12歳 ー 2
卒業式を終えて、春からは中等部に通う。成績は常にトップだったし、教師からは王都への推薦状を書くとも言われた。
でも、神童も今日で終わりだ。中等部からはもっと普通に、わざと真ん中辺りの成績を狙っていこうと思う。
「アルくーん!」
ソニアが駆け寄ってきた。あの頃から比べるとずいぶん大きくなったもんだ。少しずつ大人っぽくもなってきている。美人の素質もあるし、軽くキープしておくのも悪くない。
「どうした、遠くの中等部に行く男子たちに呼ばれてたんじゃないのか」
そう、卒業式間際、教室に長蛇の列ができていたのだ。そのすべての男子がソニア目当てで、ソニアといい関係になろうという男子ばかりだった。
「うん、全部断ってきちゃったから」
「隣のクラスのクラウスとかも並んでたけど、アイツもいいのか?」
クラウスと言えば学校一のイケメンで有名だ。ちょっとキザだけど、まあ喋ってみると悪いヤツじゃない。
「クラウスくん? んー、好みじゃないかな」
「お前の好みってどんなんだよ」
そういえば今まで聞いたことがなかった。だいたい一緒にいる時は勉強とかスポーツとか、必ずなにか目的があったからな。雑談はするけど色恋の話をしたことがない。
「え……う、うーんとね……」
はにかみ、ちらちらとこちらを見てくる。なんだ、もしかして鼻毛でも出てるのか。これは困った。さすがの俺も恥ずかしいぞ。
「おーい! アルー! ソニアー!」
と、ビリーが走ってくるのが見えた。あれから更に腹にエネルギーを蓄え、汗びっしょりで腹を揺らしていた。
そちらに顔を向けるソニア。チャンスとはいつ訪れるかわからないものだな。
俺は自分の鼻に指を突き入れ、両方の鼻の穴から一気に鼻毛を抜いた。涙と鼻水が溢れ出てきたが、ここで平静を装えなくてなにが男か。
「ど、どうしたんだビリー」
「どっちかと言えばお前がどうしたんだよ……」
「アルくん、涙目だけどなにかあったの……?」
まあ、隠せるわけないよね。
「本当になにもない。大丈夫だ、問題ない。で、ビリーはなんでここにいるんだよ。これから家族と飯食いに行くって言ってただろ」
ビリーの父親が実は商人で、ビリーが割とボンボンだったのは最近知った。あまりにも興味がなさすぎたな。ビリーは俺のことこんなに好きなのに、ごめんな。
「パパとママが是非二人もって言うから誘いに来たんだ」
「そうなんだ。アルくんはどうする?」
「せっかくだし行くか。なに食べるんだ?」
「ステーキ」
「お前らしいな。んじゃ行くか」
なんだかんだ言いながら、俺たち三人はこうやって歩いて行くんだろうな。何事もなく、関係が変わることもなさそうだ。
たぶんソニアは清楚なまんま、男子の憧れの的になっていくだろう。
ビリーもこのままエネルギーを蓄え続けるに違いない。どこかでダイエットを強制させる日が来るような気がする。
何事もない日常が一番だ。これこそが、俺の望んだ人生なんだから。