リズのテスト
「見つけた!」
全速力で走った俺はなんとか間に合ったようだ。
リズは呑気に口笛を吹きながら上機嫌に門を開こうとしている。
「リズ!どこに行くんですか!?」
いや、わかってる。これは十中八九、トンズラだ。
「ん、あぁー…巡回?」
「ザックから聞きましたよ。」
俺が一言、それだけを伝えるとリズは自分の頭に手を当てながら苦笑する。
「ザックは相変わらずお節介な奴だなー。まぁ授業料として貰ったつもりだが…チャンスを1回だけやろう!」
「お金を返す選択肢は無いんですか!?」
「はっはっは!当たり前だろう。これはもう私のものだ!弱いものは強いものに逆らえないのが摂理だ。諦めろ!」
悪びれもなく、そんなことを言う。
「まぁ、しかし私は優しいからな、今からお前をテストしてやる。まぁ、合格出来れば私が直々にお前を本当に鍛えてやろう!」
そう言ってリズは近くの木からリンゴのような果実を取り…
パーーーーーン!!!
投げた……んだよな?
投球フォームに入ったリズの腕がブレた瞬間、果実は見えなくなり俺の近くの足元の地面を少しえぐって霧散した。
おいおい、化け物すぎるだろ…
「一度見せてやったのはサービスだ。一応手加減してるから当たっても大した怪我はしない筈だ!次は避けろ。それができたら合格だ。」
「ちょっ!タイム!1回待ってください!」
「なんだ?諦めてもいいが、金は返さねーぞ。」
金は諦められん。が、流石にこれはまずい。
避けられイメージなんてまるでつかない。
なんせ相手が動いたのを見てからでは確実に間に合わない。と、言うよりまず見えない…
つまり投げ出しのタイミングを見計らって適当に右か左に飛ぶくらいしかできそうに無い。
まさに博打だ。しかし、俺は博打が嫌いだ。
どんなものでも自分の勝ちに自信が持てるまでは勝負せずに生きてきた。常に安全マージンを取り、無理な戦いは早々に手を引く。その結果俺は上手くやれていたと思う。汗を流して働く事なくとも金に困らず、好き勝手生きてこれのだ。
しかし…
「諦められるかーーー!いつでも来い!」
そう言って構える。
せっかくの異世界だ。今回については負けても死ぬわけでも無ければ、諦めたところで金も返ってこない。
ならば進むしか無い。
とにかく、相手を見てタイミングを読んで避けるだけだ!
リズの一挙手一投足、全てを見逃さない様目を見開く。
そして目の前でリズが果実を毟り取ったその直後
ーー『読み書きスキル』特殊技能、『先読み』を解放します。ーー
頭の中で声が響いた。
そしてその瞬間、リズの腕がブレる様なイメージが頭に流れる。
頭で何が起きたか理解する事は出来ない。だがその嫌な予感に反射的に右に飛び上がる。
すると、俺のいた地面の後ろで破裂音が聞こえたのだ。
成功。
そして賭けに勝った俺はリズを見る。
リズは驚いた顔をしていた。
だが、そこで再度リズの体全体が視界から消える。
そして今度は、右側から自分のボディが殴られるイメージが再生された。
約束が違うじゃねぇか!!
そう思いつつも咄嗟に右を向き体をくの字に曲げたのだ。
腹に風が吹いて、目の前にリズが現れる。
そして頭にリズが口を開けるイメージが流れ…
そこで俺の意識は途切れてしまった。