01 「すまんかったぁぁぁぁっ! お前が死んだのはワシのせいじゃぁぁぁぁっ!」
事故で、病気で、主人公は一度死んでしまった。
魂だけとなった主人公は、見知らぬ場所で、神を名乗る存在から聞かされる。
「すまんかったぁぁぁぁっ! お前が死んだのはワシのせいじゃぁぁぁぁっ!」と。
神は失われた人生の引き換えに、異世界の転生を提案し、主人公はそれを受け入れ、旅立つ……
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テンプレ作品では割とある展開だろう。
この手の作品を最初に見た時、きっと少なくない人が疑問に思ったのではないだろうか?
神様がミスしていいの?
神様は絶対唯一・全知全能の存在じゃないの?
仏教も神道もキリスト教もゴッチャになって日常生活に入り込み、八百万の神が存在し人間も死後神になる日本国内はまだしも、他の一神教宗教圏ならフィクションといえど受け入れづらい展開だろう。
いやまぁ、人間が書いたものだから当たり前だけど、神話に描かれる神の姿はどこか人間くさい。ゼウスは末期的スケベェな恐妻家だし、オーディンは割とおバカだし、天照大御神は弟の振る舞いにいじけて引きこもるし。
そこは神様でもミスがあってもいいとしよう。だが、それはそれで疑問がある。
神様パワーでミスを帳消しにできないの?
死者の蘇生って、不可能を可能にする、神の奇跡の代名詞みたいなものだと思うのだが?
人の身では神の常識は理解も想像もできないが、管理内の同一世界内で失われた生物にもう一度命を吹き込むことより、管轄外ないし異なる世界に指定の状況と人間を作り出すほうが簡単なのだろうか?
『現状の説明』『異世界への移動を承認させる説得』『チートのオーダーメイド』いう手間は省けないのだが?
その手間を差し引いても異世界転移・転生のほうが楽なのだろうか?
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まぁ、ここまでは流して、作品を読むとしよう。
物語の設定として、神は完璧ではなく、生き返らせるよりも異世界に送るほうが簡単なのだとする。
だが、まだ問題がある。物語としての欠陥だ。
神という登場キャラクターに、読者は好意的な感情を抱きようがないのだ。
致命的なミスをする。しかもリカバリー能力もない。
人間社会の中で考えると、そんなヤツ役立たずと判断される。
事態の重さによっては、一発で懲戒免職されても不思議はないし、やったところで当人以外は批難しないだろう。
こんな人物に好意を抱きようがない。
謝罪し、元の状況に戻す補償はできないが、代わり主人公が望む第二の人生を用意する。
これを絶対たる存在の神が、矮小な人間ごときに頭を下げて、示談や和解が成立したと考える人もいるのではないだろうか?
誤解してはいけない。これはリカバリーではない。厄介払いであり、証拠の隠滅だ。
あくまで人間の常識内の話だが、弁護士のような第三者抜きで、被害者・加害者の当事者間での直接示談は、法的なリスクが高い。
罪証隠滅や証人威迫の可能性を高める。
専門家から怒られそうなざっくばらんなことを言うと、サスペンスドラマでよくあるあの展開になりうるからだ。罪を犯した瞬間を目撃されて脅迫され、金品を要求されてしばらくは大人しく従ってしたものの、我慢の限界で連続殺人事件被害者の仲間入りするアレだ。
このテンプレ展開の場合、意図か不図かは不明だが、主人公という神がミスした証人兼証拠そのものを別の世界に送ることで、後で追及できなくなっている。
あ。だからテンプレ作品の多くは、冒頭に出てきた神様は二度と登場しないのか?
アフターフォローのつもりで異世界生活満喫中の主人公にコンタクト取ったら、ミスで死なせたことをグダグダ言われ、またなにか要求されるかもしれないから。与えたチート能力で主人公が神をも殺せるようになっていたら、リベンジも考えなければならないし。
殊勝な言葉の裏でこんなことを考えてるとすれば、いくら神といえど敬意なんて抱けるかという話だ。
しかも、可能性だけで言えば、更に問題がある。
神のミスは、主人公の件一度だけとは限らない。
個人的にはもっとあるだろうと思う。反省しないから成長しないダメ社会人の典型例みたいな行動をしているのだから。
だから偏見に満ちた印象では、この神様は他の時でも同じことをして、ミスを隠蔽しているのではないかと疑ってしまう。
管理下に置いている生物にその事実を知られないため、ミスで死んでしまった人間を異世界送りにしているのかもしれないが、こんなのが管理している世界に生きたいと思う者がいるだろうか。
あ。だからミスで殺された主人公も、同じ世界ではなく、違う世界で続きの人生を希望するのか?
ミスを隠したい神と、こんな神が管理する世界から逃れたい主人公、双方の利害が一致したWin-Winな結論とて、異世界生活が選ばれるのなら、色々と納得できる。
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神でもミスをする時がある。
神でも不可能なことがある。
残念ながら神の手違いにより、主人公は死んでしまった。
神は謝罪し、蘇生は不可能であると現実を認めた。
だが神は、自身にできる最高の償いを考えた。
厳しい世界で生き残れるよう、主人公に力を与え。
第二の人生の舞台、剣と魔法の世界へと送り出した――
テンプレと呼ばれるその物語の導入は、そんな風に受け取り、感動することすら可能かもしれない。
でも実情は、人間以上の能力を持ってても人ひとり蘇生できないのに神を騙るゲスい小心者が、主人公を子供騙しに引っかけているわけだが。
なんとなくでもそう解釈する読者は、展開を嫌っても不思議はない。
というか、フォローできない。