十八話
しかしイズルはまだ余裕を顔に貼り付けている。おそらくこの世界最強の男だからそれも当然か。
「いくら人数を増やしても無駄だよ。全員肉体をバラバラにして魚の餌にしてあげるから覚悟してよね」
「お前そんなキャラだったか……?」
イズルが少しずつ猟奇方向に性格が変わってきた。いや、もしかしたらこれが素なのかもしれない。が、そんなことを知りたいとも思わないのでさっさとコイツをぶっ倒して縁を切りたい。
いくつもの魔法が目の前に広がった。
「嘘やろ」
氷も炎も風も、ごちゃごちゃになって一つの魔法みたいになってしまっている。それが広範囲に広がってるもんだから逃げ道もクソもない。
「頼むぞピル」
「ぴいいいいいいいいいいい!」
ピルを盾にして襲いかかる魔法を防ぐ。
「大丈夫か?」
「ぴっ!」
「うん、問題ないならいい。後少しで攻撃が終わる。攻撃が終わったらローラは突撃しろ」
「任せろ!」
熱い冷たいチカチカする。そんなよくわからない魔法も数分で終わりを告げる。
イズルの攻撃が終わったのと同時にローラが飛び出した。それと同時にシアがローラに魔法をかけた。飛行能力の付与、身体能力の強化、それと薄い防御膜の生成。なにも言ってないのにローラの補助に向かったってことは正面への切込みはコイツら二人に任せてもいいだろう。
「ピル、小さくなれるか?」
「ぴい」
即座に俺が弱体化させたくらいの大きさに戻った。両手で持ち上げられるくらいの大きさだ。
頭を掴み、ローラたちとは違う方向へと飛翔する。イズルとローラたちが上空で戦い、俺とピルは地面ギリギリを飛んでいく。
「ぴっぴっぴ!」
「こっちじゃないって? いいんだよこっちで」
全員でまとまって戦うのはいい事だと思う。が、それではイズルを出し抜けないというのはわかりきっている。
「まあ任せろって。最低あと二回は盾になってくれよ」
腹を撫でてやると身じろぎをしながら喜んでいた。幼女の腹を撫でていると考えれば相当いけないことをしている気分にさせられるな。
「はあああああああ!」
上空ではローラが剣を振るい、イズルはそれをいとも簡単に防いでいた。シアのレッドマトンとかいうやつもなかなかいい仕事をしている。それでもイズルは片手でいなせるくらいには余裕があるみたいだ。ローラとシアを合わせてもレベル、魔力共にイズルには及ばない。
と、ここでシアと目が合った。
彼女が頷き、炎でイズルの周囲を包み込んだ。煙だと目くらましとしては露骨すぎると思っての行動だ。目と目が合うだけで俺の行動をなんとなく理解してくれるようになったか。
早く行動を起こさなければローラが駄目になってしまうかもしれない。ローラという剣が駄目になってしまうと俺たちに勝ち目がなくなる。イズルに一太刀浴びせて、それを致命傷にできるのはローラしかいないのだ。
ここでイズルの真下までやってきた。岩陰に隠れてピルをそのへんに置いた。そして一度だけ光の速度で移動できる魔法を付与した。もちろんその速度に耐えられるだけの防御壁も一緒に。
「いいかピル、二人がヤバそうになったら飛んでって助けてやれ。めちゃくちゃ高速で吹っ飛んでくから気をつけて使いな。まあ二人のとこまで行ったら止まるようにはしておいたから」
「ぴい!」
うん、この子はいい子だから大丈夫だろう。
俺はそのへんに座り込んで小さな結界を張る。こうすることで俺の魔力を感じづらくなるはずだ。
その結界の中で空気中の魔力を自分の中に集めていく。俺は元々の魔力が高いから普段こんなことはしないし、魔力を使っても寝れば元に戻るのが普通が。だが今は睡眠をとってる余裕なんてないし、そもそも何時間も寝ていられない。だからこうして魔力を無理矢理抽出するしかないのだ。
上空からは「キンキン」という金属がぶつかる音や爆発音、風が吹き荒れるような音などが聞こえてきていた。とんでもないことになってるんだろうなというのはよくわかるし、できれば早めに動きたいところではある。
現在充電50%といったところだが、魔力を集め始めたときが30%切ってたことを考えるとなかなか早い速度だ。
60%、70%、80%と魔力がチャージされていく。
イズルの魔力が大きくなってくるのを感じた。そしてしばらくしてなにかが上空から降ってきた。ドカンという轟音を響かせて地面にめり込んだそれは、唸りながらもなんとか立ち上がる。まあローラだろうなとは思ったけど本当にそうだった。
さすがに心配になったので急いで駆け寄った。
「おいおい大丈夫かよ」
瓦礫をどかしながらローラが立ち上がった。
「大丈夫だ! 問題ない!」
いろんなところからピューピュー赤い液体が出てるが。
「出血がすごい」
一応シアの魔法が効いているのでまだ戦えるみたいだが、頭から腹から足からととにかく切り傷による出血が多いのだ。
いや、あれは切り傷なのか……?