とにかく話したい!
学術書や研究ノートが散乱している机の上が、私の定位置だ。これからもそれは変わらない。
窓からうっすらと射す日光に身を寄せていると、程なくしてテロがやってきた。
「やぁ、おはよう。と言っても、私も君も眠らないのだから意味のない挨拶だったか……それはともかく、今日の調子はどうだね?」
「私は問題ないけど、テロは大問題だ」
テロは少女の姿をしているが、中身は20代だ。女性にしては珍しく、あまり身だしなみをきちんとしている様子はない。せっかくの綺麗な茶髪は雑なポニーテールでまとめてあるし、白衣やシャツも「垢や汗には無縁だから」と同じモノを無惨な姿になるまで何年も着続けている。……要するに、ずぼらという奴だ。
「言う様になったな。だが私は生まれつき問題児だから、問題などあってない様なモノなのだよ」
彼女は私の指摘をあっさりと流し、無表情で近くの薬品棚をごそごそ漁り出した。その間も、ぺらぺらと話し続ける。
「そうだ。君と呼び続けるのも苦痛になってきたから、そろそろ名前を付けてやろう。何がいいかね?君も知っての通り、私には数少ない友人とたくさんの知り合いがいる。そして何よりも博識だ。オオヒノモトみたく日本語の名前を付けてもいいし、アンデ語で付けてもいいぞ。何なら君の学名をそのまま付けるのでも……」
テロはいつもこう言っては結局決めず、ぐだぐだと先送りしながら一日を終わらせている。いい加減飽き飽きしていた私は、自分で自分の名前を付ける事にした。
「パラケルシスがいい」
フラスコの中の小人、もといホムンクルスを最初に創ったとされる人物はパラケルススだ。そこからもじって、パラケルシス。
我ながらいい名前だ。
「自分の祖を創った賢者の名をもじるなんて、君は傲慢だな。長いからラケルと呼ぼう」
彼女は一応認めたらしく、しばらく私の名前を何度も繰り返していた。