ吹っ飛ばすでしょ」
右手に魔力を込めて、そのまま風魔法で周囲の霧をふっ飛ばした。
が、予想よりも簡単にはいかないらしい。
ある一定の位置から霧が散らなくなっている。普通の霧であれば森の中の霧すべて消えてもおかしくないというのに。
「人為的な力が加わってるな。アイツらがいなくなったのもこの霧のせいだな」
霧も消せない、魔力も探知できない、魔王の分身も探せない。これじゃなんのために来たのかわからんな。
「そういえば」
タブレットを取り出して魔王の位置を確認する。まだ数キロ先にいるようだ。
「それ使えるの?」
ピルが俺の頬に自分の頬を当てて覗き込んできた。
「強引かよ」
「この赤い点は?」
「敵の位置。ここに向かいたいんだが仲間をまず集めないと」
「でもそれがわかるなら、これでシアたちの位置わからない?」
「言われてみれば確かに」
このタブレットは霧の影響を受けないみたいだ。
「なんかじじいが高笑いしてそうでムカつくな」
空から俺のこと見下ろして「どうじゃ、神様すごいじゃろ」とか言ってそうでめちゃくちゃ腹立たしい。
とにかく今はアイツらを探そう。
タブレットをちょちょいと操作する。なんというか仲間情報、みたいなところにちゃんとアイツらの情報が記載されてる。なんというか個人情報という意味でめちゃくちゃ怖いけど今はそんなこと言っていられない。
「悪用する気はないからそれだけは許してくれよな」
誰に言ってんだ俺は。
タブレットを操作して仲間の位置を特定し、シアは青い点、ローラは緑の点、イズルは白い点というふうに表示させた。