第十三話 初めての連休 後編
お待たせしました!
やっと始まる
ピピピピ.......
まどろみの中で朝の声がする。
それは、誰しも最初は何ともない音で自分を起こしてくれる、いいモノだと思うが
恐らく彼にとっては、幸せを邪魔する良くないモノだと思っているのであろう。
「ん~.......」
有真は呻いている。
だが、朝の声は、その声に反応するかのように
ぴぴぴぴぴぴぴぴ!!!!!
ぴぴぴぴぴぴぴぴ!!!!!
ぴぴぴぴぴぴぴぴ!!!!!
けたたましい音が鳴り響く。しかし彼は起きようとしない
そして朝の声は諦めるように、声を止めた。
そこには、幸せそうに眠る有真と静かな静寂だけだ。
有真は、まどろみの中に自ら入るように息を深く吸い込む。
彼は下の見えない幸せな底なし沼に身体を任せた。
もうこの心地よさだけあればいい
今日は休日だ、もうこのまま寝てもバチは当たらないだろ
そう思っていると
「有真さん、おーきーてーくーだーさーい」
まどろみを泳ぐ有真は外の声を聴いた瞬間
急に引っ張れる感覚に陥り、勢いよく身体が動く。
「今日はデートの約束したんだった!!」
有真は大切なことを思い出した。眠気も微睡も忘れて
彼が跳ね起きると、すぐ近くでクスクス笑う女の子が居た。
「有真さん覚えていただいてありがとうございます」
里栖が朝の光に負けないくらいの笑顔でこちらを見てくれている。
有真は照れくさそうに
「あ、里栖さんおはようございます。わざわざ起こしに来てくれて」
「大丈夫ですよ?幸せそうな有真さんを見れたので、」
と里栖は顔を赤くしながら、もじもじしている。
有真は可愛い里栖の姿を見てぼーっとしていたが
我に返り、里栖を見てると既に色々準備している事に気づく
いつもより整った髪、ナチュラルなメイク、可愛い服
どれも心にストライクだった。
そして、マジマジ見ていることに里栖が気づくと
恥ずかしさを抑えつつ、
「有真さん、もうお昼ですよ?」
「え?!ごめん!すぐ用意するね!」
部屋にかかっている時計を見ると、長針が12時を指していた。
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そこからは色々バタバタしたが、なんとか着替えや用意をして、
やっとこさ出発できるようになった。
「ごめんお待たせ」
「本当ですよ!待ちました」
「ごめんね、何か埋め合わせするからさ」
有真は、掌を合わせて身体で謝罪のポーズをした。
それを見た、里栖は意地悪っぽく
「じゃあ、今日は色々わがまま聞いてくださいね?」
と笑顔を浮かべた。
「ああ、もちろんだ。さ、行こう」
「はい行きましょ」
彼と彼女は手を繋いで、有真の部屋を後にした。
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映画、カフェ、服屋、雑貨屋
いろんな場所を巡る二人
いつしか日は落ち、街にネオンが灯り、飲みに行く者、遊びに行く者、疲れて足早に帰る者、仕事に行く者
いろんな人が行きかう、夜になった。
二人は幸せそうに、手を組みながら街を歩く
「今日は楽しかった?」
「はい御蔭様で、今までの人生で一番楽しかったです!」
嬉しそうに有真の腕にしがみつく里栖
「本当?良かった」
スクランブル交差点の歩行者信号が赤になり、二人は歩みを止める。
「あの有真さん…」
「うん?どうしたんだい?」
里栖は恥ずかしそうに顔を俯かせながら言葉をつづけた。
「私、有真さんの記憶が戻らなくてもいいです」
有真は里栖の言おうとしている事をなんとなくだが察した。
だが、それをこちらから言うのは、あまり良くない。
彼は優しく微笑み、彼女がすべて言うのを待った。
「だから、もし有真さんが良かったら…私と!」
里栖が一歩を踏み出す
その瞬間
「おい!あれ見ろ!」
とどこからか、男の叫び声が聞こえてきた。
「あれこっちに向かってきてない?」
「なんかの撮影か?」
「もしかしてここに不時着系?!」
「ちょそれやべー奴やん」
周りから騒めきが生まれていた。
有真と里栖は周囲が視線を向けている方に合わせた。
そこには旅客機サイズの飛行機が自分達のいるところに落ちるかと思うくらい
低く飛んでいた。
しかし旅客機は有真と里栖の遥か頭上を通り何処かに行ってしまった。
周囲と同じく旅客機の後を視線で追い続ける。
有真はその方角に焦燥感が出てきた、なぜなら
そう織田商事がある方角だからだ。
そして、いつのまにか青信号になっているスクランブル交差点は誰も渡ろうとしていなかった。
有真は不意に交差点近くにある巨大テレビに目を移す。
そこには
【世界同時多発テロ発生致しました。皆さん近くの避難所または家から出ないように】のテロップが流れ、
ニュースキャスターが焦りながら口を動かしている。
通常ニュースの時、後ろではいつものんびりしている人達は今日に限って慌ただしく動いている。
そしてニュースキャスターは簡素な世界地図を取りだし、カメラが地図に注視した。
【爆発または墜落があり甚大な被害がある地域】と書かれていた。
宗教の中心地
政治家の集まる場所
天文台
有名な大学
世界遺産
その他いろいろ
有真は目を疑い、何度も自分の目を拭った。
何を驚くことがあるか、自分が見てきたことよりかはまだ現実味がある。
いや違う、有真の頭には一つ関連付けれる事があった。
それは_____
しかし有真が考えるより早く、最悪の事態が起こった。
______爆発。それもただの爆発ではない。
旅客機の行った方角から閃光が走り、音が響き、風が伝う。
さらに爆発のエネルギーは有真達を飲み込むには充分だった。
有真は旅客機の方角から閃光が走ったのを見ると
里栖の手を引いて自分の背を盾にして、里栖を守るように抱きしめた。
爆風が通るとビルのガラスはたちまち砕け散り人々を襲う。
そして熱と光の波は有真達や人々を、いとも簡単に飲み込む。
爆発してから有真達を飲み込むまで僅か2秒の事だった。
一瞬にも等しい時間で
国の中心だった街は、廃墟と化した。
第十三話 永遠の休日 続く
最後までお読みいただきありがとうございます!!
次の更新は年明けになりそうです。