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癒えない古傷

第五夜    癒えない古傷


 一


 緊張した空気の中、電話の先で、篠倉が息を呑みこむのを感じた。一向に何も言わない僕が、圧力になったのかもしれない。

 白日芙蓉――会長とほぼ同時期に僕の前に現れ、数々の意味深な発言をしてきた人物。なるほど、彼女が犯人なら確かに違和感は無いだろう。

 だがそれではあまりに違和感が無さすぎて、逆に不自然だ。普通に考えて、僕が犯人の立場ならあえて自分が疑われるようなマネはしない。あまつさえ、芙蓉は僕らの背中を後押しするようなことまでしていた。野々宮の家を訪ねるきっかけを与え、図書室での一件では僕らの覚悟を試すようなことまでした。今から思えば、僕らを菅原先輩の元に使わせたのも、僕らに集団欠席という事件の存在を確信させるためだったのかもしれない。

 ――それに。それに僕には、どうしても芙蓉が犯人とは思えない。

 別に庇っているわけじゃなくて、そう思いたくないだけとかそんなことではない。あれだけ不可解な行動をとっていたにも関わらず、芙蓉だけは――彼女はやっていないと、そう断言できるのだ。……理由は全く分からないが。

『だったら君は、いったい誰が真犯人だと考える?』

「そうだな……」

 まず、真犯人が僕ら、つまり荻村富士と那須美誠一に悪夢を見せたということは自明の理だろう。会長は、「なぜあの人ほどの人間が君らみたいなのに出し抜かれてしまったのか――」と、確かそんなふうなことを言っていた。それは逆に言えば、真犯人は僕らに何かしらの危害を加えたということになる。ここ最近で僕らの身に起きた大きな異変や事件といえば悪夢の他にないのだから、僕ら二人に悪夢を見せたのは、会長が言うあの人ということになる。

 その前提を踏まえた上で事の成り行きを、順を追って説明すると――事の始まりは四月、僕の悪夢からだ。真犯人は僕に悪夢を見せたあと、標的を変え、今度は那須美に悪夢を見せる。これが五月の頭。それから間もなくして真犯人は、実行委員会の設立とほぼ同時に会長をそそのかす。それにより、今度は会長がその役目を負うようになり、野々宮扇がその最初の被害者となる。確か五月の中旬から下旬にかけてのことだった。それからしばらくの間、会長は好き放題に実行委員らの夢を荒らして回るという悪行を日々繰り返していたわけだが……、それが僕らの手によって阻止され今現在に至る。

 今現在……、そういえば今日は何日だ?

 ふと気になって、僕は勉強机の上に置いてあるカレンダーを見やる。

 六月の一三……いや、日を跨いだから今日は一四日か。すると明日は一五日――文化祭だ。

『トミシ? どうした?』

 篠倉が、僕の様子を心配そうに窺う。どうやら僕は、しばらく熟考したまま無言だったようだ。

「いや、何でもない。ただ明日の文化祭、どうなんのかなって思ってさ」

『……文化祭か。いろいろありすぎて今の今まですっかり忘れていたよ』

「……だな。僕もだ」

 今日は文化祭の前日。会場設営の日だ。それを取り仕切る会長がああなってしまった今、代理として芙蓉が駆り出されることになるのだろうが……。

「……お前は、あいつが――芙蓉が僕らの夢を蝕んだ張本人で……数多の生徒を植物状態に追いやった犯人だって、そう言うんだな?」

 文化祭の話から出し抜けにそんなことを聞かれて、篠倉は動揺する。少しだけ逡巡したあと、また元の調子を取り戻して彼女は言った。

『……ん、まぁそうだ。彼女以外に、他に怪しい人間も疑わしい人間もいないというのが私の意見だし、仮に那須美君や野々宮さんに聞いたってたぶん同じように答えると思う』

「……そうか。だったら僕が直接本人に確かめてやるよ。今日の放課後、文化祭前日のミーティングがあるだろうからそのあとにでもな」

『なに……? それはさすがにまずいぞ! 今自分で言ったばかりじゃないか! 相手は数多の生徒を植物状態に追いやった――その犯人かもしれないんだぞ!』

 篠倉は時間帯も考えずに、僕の鼓膜が破れんばかりの勢いで怒鳴りつける。そのあまりの大声に、思わず僕は携帯を自分の耳から遠ざけてしまった。

「っ……。……まぁ、たぶん心配はいらないと思う。いくらなんでも、白昼堂々、人目のある中で僕を襲うようなマネはしないだろ。それにだ。確かに夢世界で犯人と接触すれば危険かもしれないが、僕が芙蓉と会うのは現実の世界。つまり、いくらあいつでも僕に手を出すことはできないってことだ」

『そりゃそうかもしれないが……!』

「第一――」

 篠倉が何か言いかけたのを遮って、僕は続ける。

「……第一、僕は芙蓉が犯人だとは思っていない。あくまでその可能性があるってだけで……、僕はその可能性を潰しにいくだけだ。警戒する必要はあっても、敬遠する必要はない」

『………………』

 僕がそこまで言いきると、篠倉は黙りこんでしまった。

 彼女が何か言いたげにしているのが、電話でも伝わってきた。

「大丈夫だ、心配するな。しつこいようだが、いくら何でも学校で事を荒立てるようなことはしないだろうよ」

 僕が念を押してやると、篠倉はやっとのことで口を開いた。

『……ふん、だといいがな。……そもそも、彼女にそれを聞いたところで素直に答えてくれるとも限らないのに……』

 それを言われると……、返す言葉も無い。

 あなたがこの事件の犯人ですか? と直球を投げてやったところでバカ正直に答えるやつなどいないだろう。だが、それでも、相手があの白日芙蓉であれば、茶を濁すようなことはしないと、なぜだかそんな気がするのだ。

