世界の狭間で
「御蔵天兎。総資産16億円と2000万ドル、お金はある癖に引きこもってゲーム三昧。うわー、偏ってるねぇー」
ふと我に帰るとあの時の謎の女が本を開いてそんな独り言を話していた。
「って、なんでそんなのわかるんだよ!ってか何処だここ!」
まるで図書館の様な雰囲気を持ったその場所、しかし非現実的な事に本は宙に浮かんでおり、時に消えたり増えたりしている。
なかなかに幻想的な風景である。
「世界の間だよー、君の住んでた地球の裏側?」
謎の女は俺の言葉に対し子供の様に無邪気な笑顔を見せながら答える。
全く意味の分からない回答が返ってきた。
いや、もはや回答にすらなっていないが。
一体なんの冗談なのかと思う。
しかし、反面俺はかなり興奮していたのだ。
この状況にこのシチュエーション。幻想的な風景に謎の女。
この状況から1つの結論が頭の中には浮かんでいたからだ。
「これ、もしかして異世界転生ってやつ?」
うおおぉぉ!もしかしてきちゃった?選ばれちゃったのか、俺!
「おぉーすっごい適応力と順応性!けど順応性うんぬんじゃなくそのエンジンのかかり方はちょっと気持ち悪いねー君。」
女は少し引き気味に呆れた様な顔をして言葉を続けた。
ん?俺クールに聞いたつもりだったんだがな。
「僕はこの空間の中でなら相手の心の声も聞こえちゃうからねー。」
おぉ、流石異世界、うん。異世界確定だね。普通の地球人は心読めたりなんかしないもの。
「まぁ正解だよ。私は芦屋。まぁ偽名だけど、なんでこっちの世界に呼んだかはしばらく秘密だけどゆっくりしていってよ」
秘密ばかりで胡散くせぇー!って言いたいが本当に転移とは心躍るなー!ちょうど今の生活に嫌気はさしてたし。
しかし、重要なことを聞いておかねば…
「で、魔法はあるのか?」
すると、くすりと笑って芦屋は「それはあっちの世界についたらのお楽しみかな。しかし地球ではお金があればやりたい放題好きなことができるのに嫌気さしちゃうって贅沢だねぇ。」
まぁそれも今日でお終い!っと付け足し芦屋は何も無い空間から手元に出てきた一冊の本を取り出し、俺に差し出した。
「大した説明もせずポンポン話進めて申し訳ないんだけど、とりあえず地球の君の全てを買い取らせて貰って異世界で使えるポイントに変換しといたから。あとはそのポイントでその本の中から好きな能力と好きなアイテム全部持って行って転生して、そのあとは好きに異世界楽しんでよ。」
『好きに』って、一体この芦屋とか言う女はなんのために俺を呼び出したんだか。
そんなことを考えていたら
「理由は秘密でーす」っとすっぱり切られたのだった。
だがこれは俄然ワクワクしてきた!
きっとこれからチートまみれ、優越感で脳汁スプラッシュな日々が俺を待って…
しかし俺は本のページをめくって絶句する。そこに書かれていたのは『共通言語能力』、『読み書きスキル』、『身分証発行』、そしてよくわからんがお金?の単位であろう『12万ピス』
「えっ?こ、これだけ!?」
なんかスキルとか無いのっ!?俺の人生5回は余裕で遊んで暮らせるだろう財産が異世界ではこれだけにしかならないのか?ってか12万ピスってなんだよ!?
「円で言ったら12万円かなー?一般的な宿が5000ピスで1泊くらいだしー」
陽気な感じで言う芦屋。そして彼女は、でも、と付け足して
「異世界に旅!言語の不自由もなくお小遣い付きで楽しめるんだから!」
胸を張ってそう言った。
まぁ、そうか、そうなのだ。
どうせなる様にしかならんし、拒否権などなさそうだ。ここはおとなしく従っておくとしよう。
心でそんなことを思っているとまた急に意識が遠のき「あっ、もう時間だったかー」と言う呑気な芦屋の声を最後に意識を失うのであった。