天兎、叫ぶ
気がつくと街の前に立っていた。
おぉー、異世界って感じするなぁ。水堀で囲われてるって事はやっぱ魔物とか外敵があるって事だよなー。実にファンタジーだ。
そして今から始まる自分の異世界での生活にワクワクしつつ自分の所持品を確認。
そこには『15歳以下、冒険者証』と書かれた銀色のプレートに、麻袋に入った銀色の硬貨が12枚。芦屋から送られたであろうアイテムであった。
ただこれは納得いかないな。
この世界での自分の年齢が15歳以下であるという事は、まぁ得したといえば得したのだから文句は言うまい。しかし、
「なんで俺、服きてねぇーんだよー!!」
思わず叫んだ。
もうただの変態だわこれ。金もある、身分証もある、なのに一糸纏わぬ姿で街の水堀の側で突っ立ってるなんて。
すぐ目前には異世界の街、新しい俺の生活のスタートラインがあるのに、これじゃあスタートラインからそのまま牢屋もあり得るだろう…
しかし、無いものは無いのだ。ズボンもパンツも。
何も無い事を再度確認するように裸の自分を見て見ると薄っすらと下の毛が生えているのが確認出来た。うーん14歳くらいかなー、俺。っと軽く現実逃避をする。
仕方ない、とりあえず街の入り口を探した後にでも裸の理由は適当に誤魔化してなんとか中に入れてもらおう。
水堀があるって事はやっぱりモンスターがでてもおかしくないし、街に入るのを優先するべきだろう。しかし、誤魔化せるだろうか、これ…
そこから約1時間がたった。最初はなんとかならんものかと股間に葉っぱを当ててみたり裸であることを隠そうと試みたが、もはや自分が素っ裸な事にも慣れ始め街の周りを水堀沿いに歩いている。
すると、遂に街の入り口、水堀に架けられた橋と大きな門が見えたのである。
しかし、以前変わらず俺は素っ裸。門の前に2人の男が立っているのだがどうにも踏ん切りがつきづらい。
しかし、ここでこのまま立ち止まっている間に、あっちから発見されたらもうおしまいだろう。裸の少年が街に入りたそうに見てるなんて半分ホラーだよ。本当。
こっちから行って服が欲しいと伝える方が間違いなく不審度は低いはずだ。
仕方ない。追い剝ぎにでもあった事にして服を借りよう。金はあるわけだしなんとかなるだろう。
そこで決心を決め門の前に立つ男2人に声をかける。
「すいませーん。追い剝ぎにあってしまっ…」
と、飛び出したその時だった。目の前の門が開き中から犬の様な耳をしたナイスボディな女性が出てきたのだ。
「なーんてね!」
最早何が『なーんて』なのかはわからない、テンパった俺はそんな意味不明な言葉を残し、毛も生えそろっていないマイディックを隠すために水堀に飛び込んだ。なんだかぬるくって、ちょっと臭い。
しかし、きっとセーフだ。流石にあんな美人の女性に初対面から裸体を晒してちゃ俺の異世界ライフも暗い先行きになってしまう。綺麗な水とは言い難いがこの後風呂にでも入れてもらえばいいだろう。
なんて考えていたのだが門の前の男の1人が「早く上がってこい!」と随分と緊迫した声を上げて叫ぶのだ。そして隣の男は俺の方を見た後、すぐに目を塞いだのだ。
嫌な予感…、そしてその予感を確かめるために後ろを向くと
大きな目、鋭い牙、ワニの様な形をした生物がまさに今、俺に噛みつくであろう直前であったのだ
「うおおぉぉぉい!!」