 確かにいつものらりくらりと飄々として怪しいやつではあるけれど、僕らが行き詰ったときにはいつもやたら回りくどい方法で背中を押してくれていた。だから今回も、なんだかんだで僕らの手助けをしてくれると、僕はそんな甘い期待をしている。

『……分かった、私の負けだ。君の言う通り、明日、直接本人にこの件に関して問いただそう。ただし、君一人にその役目を負わせるわけにはいかない。何かがあってからでは遅いからな、複数人で行った方が多少は安全だ』

「……悪いけど、それは――」

『……ダメだと言うのか? どうして?』

 篠倉は僕に問う。落ち着いた様子だが、そうはさせまいという気迫のようなものがあった。

「理由は……、悪い、特に無い。そうしないといけない気がするってだけだ。何となくな」

『……それで私が納得すると思うか?』

「……しないだろうな、たぶん」

 篠倉が、大きなため息を吐いたのが分かった。今頃篠倉は、僕をどうやって説得したものかと頭を抱えているに違いない。それは僕も同じだった。

『……良いだろう。どうせ私が渋り続けたところで、君は一人で勝手に済ませてしまうつもりなんだろう? だったらどっちでも同じことだ』

 さすが篠倉。僕のことをよく分かってくれている。だてに親友を自称してないな。

『ただしだ! 何回目のただし分からないが、言っておくぞ! 絶対に危険なマネだけはするなよ! いいな? 約束だ!』

「おう、約束だ」

 それだけ言って、僕は電話を切った。


 次の日――文化祭前日。

 今日は文化祭の準備ということだったが、どこをみても人が少ない。

 前年、この文化祭準備の日だけは普段サボり気味のやつらも一緒になって作業していたし、またやる気のあるやつらもいつも以上に張り切って作業していたはずなのだが……、今年に限ってはまるで活気が感じられなかった。

 僕ら生徒会はその閑散としている校舎を練り歩き、各教室の責任者に出展内容の最終確認をとる。これが芙蓉から言い渡された仕事だった。

 そして、僕が任されたのは三年生のクラスの出展。三年は高校最後の文化祭とあって特に気合いが入っているはずなのだが、彼らの教室がある三階に上がった時点ですでに重苦しい陰鬱とした空気感が伝わってきて察してしまった。

 教室前廊下は、どこもかしこも看板や装飾が半端でまるで廃れたシャッター街だ。とても祭という雰囲気じゃない。責任者への確認とはまた別に、事前にデジカメを渡されて、記録として準備の様子を写真に収めるようにとも言われているが、これを思い出として残すのはちょっと酷だろう。

 僕は各教室を訪ね、芙蓉から任された仕事を遂行する。しかしどの教室も人がまばらで、責任者はほとんどいなかった。だから誰かその辺にいる適当なやつを捉まえて適当に確認を済ませる。本当は細部まで確認して書類にそれを記入しないといけないのだが、相手が自分たちの作業形態を完璧に把握しているとも限らないので、それはこちらで適当に誤魔化しておいた。そのおかげと言っていいとか悪いのか、この仕事を芙蓉に任されてから半時間もしないうちに作業を終えてしまった。

 携帯の時計を見ると、まだ一〇時にもなっていない。少し……というか大分と早いが、ここで切り上げて生徒会に戻るか。そう思って僕は踵を返した。


 一足先に生徒会室に戻ると、室内に人の気配を感じた。

 扉を少しずつ開けて、中を覗くように入室する。中にいたのは、芙蓉だった。会長の机の引き出しを全て開け放し、おそらくそこから引っ張りだしてきたであろう書類を山積みにして、そこに座っていた。

「お前、まだ残ってたのかよ。現場を見て回らなくてもいいのか?」

「残念ながら未だに書類仕事が残っていてな。これが終わっても今度は体育館の会場設営を手伝わなければいけないから、今日はもう無理そうだ」

 この日会長は、やはり学校に来ることはなかった。

 分かっていたこととはいえ、改めて事実を目の当たりにすると結構堪えるものがある。

朝一の会議で芙蓉が生徒会長代理を務めたときは、昨晩の出来事がフラッシュバックして気分が悪かった。……ただまぁ僕らに直接的な影響はそれほど無くて、一番その割を食わされているのはやはり生徒会副会長である芙蓉なのだけれど。だからこそ今こうして、業務に終われているわけだし。

 そんなことを考えていたのが顔に出てしまったのか、芙蓉が作業の手を止めて言ってきた。

「なんだ心配してくれているのか? お前らしくないな」

「してねぇよバカ。……ただ、僕らの所為でそうなってるんだから、少し思う所があるだけだ」

「それを心配っていうんだよ、バカだなぁ」

 芙蓉は呆れたような顔をして、それからクスクスと笑った。

「ま、それほど気遣われたことでもないさ。こういう……人間味のあることをするために私は生徒会に入ったのだから」

 芙蓉は涼しい顔をして言うが、僕にはその意味がさっぱり分からなかった。

 学校に会社に人付き合いに、社会の荒波に呑まれ延々と馬車馬のように働き続けるのが人間だといえば確かにその通りだと僕も思うが。

「まぁそこまで心配してくれているのであれば、それを無碍に返すこともできないしな。一つ、仕事を頼まれてもらおうか」

「またそれか……。お前、最近僕を使うことに何の抵抗も無くなってきたな。まぁ僕もそれが目的で生徒会室に戻ってきたってのはあるけどさ……。何もしていないってのもそれはそれで不安になってくるし」

