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罪眼消  作者: 織田
1/10

一ツ眼

『静謐なホラー』を書きたいと思い至って走り書き。

拙い文、構成。

以上を踏まえ、読んでくだされば幸いです……。















 ――アダイロエ、オグイ、アユ……


 ――アダイロエ、オグイ、アユ……


 ――アダイロエ、オグイ、アユ……





 (一)




 ――――――


 ――――


 ――


 友人が行方をくらませたのは、先月のことだった。

 元々放浪癖のある男で、学生時代からふらふらとしていることの多い不遜なやつだったが、私にとっては数少ない友人で、成人してからはよく電話でやりとりを交わしていた。



『ようげん、調子はどうだ。俺はすこぶるいいぞ。こないだも富士山に初めて登ってよ。あそこってあれなのな、五合目ぐらいなら車で行けんのな』

「へえ、そうなのか」

『けっこう知らないよな。で、そんときの写真と映像、お前のとこに送ったんだが、どうだった?』

「あれお前か。差出人不明の普通郵便」


『そうそう。あれ俺が送ったんだ』

「……配達のとき、雨に降られたみたいでな。写真はビニールに入ってたからよかったが、USBはなまで入れてたおかげで、一部映像が飛んでたぞ」

『嘘だろ?』

「本当だ。最後の方、ノイズまみれで気分が悪かったから、すまんがUSBごと燃えるゴミの日に出した。差出人もわからんかったしな」


『そうか。そりゃ残念だ。ただ厳よ、USBって燃えるゴミなのか?』

「……そういえばそうだな」


 友人は、自称写真家だった。といっても映像も撮影するので、厳密には写真家一本ではないだろう。やつ曰く、写真だけにこだわらないスタンス、らしい。やつの言うことは毎度二転三転するので、特に職については、私も程よく聞き流していた。


 そんないい加減で自由人な友人だったが、ある日を境に、妙なことで電話をしてくるようになった。

 それは先月、友人が行方不明になる少し前のことだ。


『……厳。お前、霊って信じるクチか』

「れい? いや、信じるも何も、まだ見たことないしな」

『見たことないものは、信じないか』

「まあ、そうなるかな」


『……そうか』

「? おい、どうし――」

『写真と、映像の入ったUSB。また送っておいたから、よかったら見てくれ』

「ん、ああ。それは構わないが」


『……っと……も、じざるをえ、い』

「え、何だって?」


 通話はそこで切れた。友人の残した最後の言葉を、私は聞き取ることができなかった。

 だが、その数日後に届いた友人からの郵便、写真とUSB。それを受け取り確認した私は、最後にやつが何と言っていたのか、理解できた。




 最初の数枚の写真には、夕方の田園風景が写されていた。すっと伸びた凸凹した田舎道に、両側を田圃が占めた、夕焼け空の紅くも淡い風景。橙色に染まった雲と、遠くの方にある山。そこに向かうように飛び去る二羽の鴉の姿。写真端の方に、一軒の家屋が見える。


 その家屋をメインに撮った写真が、残り数枚に収められていた。家屋は立派な木造の家で、見たところ三階建てだ。玄関には箒が立てかけられており、脇に薪が積まれて置いてある。瓦屋根と格子窓は古きよき日本風景を漂わせ、なんとなく頭のなかに、障子や三和土たたきの玄関を思い起こさせた。


 しかしはもと。家の外壁は朽ちており、玄関も割れている。箒の取っ手は写真越しでもわかるほど黒く変色しており、雨風にずっと晒されていたのだということを思わせる。瓦屋根は部分部分取れており、三階の屋根に至ってはすっぱり欠けてしまっているようだった。


 そのような写真を見ていると、最後の一枚となった。それは友人の向けるカメラが、建物の三階のみを撮影したのであろうものだった。玄関や二階の外観を見切り、欠けた屋根の目立つ三階のみを、見上げるように撮った奇妙な写真。


 私ははじめ、この最後の写真をじっくりと見ながら嫌な感覚を覚えた。


 胸がざわつく。無数の羽虫が心臓に群がり、羽根を震えさせているような感じ。

 腹の底に、冷えた刃物を突き立てられた意識。


 きっとこれが、第六感というものなのだろうか。私の脳内では赤ランプが灯り、警告が鳴っていた。「これは見るものじゃない」と言っていた。


 しかし私は見た。見続けた。

 そうして私は、みつけた。嫌な感覚のゆえんを、みつけたのだ。


 朽ちた和風の建物。欠けた屋根の三階を真ん中にした写真。その階層には割れた窓がある。中は真っ暗で何も見えない。電気がついていたとしても、上の階を地上階から撮るかたちのため、見えるはずがない。

 だがその割れた窓枠から、二つの手が覗いていた。白いもやのようだが、かたちはまさしく手だ。手が二つ、窓枠に置くように並んでいる。


 その手の上に、何か乗っている。


 丸っぽい、白いもやのような影。

 白い影を輪郭とし、歪んだ黒い線と、その少し上に小さく黒い点が一つあるのをみたとき、私は直感した。

 歪んだ黒い線はくちびる、小さな黒い点は鼻。



 これは顔だ。人の顔。窓枠から外の様子を覗く、人間の顔。こちらを見下ろすようにしている。



 でも、眼がない。口と鼻はあるのに、眼がなかった。眼だけ書き忘れられた子どもの絵のように、白いもやのままだ。



 私の背筋が凍ったのは、それでもなお私自身がこの白い誰かをみて、なんの躊躇ためらいもなくこちら・・・を見下ろすように・・・・・・・・している・・・・と判断・・・したこと・・・・だった。


 眼がないのに、見下ろされている。こちらを見ている。



 白い誰かは、窓からカメラのレンズを見ている。



 私はぞくりと身震いを感じ、写真をテーブルに伏せた。

 それからしばし間を取ってから、もう一つの贈りものを確認した。


 パソコンに挿し込んだUSB。いつもの通り内容は映像で、撮影者は友人だ。だが私は冒頭すぐに、この映像に嫌悪感を抱いた。


 映像は、友人が写真のあの家に入っているというものだったのだ。


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