十四話
というかこんなところで油を売っている時間はない。熱が引いている時間は限られているはずだ。
「アルのところには行くにはどうしたらいいの? 場所がわからないんだけど」
「じゃあこれを」
神様が手を叩くと光の玉があらわれた。
「この玉についていくといい。案内してくれるぞよ」
「神様は案内してくれないわけね」
「ワシは神様なんじゃよ? ヌシやアルファルドにばっかり構ってはいられないのよ。いろいろ仕事もあるしのう」
「その割には私と話してる時間長くない?」
「今は休憩時間だからいいんじゃ」
「じゃあその休憩時間が終わったらどうするの?」
「今日はカヌレでも作ろうかのう」
「仕事とは」
「まあ世の中を見ていることが一番の仕事じゃから。どれもこれも神様じゃから許されるんじゃよ」
「うん、そうね。なんか真面目に受け答えをするのがすごく無意味なんだなって実感したわ……」
アルはこんなのと会話をしていたのか。他のところでストレスを発散させたくなるというのもなんとなくわかる。
が、そのはけ口を私にしないでもらいたい。
「こんなところで時間を無駄にはできないわ。とりあえず光の玉は借りてくわね」
「借りるというか差し上げるぞよ。目的地についたらどうせ消えるだろうし」
「わかった。ありがたくもらっておくわ。でもどうやって動かせばいいの?」
ずっと空中で静止しているのだが扱い方がわからない。
「ちょっと触ればすぐに動き出すでの。そのままそれなりの速度で動くから気を引き締めて触った方がええの」
気を引き締めてと言われても困るが、とりあえず出かける前に着替えなければ。
「あの」
「なんじゃ?」
「着替えるので出ていってもらってもいいですか?」
「そんなそんな、ワシは気にしない出ていきまーす」
神様の割に拳を振り上げたら部屋を出てくのか。素直なのか弱いだけなのか、掴みどころがない人だ。
神様が出ていってからサッと着替えを済ませる。そういえばスピカの姿がないが、私の具合いが悪いのを心配でもしてくれたんだろう。きっとママさんの部屋で一緒に寝ているに違いない。
軽く着替えを済ませてから一度アルの部屋に行き、レッドスカーレットの衣装を取ってきた。アイツを助けるならこの衣装が必須だろう。
ハンカチとティッシュをポケットに入れて深呼吸を一つ。一応服の匂いを嗅いで臭くないことだけは確認。最後に光の玉に触れてみた。
するとふわふわと出口へと向かっていく。おそらくは深夜なので光源が移動するのはめちゃくちゃ目立つが、足音さえさせなきゃ多分大丈夫だろう。
ゆっくりとドアを開けて外に出た。
次の瞬間、光の玉が上空に向けて飛んでいった。
「ちょっ、マジで……?」
鳥が飛んでいくいくよりも速い。光の玉だけに光速じゃ、とか言われたら今度こそ殴りつけてしまいそうだ。
「クソっ、見失う前に追いかけなきゃ……」
風魔法を身にまとって光の玉を追いかける。が、ここで自分の体に起きている異変に気がついた。魔法を使った時の魔力の消費量が少なくなっている。同時に、今までよりも魔法の性能が高くなっているのだ。
光の玉は確かに速かったが、神様に強化してもらったおかげですんなりと追いつくことができた。なるほど、それを加味した上で光の玉の速度を設定したしたのかもしれない。そこまで考えてくれているかはわからないけど。
野原の上を飛び、山を超えて、十分と立たずにドンパチっやってるのが見えてきた。正確には微弱な魔力を感じて目に魔力を集中したからこそ見えた。周囲に隠蔽用の結界を張っているのか、そこそこ高い魔力がない限り二人の戦闘を確認することはできないだろう。もしも一般人が近寄ろうとしたならば、結界に触れた瞬間に結界の反対側に押し出されるはずだ。
結界の中ではかなり大きな魔力とそこそこ大きな魔力がぶつかりあっているようだった。そこそこ大きな方がいい感じにやられている。神様の話を聞いた感じだとやられている方がアルファルドだろう。
しかし到着にはもう少しだけ時間がかかりそうだ。今すぐに助けられるほど私の飛行速度は速くない。
そんな時、チャームの二つが私の横に飛んできた。渦巻と丸形のチャーム、確か渦巻が旋風で丸形が火炎だったか。
「なに? 手を貸してくれるって?」
喋りはしないがなんとなく言いたいことが伝わってくる。頭の中に直接語りかけてくるわけでもないが、本当になんとなく理解できるのだ。
「それじゃあお願いするけど」
二つのチャームが後方へと飛んでいく。そして、次の瞬間には倍以上の速度になっていた。
「ちょま、ちょ待てよ」
とは言うがたぶん聞こえていない。というか私自身ちゃんと喋れているかもあやしい。スピードが早すぎて頬が震えるし目蓋も開けてられないのだ。よだれと涙が飛び散っているだろうな、くらいの感覚でしかなかった。
結界の中に飛び込んだ瞬間に速度が落ちる。ようやく自分の目でアルファルドを確認できるようなった。今まさに殺されるかもしれない、そんな瞬間だった。
「私が、助けるんだ」
そして、私はアルファルドへと向かっていく。
胸に飛び込むためじゃない。弱ったところを抱きしめるためじゃない。一緒に困難を乗り越えるために向かうのだ。
きっと彼とならばこの困難も乗り切れると信じているから。