「だったら別に文句ないじゃないか。黙って僕の言う事を聞いておけ」

 何か釈然としないが、例の約束のこともあるのであまり強くは言えない。もともと、芙蓉の仕事を手伝うという条件を呑んだのはこっちなのだから。

「……まぁいいや。それで? 僕は何をさせてもらえばいいんだ?」

「なに、そう手のかかった仕事でもないさ。ただお使いを頼まれてくれればそれでいい」

「お使い? どっかから備品を借りてくればいいのか?」

「そう。明日僕らが使う椅子とテーブル。これを特別教室から借りてきてほしい。……そうだな、体育館前まで運んでもらおうか。そこまでやってもらえれば、あとは僕がやる」

 ……あぁそういえば、あそこの奥に折り畳みの長卓とパイプ椅子がほったらかしにされていたな。大方、あれを使って明日の本部席をこしらえるつもりなのだろう。

「別に構わないけど……、一度に全部は運べないから、当然何往復かすることになる。それだと手間だから、他に誰か手伝ってくれるとありがたいんだが……」

 具体的には那須美とか。一応女子である篠倉や野々宮に運ばせるわけにもいかないから。

「彼はまだ仕事中だよ。……それに、いくら手間が掛かろうがこれに関しては、お前一人でやってくれた方がいろいろと都合が良い」

 相手もその方が口を割りやすいだろうからな――と、芙蓉は続けた。

「いまいちよく分かんないけど……、要は僕一人でやれってことか。面倒なことこの上ないけれど……、まぁどうせ暇だしやってやるよ」

「悪いな、助かるよ」

 芙蓉の礼を聞き終える前に、僕は生徒会室を立ち去ろうとする。

「待て、最後に言っておくことがある」

 背中越しに呼び止められて、僕は歩を止めて振り返る。すると、いつの間にやら目の前に芙蓉が立っていた。

「これから起こることは君には少々刺激が強いだろうが……、心配はいらないぜ。僕が精いっぱいのフォローをさせてもらう」

「……は?」

 芙蓉がまたしても分からないことを言うので、僕は思わず口を開けて呆けてしまう。

 そんな僕の肩に手を回して、彼女は僕をふわりと包んだ。

「自分のことは自分が一番よく分かる。お前のことを一番分かっているのは……、他でもないこの僕だ」

 それだけ言って、彼女は僕を両手で突き押すと、「さぁ行って来い!」と見送った。


 二


 ――特別教室。

 中に入ろうと取っ手に手を掛けると、室内から物音が聞こえてきた。誰かいるらしい。

「……失礼します」

 断って戸を開けると、中にいたのは座頭橋先生だった。

 見ると彼女は、文化祭関係の備品らしい大小様々な物に埋もれながら、それらを運び出そうとうんうん唸っていた。

「あ、荻村君。ひょっとして手伝いにきてくれたの? いやー助かるなぁ」

「あ、いや別にそういうわけでは……」

「一人で運ぶにはちょっと多いからねー。ちょうど男手がほしいと思ってたところなんだよー」

 先生はにっこりと笑い、足元に散乱している花飾りやら立て看板やらの装飾をぴょんぴょんと跳ねて避けながら僕の傍に来る。

 もうすっかりと僕が手伝う気になってしまっているみたいで、今更断りづらい雰囲気だった。

「このありさま……、まるで倉庫ですね。いくら収納するスペースが確保できないからってこんなところに放置しなくても……」

 床にぽつんと一つだけ転がっている風船を軽く蹴って、僕は言った。

「うーん、別に放置しているわけじゃないんだけどね。他の空き教室は出展で使われるところが多いし、職員室も近いから管理がしやすってことで一旦ここに置かれているんだけど……、まぁ確かにもうちょっと整理はするべきだったかもね」

 先生はたははと苦笑して、頭を掻く。

 もしやとは思うが、先生が「この部屋に適当に放っておいて」とか何とか指示を出したんじゃないだろうな。

「それよりも荻村君。君が進んで人の手伝いをするなんて珍しいね。どういう風の吹き回し?」

 先生はさして悪びれる様子も無く、無邪気な笑顔をたたえて言った。

 どうしてみんな、僕が人の手助けをするなんておかしい何か事情があるからに違いないみたいな(てい)で話してくるのだろうか? まぁ実際、それが大正解なのだから何も言い返せないのだけれど。

「副会長に頼まれたんですよ。一応、今は僕も生徒会メンバーですからね」

 僕がそう言うと、先生は一瞬考えて、わざとらしくぽんと手を叩いた。

「ああ、あの子ね。白日芙蓉さんだったかしら? 私、あの子とはあんまりおしゃべりしたことがないから思い出すのに時間が掛かっちゃった」

「へー……、それこそ珍しいですね。だって先生、どんな生徒でもあつかま……、もとい積極的に話しかけるのに」

 思わず出かけた本音だったが、先生の気には留まらなかったらしい。

 彼女はいつもの考える素振りを見せてから、ふと残念そうな顔をして僕の問いかけに答える。

「それはそうなんだけど……、何だか近寄りがたいっていうか、逆に向こうが私のことを避けてるような感じがするんだよね」

「はぁ、芙蓉が先生のことを、ですか」

 それは考えもしなかったことだが……、確かに言われてみればそうかもしれない。

 最近になって先生が生徒会の活動に顔を見せるようになったというのにも関わらず、二人が会話をしているところをほとんど見たことがない。事務的なやりとりのためにちょっと会話を交わすぐらいのことはあるはずだし、そうでなくとも先生は自分から積極的に生徒と関わりを持つ人だ。それがそうじゃないということは、芙蓉の方から先生を避けている以外にはやはり考えられない。

