二十話
「どうだよ、うちの連中は」
イズルがヒューヒューという呼吸をしながら薄く笑った。
「そうだね、キミだけの、手柄じゃない」
「ああそうだ。全員の手柄だ。俺はお前と違ってちゃんと横の関係築いてきたからな」
中にはちゃんとしてないものもあるけどそれはコイツが知るところではない。
「早く殺しな、よ」
イズルが血を吐いた。ローラの一撃は相当堪えたらしい。なんかよくわからないが魔力もかなり落ち込んでいる。ローラの攻撃を受けるとこうなるのか。そう考えるとアイツが一番厄介な存在になるんじゃないだろうか。ローラを怒らせるようなことはしないでおこう。
まあ今はそんなことはどうでもいい。
「さて、と」
しゃがみこんで顔を覗き込む。
「俺の勝ちだな」
「キミに、負けたわけじゃない」
まあ確かに。結局最後はローラが締めたわけだし、ピルがいなきゃ防御もままならなかったし、シアが来なかったら間違いなく死んでいた。
「しかし俺の勝ちだ」
この戦いは「俺とイズルの戦い」ではなく「俺が持ってるものとイズルが持ってるものの戦い」だからだ。俺が勝手に思ってるだけだが。
「ちなみにお前はわかってるよな。今の魔力はすごい低いぞ」
「わかってる、さ」
イズルが大きく咳き込んで血を吐いた。こりゃ悠長に話してる場合じゃねーな。このままだとイズルが死んじまう。
「よしじゃあ取引をしよう。お前のことを助けてやるから俺のいうことをきけ。これからお前は俺の奴隷だ」
「イヤだね」
「でしょうね。じゃあまあ強制的に奴隷になってもらおうかな」
ここまで魔力が落ちてるなら即興で魔法を作って奴隷っぽいなにかにできるような気がする。胸とかに刻印を刻んでどうにかみたいな魔法でいいかな。
と、破れた服の部分に手を入れて縦に引き裂いた。これでイズルの上半身は裸になったわけだが――。
「嘘でしょ……」
ローラの一撃で前が切り裂かれたせいだろう。今までなかった二つの山がイズルの胸にあった。そう、サラシのようなもので胸の脂肪を締め付けていたのだ。
「なるほど、大きさはそこまでじゃないからサラシでなんとかなってたのか」
イズルの顔が紅潮していく。なんだ、可愛いところもあるじゃないか。
「オラぁ!」
思い切りケツを蹴り飛ばされた。割と勢いよく蹴り飛ばされたので近くにあった岩に頭を打ち付けた。ポタポタと血が滴って落ちた。めちゃくちゃ痛いんだけど。
「なに女の子の裸ジロジロ見てんだよ!」
シアが俺を蹴り飛ばしたらしい。
「いや女だとは思わなくて。確かに顔は整ってるし、顔も声も体つきも中性的だなと思ってはいたけれども」
「なんだ! 発情してるのか!」
「してないから」
「じゃあなんでまじまじ見てたんだ!」
コイツどうしちゃったんだ。
「まあ落ち着け」
自分の頭をヒールで治してもう一度イズルを見下ろす。すでに誰かがイズルの体に服を掛けていた。
「おい」
服をかけたのはローラだが、そのせいでローラの上半身が素っ裸である。
「オラぁ!」
また蹴っ飛ばされた。これ永久に続くんじゃないだろうか。
「待て待て待て、そのマント被せてやれよ。それで解決だろ」
「そういえば」
もうなんなんだよコイツら。
イズルに被せた服はローラの元に戻り、シアのマントがイズルにかけられた。
「話を進めるぞ。コイツが女だってことは予想外だった。が、俺がやることは変わらん。コイツを奴隷、というか下僕にする」
「下僕にしてどうするの?」
「まあそうだな、単純に殺したくないだけだ。でも手元に置いておかないとなにするかわからないだろ。首輪つけておかないと」
「そんなことできるの?」
「たぶんな」
「たぶんって……」
「俺のことちょっとはわかってきただろ。なんとなくでなんとかできるんだよ」
イズルの頭に手を当てる。
「や、めろ……」
「やめてやるもんか。お前が嫌がることをしてやる。そうじゃなきゃ贖罪にならんだろうが」
「殺せっ!」
「それもヤダ。ってことで、奴隷になれ!」
なんとなーくで魔法を使ってイズルの体を包み込む。回復する前にとりあえず主従の契約っぽいものを結んでしまわないとな。