三話
ネティスのいいところを探しつつ、シアの内部を探っていく。表面上は特にこれといって異常はない。もう少し内部に潜ってみるか。
「ううっ……!」
シアがうめき声をあげた。
「おい、ちゃんと回復しとけって」
「やってますって」
「ああ忘れてた、お前魔法の方もポンコツなんだっけ悪かったから白目やめなさい」
誰だよ扱い易いとか言ったやつ出てこいよ。もしかしたら俺の知り合いの中で一番面倒くさいまであるぞ。
「それで私のいいところなんですけど」
「この流れでまだ続ける? ドマゾかよ」
「それ、いいところですかね? マゾってアピールポイントになります? 婚活パーティーで勢いよく手を上げて「私ドがつくほどのマゾです!」って大声でいったら石油王も振り向きます?」
「思考がバグってるところで非常に申し訳ないんだがマゾはアピールポイントに……」
一瞬溜める。
「アピールポイントに?」
二人の間に静寂が降り立つ。
「なります」
「マジですか……」
「一部の人間にだけな。だから手を上げて言うほどのものではない。決してないから絶対やるな。あと石油王は間違いなく婚活パーティーには来ない。自分専用のパーティーは開くかもしれないけどな」
「石油王が駄目なら私は誰と結婚すればいいんでしょうか……」
「俺がズタボロにした割には自分の価値めちゃくちゃ高く見積もったね。俺の言葉ちゃんと聞いてた? もしかして届いてなかった? 何回でも言おうか? ボロ雑巾を八つ裂きにするくらいわけないぞ?」
「いえそういうのはいいです。で、私のいいところってどこですか?」
「んー、そう言われても困るんだよな。なんだかんだ言って俺とお前って付き合い長いわけじゃないしな。それにお前ってどっちかっていうとメインメンバーとモブキャラでいったらメイン寄りのモブじゃん?」
「モブだったんですか……?」
「そう。モブ寄りのメインだったら救いようもあったんだけどね、メイン寄りのモブってことはそれはもうモブでしかないわけよ。そうするとどうなるかっていうと、そもそも他人からの興味も薄くなるわけさ。だから俺に関わらず誰に訊いても良い返事は返ってこないと思うな、いーやそんなことはないな。そうだ、ビリーにでも訊いてみたらどうだ? あいつならお前のいいところいっぱい知ってると思うぞ。な? 俺に訊いたって駄目に決まってるじゃないかははは。自他共認めるクソ野郎だし俺が言うこととか真に受けてたらこれからなにもできなくなるぞ? はいわかった? わかったら回復魔法に集中してくださーい」
「後半の早口がキモチワルすぎてあんまり頭に入ってきませんでした。でも、今度ビリーくんに訊いてみます」
「そうしろそうしろ。これで俺も面倒事が減って助かるよ」
そうだよ、君にもちゃんといいところあるんだからさ。
「人の心とか読めませんけど絶対逆のこと考えてませんでした?」
「たまにそういうこともあるだろ。ついうっかり口から出ちゃうこととか。お前はそういうことないわけ? 自分は完璧超人だって思ってるの? クソほど低レベルで限界迎えてるクセによくもまあ人のこと下に見られたもんだな。軍部もエリート集団の馬車から落っこちちゃったのにすごい自信だ。その自信俺にも分けて欲しいぜ」
面倒だからもう二度とフォローしてやらん。
そこでようやく、シアの内部でなにかに触れた。
体内にある魔力の根源というのは、自分が得意とする属性によって色が違う。シアは増えてな属性はないが魔王なので虹色だ。そんなシアの魔力の根源にぐるぐると黒いツタのようなものが巻き付いている。
「こりゃ、面倒なことになってやがる」
「どうしたんですか?」
ネティスもしっかりとスルー能力を会得したところで先に進もう。
「シアの魔力を縛ってるヤツがいるみたいだな」
「縛ってる、ですか?」
おそらくは昨日の夜にやられたんだろう。誰にやられたかはこのツタを解析すればいいだけの話だ。
そして、俺はそのツタにゆっくりと触れた。
瞬時になにかが俺の脳内に流れ込んできた。