 ……しかし、もし仮にそうだとしても、芙蓉がそんなことをする理由が見当たらないような……。

「まぁ……、そうだよね。別にあの子に何かしたってわけでもないし、特に避けられるようなことをした覚えはないんだけど……。そもそも、あの子とは最初からそんな感じだったから、そんなことをする機会も特になかったはずなんだけどなぁ……」

 うーん、知り合ったばかりの頃から避けられていたというのなら、芙蓉にとっては知り合うこと自体も極力回避したい出来事だったのかもしれない。

 あの芙蓉が、そうまでして先生との接触を警戒する理由か……。ますます分からなくなってきたな。

「そう言えば荻村君。君、白日さんに誘われて、生徒会の行事を手伝ってるんだよね? またどうして、そんな気になったの?」

「あぁそれですか。それはまぁ……、いろいろと事情があるんですよ。いろいろとね。説明するのもめんどくさいんであえて言いませんけど」

「えー、何それ。気になる言い方しといて意地が悪いなぁ……」

 先生はそのあとも「ねぇねぇいいじゃん教えてよ」と、しつこく同じ質問を繰り返したが、やっぱり面倒なので僕は適当にはぐらかす。それでも先生には諦める様子が見て取れなかったので、僕は無理やり話題を変えて気を逸らさせることにした。

「それを言うなら先生もですよ。蒸し返すようで悪いですけれど、なんで先生は生徒会の仕事を見学したいだなんて言い出したんですか? 以前、生徒会の仕事に興味があったからとか何とか言ってましたけど、生徒会は各教室から上がってきた出展内容をまとめるのが主な仕事ですし、むしろ裏方作業の事務的内容の仕事の方が多いじゃないですか。それなのにわざわざ――」


「あれ? もしかして、気づいてなかったの?――」


 僕の言葉を、先生が妙に重たい声で遮る。今までの明るい雰囲気と一転して、先生の瞳には暗い影が掛かったような気がした。まるで、彼女の周りだけに、夜の帳が下りたかのように。

 なせだろう……? なぜ先生は急に、いつもの柔らかな物腰から豹変してしまったんだ? 何か僕、先生を怒らせてしまうようなことを言っただろうか?

 動揺する僕は、何とか先生の表情を窺って、その心情を読み取ろうとする。でも、先生は張り付いたような笑顔を僕に向けるだけで、そこには何も感じられなかった。

 先生の今まで見たこともない空っぽの表情に、僕は余計に緊張して、怖ろしくなった。

「気づいてなかったって……、いったい何を……」

 しばらくの間、頭の中がもつれるように混乱していた僕は、やっとのことで呟いた。

 しかし、先生は微笑んだまま何も言わなかった。そしてそれはいつもの温かな微笑みとは違い、まるで温度が感じられない。今にも体が震えだしそうなくらいに、凍てついた微笑みだった。

「……君、まさか本当に私が、生徒たちの力になってあげたいがために彼らの悩みを聞いていたと、そう思っているの?」

「……違うんですか?」

 聞き返すが、先生はそれには答えずに、また別の質問を僕にする。

「私が君と関わるようになってから、君の周りで異変が起き始めたことに、今まで気づかなかったの?」

 教育実習生として、先生がやってきたのは四月。僕が悪夢を見始めたのも――四月。

「私が、君たち――つまり君や那須美君に、野々宮さん、そして煙草屋君の全員と関係があることに、何の疑問も持たなかったの?」

 ――そうだ。それこそが、僕が抱いていた違和感の正体だ。

 僕はあのとき――芙蓉が生徒会の相関図を書き終えたとき、まだ一人、そこに記されていない人物がいることに、実は思考の端で気づいていたのだ。

 生徒会のメンバーに関わりを持った人物を記した相関図――つまりそこには、那須美から相談を受け、野々宮が所属する弓道部のOBであり、生徒会の活動を見学することで煙草屋会長と接触した――座頭橋瑠璃が、他の誰をおいたとしても、まずもって表記されていなければならないのだ。

 そのことに僕は気づいていたはずだった。だのに、彼女が――座頭橋先生がそんなことをするはずがないと、はなからその可能性を否定して、彼女を真犯人の候補から外してしまったのだろう。およそ、無意識のうちに。それだけ僕は、彼女に気を許していたということなのか。

「なぁんだ。私、てっきり荻村君はとっくに気づいているのかと思ってたよ。それに、煙草屋君が君たちに負かされた昨日の今日のこのタイミングだしさ、彼から何か聞かされているんじゃないかなぁとも思ってたんだけど……、どうやら私の早とちりだったらしいね」

 先生が、会長の身に何があったのかを知っている。

 その事実が――僕らの心の弱い部分を利用して、僕らの夢を蝕んだ犯人が座頭橋先生であるいうことを、徹底的に残酷なまでに裏付けていた。

「まぁ、どうせ? いずれは君たちの夢に直接出向くつもりだったし、私の正体がばれるのも時間の問題で、それが早いか遅いかだけの違いなんだけどさ。それでも、こんなかたちでネタ晴らしされちゃって君も興醒めでしょう? ごめんね? 探偵ごっこの邪魔しちゃって」

