第十話 束の間
黒騎士を【地獄】に落とした有真は、帰路に就いた。
リビングに一つの人影が現れる。
それは先程まで南極に居たはずの有真だ。
「.......」
彼は帰宅した途端に、ベッドに向かう。
なぜなら治ったかどうか自分自身では感じ取れないからだ。
その【力】の不完全さ、から焦燥感が有真の脳に募る。
「里栖!!!」
有真はベッドを勢いよく覘いた。
先程まで繭のように包んでいた光はとうに消えていて、ベッドの白さは白いまま。
そして残酷な刺し傷はどこにも見当たらない。
「すう……すう.......」
里栖はかわいらしい寝顔をうかべ、生命の鼓動のようにゆっくり僕の目の前で生きている。
「.......生きているんだ…里栖は生き返ってくれた.....うう」
僕は涙を流す。それは嬉しさと罪悪感が込み上げてきたものだ。
「本当に.......本当にごめんなさい…」
謝ることしかできない、彼女が受けた痛みや辛さは僕が止められたもののはずだ。
生き返ってくれたが、里栖の心に傷が残ることは言うまでもない。
僕は気持ちよく眠る彼女を目の前に泣き続けた。
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『いつまで泣いている』
カラスが先程自分が倒れていたところに座っている。
僕は涙を拭き声のする方に向いた。
「ナハム……どこから入った」
『うーんそこの窓みたいなところから』
カラスが羽を指のように指した場所は
「あそこはドアポストじゃないか.......」僕は頭を抱えた。
『辛かったね~あそこ通る時、変な声でたよ』
「もっとましなやり方あったろうに」
『まあいいじゃないか、それと』
バサバサッ
カラスは有真の肩に乗り、耳元で囁くようにつぶやいた。
『彼女は【治った】じゃなく【戻った】んだよ』
「え.......?」
『お前が泣いているところ申し訳ないけど…彼女は何にも覚えてないよ?』
カラスは笑いながら、先までいたところに戻る。
僕は里栖を救えたことに驚いたが、さらに【時を戻したこと】に驚いた。
「あかしいだろ!因果律はどうなる!?」
『そのことは今から話す』
ナハムはおふざけトーンから真面目なトーンに声を変え語り始め、静かにするよう里栖を見ながら、くちばしに羽を当てた。
『君に授けたのは強靭な体だけではない、【因果】を自由に操る力も授けた。』
『だから黒騎士は今頃お前が悲しみに暮れていると思っているはずだ。』
「つまり漫画でよくある時を戻す能力を手にいれたということか?」
『それより残酷な能力だと思うよ、いろいろぐちゃぐちゃになるしね』
僕はため息をつく、そのため息は長くて深かった。
「.......僕はこれからどうなる」
『君は救われる側から救う側に変わった、そういうことだ。あと僕との取引もあることを忘れないでおくれよ』
「.......考えておく」
『時間は与えよう、ゆっくりとするといい』
カラスは器用に窓を開けて、有真に振り向く。
『でも【世界】の時間は有限だ、それは忘れないで』
カラスもといナハムは飛び立った。
一人うずくまる有真を残して.....................
第十話 有限の安息 続く
最後までお読みいただきありがとうございます!!!
中学生時代は馬鹿みたいに牛乳飲んで身長が15センチ伸びた