 先生は、滔々と、捲し立てるような口調でそう言う。

 その言葉の速さに僕の理解は追い付けず、一人取り残されたような気分だった。

「で? どうするの君」

「……どうするって。どうもこうも……」

 脳内がいまだに混雑している僕は、言葉の意味をとくに考えもせずに条件反射でそう答える。

 見兼ねた先生が、補足して言った。

「だから、私が真犯人と分かったのはいいよ? だけど君たちは、どうやってこの一連の事件に片をつけるつもりなのかってこと。煙草谷君のときみたいに、勧善懲悪ってことで悪者はやっつけてしまうの? それとも、優しい優しい座頭橋先生にそんなことはできませんってことで見てみぬフリをしてくれるのかな? ……分かってるよね? 君、そのどちらかを選ばないとダメなんだよ? そりゃあ私的には後者の方がありがたいんだけど、なかなかそういわけにもいかないよね? じゃあどうする? 私を殺す?」

「殺す、だなんて……。だいたい……、夢世界での死がそのまま現実の世界での死を意味するとは――」

「限るんだよねそれが」

 限らない――そう言葉を継ぐつもりだったが、先生に先回りされてしまった。

「確かに君の言う通り、夢世界で死んだからってじゃあ現実世界でも同じような死因で同じように死ぬのかっていうとそうじゃないよ。でもほら、夢の中の自分ってのは自分の意識――つまり自分の精神なんだからさ、それが破壊されればもちろんただじゃすまないよね? 意識が無くなってしまえば、あとは人の形をした肉がそこに残るだけ、それはもう死んだのと同じことじゃない? 君はその目で見たことが無いから分かんないかもしれないけど」

「……自分は見たことがあるとでも言うんですか?」

「もちろんあるよ。もう十年以上も前のことだけどね」

 先生はどこか遠い目をして、それから、前髪を撫でた。いや、前髪をというよりは……その下の肌を、か。

「まぁその話も追々してあげるよ。そうだね、今夜あたりどう? 私の夢に来てみない? きっとビックリすると思うよ」

「……ビックリって、何がですか? もうこれ以上、今更驚かされるようなことはないと思いますけど」

 僕は皮肉を込めてそう言ったつもりだったが、先生はそんなことをまるで歯牙にもかけずに、涼しい顔で返す。

「それを今言ってしまったら台無しじゃん。知りたかったら、直接私の夢に出向くしかないよね。……まぁどうでもいいって言われたらそれまでだけど、でもきっと君は、そうは言わない」

 言い終えると先生は、目を細めて、口角を釣り上げて、また僕に微笑んだ。……いや、それは微笑みというよりも、ただ顔を歪めているだけと言ったほうが的確だろうか。

 僕の全身を、粘ついた何かが絡みつくような感覚が支配した。

「……なぜ、そう言いきれるんですか? 今後、あなたとは関わらないように学校生活を送ることだって、僕にはできるんですよ? 教育実習生という立場でこの学校にいるあなたは、もう何日としない内にこの学校を去る。あなたとやり合う必要もなければ、あなたに怯える必要もない」

 このままでは相手の雰囲気に呑まれてしまうと思った僕は、努めて冷静を装い、やり返す。

 ところが、先生はそんな僕の見え透いた虚勢を、ケタケタと笑い飛ばした。

「乱暴だなぁ君は……。私はただ君をビックリさせたいから、私の夢に招待しただけなのに。何? 私が君を罠にはめようとしているとでも言いたいの?」

「………………」

 僕が無言を以て答えると、先生は人差し指を顎にあてがって空中を見つめる。それから、言った。

「うーん、まぁ半々ってところかな。君とは積もる話もあるし、話をつけなくちゃならない。少なくとも君の言うように、このまま見て見ぬフリでなあなあにするわけにもいかないでしょ? それは、今までずっと人様の問題にわざわざ首を突っ込んできた、君が一番よく分かっているはずだけど」

 それは……、先生の言う通りだった。

 僕らから先生をを避けることはできても、彼女から近づいてくるものはどうしようもない。確かに、いずれ彼女はこの学校を去ることになるが、夢世界を利用すれば僕らと簡単に接触することができる。いつ先生が、僕らの隙を狙って襲撃してくるか分かったものではない。彼女の手によって、僕らがまた悪夢にうなされてしまうようなことになりかねないのだ。

 それを回避するためには、先生と何らかのかたちで決着をつけなければならない。

 逡巡していると、先生が「やれやれ、仕方ないな」と、呆れるように呟いた。

「……そうだね、今日一日だけは待っておいてあげる。君も何かと心の準備が必要だろうから、今日だけは私、受け身でいてあげるよ。私は私の夢で、おとなしくお行儀よく君を待っている。でもそれを過ぎれば、明日になれば――私は君を殺しにいくよ」

 と先生は、無表情で、無感情に、まるで僕がいることなんてすっかり忘れてしまったように、宣告した。

 誤魔化しや脅かしの無いその無味乾燥さが、かえって僕を恐怖させた。

「おっともうこんな時間か。そろそろ行かなくちゃ」

 はたと、先生は腕時計を見て、途端に普段の調子に戻る。

 そして先生は、部屋の隅に置かれていた段ボール箱をよいしょと抱えると、僕の目を見て、いつものやわらかな笑顔を浮かべて、僕に言った。

「それじゃ荻村君、私待ってるから。最期の生徒指導、すっぽかさずにちゃんと受けに来るんだよ」

 閉まった扉を足で器用に開けて、先生は「じゃあねー」と軽い感じで部屋を出て行った。

 僕はと言えば、しばらくその場で突っ立ったまま動けなかった。


 三


 ――夢の中。

 結局、僕は特に考えの無いままに、先生の夢へと繋がる扉を呼び出していた。

 考えの無いままにというか、最初から考えることを放棄していたような気さえする。今ここで思い悩んだところで僕にはどうしようもないという諦念がどうにも拭いきれず、かと言って、このまま事を放っておくわけにはいかないという焦燥感が、僕を行動に移らせた。

 再三言うが、特に考えがあってのことではない。故にこの扉を開けてしまえば、僕の身に何が起きても不思議ではないし、その不測の事態を切り抜ける策があるわけでもないので、明日の朝日が拝めるかどうかも分かったものではない。それでも避けては通れないことだから、有り得もしない僥倖に期待して、どうにか事がうまい具合に収まりますようにと、そうでなくとも最悪の事態だけは回避できますようにと、願う他ないのだ。

 まるで、全く勉強せずに受けたときの中間テストみたいだなと、僕は自嘲気味に笑う。たいしてうまくもないが。

 僕は決心して、というよりも諦め直して、扉を開いた――


 そこは、どこにでもあるような、とは少し言い難い家だった。

 たぶんここは、どこかの家の、おそらく座頭橋先生の家の、二階だろう。それは分かる。

 ただ、そこらじゅうに何かしらの傷跡というか、壁が凹んでいたり和室のふすまが破れていたりところどころ引っ?き傷のようなものがあったり、一番びっくりしたのは浅黒い血の跡のようなものが壁にこびり付いていたことだったが、とにかく異様な雰囲気だった。

 おっかなびっくり廊下を歩き、僕は真っすぐ階段を目指して、速足で駆け下りる。

 一階は、二階よりもさらにひどかった。

 空きっぱなしの扉から少しだけリビングを覗けたのだが、壊れていない物の方が少ないと言ってもいいぐらいだ。木製の小棚にはぽっかりと穴が空き、足の折れた椅子が床に転がっていて、ソファは破れて中の詰め物がはみ出ていた。そして僕が見た限りでは、たぶんこの部屋が一番、壁の汚れや傷が多かった。

 どう考えても、普通に暮らしていてこんなことになるはずがないし、そんな状態のまま放っておくわけがない。……ってことはつまり、この家では、誰も普通に暮らしていなかったということだ。

 思わず鳥肌が立ってきて、僕は早急にこの場所から、この家から立ち去ろうとする。

 玄関に向かい、そこにあったボロボロに履き潰された小さな靴を脇目に、僕は外へと出た。


 ――驚いた。

 こんなことがあるのだろうか。

 玄関の外は――まるっきり現実の世界と何ら変わりのない、いたって普通の住宅街だった。

 見上げれば青い空がどこまでも広がっているし、この家並みはずっと先まで続いていて、探せば僕の家だって城野高だってありそうだ。まるで、僕は夢から覚めてしまい、そのまま寝ぼけた頭で家を出たのかと錯覚を受けるぐらいに、現実世界とそっくりだった。

「やあ、荻村君。来てくれると思っていたよ」

 声の振ってきた方を向くと、はす向かいの家の屋根に、足だけ下ろして座頭橋先生が座っていた。

 手に――何かの腕を握って。

「ああ、これ? 心配しないで、これは夢魔の腕だから。この間からひっきりなしに私の夢の中に出てくるんだよね……、もう随分と前からそんなこと無かったのに。たまに見つけても刃向ってくることなんて一度も無かったし、むしろみんな私の言うことを従順に聞いてくれてペットみたいで可愛かったのになー」

 言って、先生はその腕をまるでゴミか何かのようにぽいっと投げ捨てる。

 夢魔の腕が僕の目の前で、落下と同時に、その赤い血を飛び散らせた。

 普段ならそれが異様なことに思えて騒いでいただろうが、不思議と今は落ち着いていた。      

 顔に血の飛沫がいくらか付着したが、僕は至って冷静にそれを拭うと、周囲の景色の観察に戻った。

 それがかえって目立ってしまったのか、先生はそのときの僕の心の内をあっさりと見破った。

「私の夢がそんなに気になる?」

「……ここは言ってみれば敵陣みたいなもんですよ? 警戒するなって方が無理な話です」

 殊更に語気を強めて、僕は相手に気圧されないように努める。そうでもして自分を奮い立たせないと、今の僕には、先生に完全な敵意を向けることが難しかった。

「ま、それもそうだね。だって私、君を殺すよーって宣言しちゃってるんだから。……うん、確かにそうだ」

 先生は屋根の上からタッと飛び降りると、さっき夢魔の腕を投げ捨てた辺りに、つまり僕のほぼ目の前に着地する。

 そして、先生は出し抜けにこう切り出した。

「私が今見ているこの夢、実は悪夢なんだ」

 ……悪夢? この夢が? 

 確かに、現に夢魔が出現しているわけだからこの夢は悪夢なのかもしれないが……。そもそも先生には悪夢を見る理由が無いはずなのだが。

 だいたい、これが悪夢というのなら――先生は、この世の全てに等しく憎悪を抱いているということになる。

「そう、その通りなんだよ!」

 先生は我が意を得たりとばかりに僕の肩をぽんと叩いた。

 それから大袈裟に両手を開くと、空を見上げて、ほとんど叫ぶように言った。

「私はかつて……ううん、今だって、この現実世界が大っ嫌いなの! 大っ嫌いで仕方がなくて、だから私は夢を見るのが好きだった! 毎晩、眠りの時間だけがたまらなく待ち遠しかった! どうしてだか分かる? 荻村君!」

 先生は不気味なくらい快活にまくし立てるので、そのあまりの気迫に思わず僕はたじろいでしまい、二歩も三歩も後ろに下がる。

 それを見て我に返ったのか、先生は急に落ち着き払って、また普段の調子で語り始めた。

「私、小さい頃からずっと虐待を受けていたの」

 その瞬間――僕には時間が止まったように思えた。

 周囲の時間の流れが硬直し、僕の頭の中で先生の台詞が絶えず反芻される。

 焼け付くように耳に残った『虐待』という言葉の意味を、僕はやっとのことで思い出し、そしてようやく理解した。

「私の親、かなり若い頃に私を生んじゃったらしくてね、親になった喜びよりも煩いの方がずっと大きかったみたいなの。だからか親としての自覚や責任は毛ほども芽生えなかったみたいで、ほとんどネグレクトみたいな状態だった。それでも周囲の人の目があるから完全にほったらかしにされることは無かったんだけど、何か自分たちの気に入らないことがあれば、すぐに八つ当たりされた。殴る蹴るは日常茶飯事だったし、それで泣き喚こうものならもっとひどい目にあわされた。だから私はあいつらの機嫌を損ねないように、いつも家の隅で膝を抱えてじっと座っているようにしていた」

 親の機嫌を損ねないように、ただじっと座っている――自分の気配と存在を殺し、ただ一人きりでぽつんと小さくなって、先生は幼少のころから過ごしてきた。

 それがどんなにつらいことか、いや、ただ一言つらいというだけではあまりに稚拙で不相応だろう。両親に怯えてじっと息を潜めている間、先生は何を考えていたのだろうか?

それを僕程度が代弁するなんて到底できそうにないし、些かおこがましいというものだ。

 先生は僕の隣にやってくると、適当な場所に背中をもたれさせ、なおも続けた。

「ずっとそうしてすごしていたんだけど……、あるとき、小学生の高学年くらいのときかな? それが何だったかさっぱり覚えてないし、もしかしたらさほどたいしたことでもなかったのかもだけど、さすがに我慢ならないことがあってね。それであいつらに反抗したことがあったんだよ。……で、案の定というか予定調和というか、やっぱり二人とも激情してね。気が触れたように怒り狂って、今までは何かあるたびに一発もらう程度だったのが、殺されるんじゃないかってぐらいにぼこぼこにされたよ。父親は私に馬乗りになって殴り続けるし、母親は私の髪を引っ張って引き摺り回すし、それはもうひどかった。そうそう、息が止まる寸前まで首を絞められたりもしたかな。正直、もう何をされていたのかも曖昧なぐらいに意識が朦朧としていたから、それもよく覚えてないんだけど。ただはっきりと、それだけは鮮明に、今でもたまにそのときのことがフラッシュバックするぐらいに覚えていることが一つだけあってね……」

 先生は――顔の左半分を覆い隠している長い前髪をかき上げ、そしてこちらを向き――

「どこから持ってきたのかわざわざ準備したのかよく分かんないけど、風呂桶に入れた熱湯を……私の顔にぶちまけたの」

 と、僕に――火傷でひどくただれた顔を近づけ、まざまざと見せつけた。

 僕は……、僕はそのときどう感じたのか、自分でもよく分からなかった。

 驚いて声も出なかったのか怖くて腰が抜けたのか悲しくて嘆いたのか怒りに震えたのか、あるいはその全てなのか。いろんな感情がないまぜになって、急に何もかもが分からなくなった。

 なぜ僕はこんなところに来てしまったのだろう? ここに来さえしなければ、こんな得体の知れない感情に襲われることもなかっただろうに。今すぐに帰りたい。ただ自分の力では、この人から逃げることはできない。誰でもいいから僕を、この場所から連れ去ってくれ!

「そこから先はもう完全に覚えてない。たぶん、そのまま意識がとんじゃったんだろうね。次に目覚めたのは、病院のベッドの中。それからすぐに知らない大人の人たちがやってきて、私はしばらくの間、両親と離れて暮らすことが伝えられた。間もなく私はそういう特別な子供の面倒を見ている養護施設に引き取られて、ようやくこの苦しみから解放されるのかって、その代償がこの火傷なんだって、やっと包帯がとれてむき出しになった肌をさすりながら、自分を無理やり納得させた。そのときはまだ子供だったし、いつかこんな火傷はすっかり治ってしまうだろうって信じてた。……でも、そうはならなかったし、また別の問題が私の身に降りかかった」

 いたたまれなくなって、僕はその場を逃げるように立ち去ろうとする。

 だが、先生に素早く腕を掴まれてしまい、それは叶わなかった。

「それから身の回りのことがやっと落ち着いて、私は学校生活に復帰したんだけどね。私のこの顔が気味悪いのか、みんなの私を見る目つきが明らかに変わったの。まず初めに、私に関わろうとする子が段々と減ってきて、その次に陰で私の噂をする子が増えてきて、それから私が教室に入るたびにそこかしこからくすくすと小さな笑い声が聞こえてくるようになって、いつの日にか私は、クラスのみんなからいじめを受けていたわ」

 先生の、僕の腕を掴む力が一層強くなる。爪が食い込んで血が滲み、振り払おうとしても傷口が抉れるだけだった。

「……くっ、くくく」

 先生が、ぼくの腕を掴んだまま、もう片方の手で額を押さえて自嘲するように、笑う。

「くくっ――はははは――あははははは!」

 ようやく僕の腕を話すと、先生は抱腹して、その場に崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。

 そのおかげで僕は、やっと解放される。腕にはくっきりと爪の跡がつき、肌は内出血で赤紫色に変色していたが、しばらくの間僕はそれに気がつかなかった。

 いまだに狂ったように笑っている先生に、僕は尋ねる。

「……何が、何がおかしいんですか? 先生」

「だってさ、だってこれが笑わずにいられる? 無理やりにでも笑わないと私、気が変になりそうだよ。……いや、もう変になってるのかな」

 先生はゆらりと立ち上がると、真っすぐに僕の方を向いて、一歩二歩と歩み寄ってきた。

「それから私が、君たちの言う超明晰の力を使えるようになるまでに、さほど時間はかからなかったよ。私は私自身の不幸足る所以を理解していたし、その頃の私はいつも、もしも私がこうだったらああだったらって妄想して現実逃避していたからね。自分が何を求めているのかは、わざわざ再確認するまでもなかった」

 先生はシャツのポケットに手を入れる。そしてそこから取り出したのは、カッターナイフ。その刃を僕に見せつけるようにして、チキチキと伸ばした。

「私が夢の世界の仕組みに気がついて、まず初めに何をしたと思う?」

 僕が反応する前に、すぐに先生は喰い気味で答えを言った。

「親をねぇ、殺しにいったの。もちろん現実の世界でそんなことをしたら捕まっちゃうから、夢の世界でだけどね。何とか他人の夢に行く方法を探し出して、そこからさらにあいつらの夢を見つけて、私は二人を殺した。逃げまどうあいつらを執拗に追いかけて、ちょろちょろ動き回られたら面倒だから足の骨を折って、何度も何度も切り裂いて、最後に顔を焼いて殺した。――それはもうっ……、痛快だったよ!」

 体の小刻みな震えを両腕で抱えるようにして抑えて、先生は恍惚の表情を浮かべた。

 火照った体の熱を逃がすように先生は一つ息を吐くと、間を置いてから続ける。

「あいつらが私に乱暴する理由が分かったような気がしたよ。そりゃあこんな感覚一回でも味わってしまったら、癖になって止められないよね」

 ――狂っている。この人は狂っている。きっと度重なる惨苦が、先生をおかしくしてしまったのだろう。先生は頭のネジもたがも、何もかも外れてしまっているんだ。

 僕は今までこんな人と関わり合いになっていただなんて、思い出すだけでも身の毛がよだつ。こんな人とは、先生とは、座頭橋瑠璃という人間とは――間違いなくまともに取り合ってはいけない。でなければ、僕も彼女の両親と同じ目に合わされてしまうだろう――

「あ、そうだ。私がどうやって君たちに悪夢を見せていたか分かる?」

 先生とはぴんと人差し指を立てて、僕に尋ねてきた。

 しかし僕はまるで見当がつかなかったし、これ以上彼女に裏切られるようなことを聞きたくなかった。だから「……いえ」とひとこと言うだけで、他に何も答えない。

 それでも先生は無理やり押し付けるように、その答えを僕に聞かせた。

「あのね、私、ずっと生徒の相談を受けていたでしょう? あれ、二つの意味があってね。一つは生徒の夢の中に行くため。生徒がどんな人物か知っていなくちゃその子の夢の中には這入れないからね。もう一つは、生徒のトラウマを知るため。その子がどこに傷を抱えているのかを知って、それをその子の夢の中で再現するの。例えば君だったら、君が独りになるような空間を作りだしたり、母親の怒鳴り声を聞かせてやったりとか……、要は悪夢の骨組みとなるものを用意すれば、あとは簡単に悪夢ができあがる。煙草屋君がやってたのもこの方法だよ」

 というより私が彼に教えたんだけど、と先生は付け加えた。

「煙草屋君は自分がなまじ優秀な分、思い通りにならなかったときは何でも人の所為にする嫌いがあるからね。それだけ他人に対する不満も大きかったから、すぐに悪夢を見せることができたし、それが逆に使えるかなと思って、彼は特別扱いで私の手駒にすることにしたの。そしたら案の定せっせと働いてくれて、私が手を掛ける必要もなくなっちゃうぐらいだった。……本当に扱いやすい子だったよ彼は。何せ素直で、それ以上にバカだからね」

 先生はそう冷たく言い放つと、大きなため息を吐く。

「……あーあ。教師になれば生徒を使って遊べると思ってたのに、君たちの所為で調子が狂っちゃったよ。……とくに――篠倉美鷹。まさか過去に悪夢を経験した子が、よりにもよって私が研修に来た学校にいるだなんて……思ってもみなかった。とんだ誤算だったよ」

 先生はカッターの刃を伸ばしたり縮めたりを繰り返しながら、憎々しげに呟いた。

 それで今やっと、会長の言っていたことの意味を理解した。

 あの人とは座頭橋先生のことで、イレギュラーとは、悪夢の対処法を知り得ている人間――つまり篠倉のような人間がいたことで、一度悪夢を見せたはずの人間がその悪夢から免れることになるとは想像だにしなかったということだったんだ。

「ほんと……誤算だった。誤算も誤算。誤算誤算誤算誤算誤算…………」

 ――だん! と、先生はいきなりその場で地団駄を踏んで、喚き散らした。

「私と近い境遇だったから君のことは気に入っていたのに……! 特別時間を掛けて長い長い悪夢を見せてあげるつもりだったのに……! それをあの子は無駄にして、しかもそれだけじゃあない! 次は荻村君も一緒になって、私が折角手を掛けてきた悪夢をことごとく台無しにした! その上、何? やっすい友情ごっこまでしてくれちゃってさ。あまりの臭さに鼻が曲がりそうだったよ。臍はもう曲がってるけどね」

 自分で言ったことが可笑しかったのか、先生は愉快そうにニヒヒと笑った。

「おかげで私も、さすがに気分が悪くなっちゃってね。それでこの悪夢だよ。……あれだろうね。今までの凄惨な環境から抜け出そうとしている君が、妬ましかったんだろうね。ほら私、君にとっての篠倉さんたちみたいに、心の拠り所になってくれる人なんていなかったから」

 先生は辺りを見回して、それから僕に目線を移して言った。

「私はね、荻村君。悪夢にうなされていた頃の君の方が、誰も頼れる人がいなかった孤独な君の方が、ずっと素敵だったと思うよ。誰にも心を開かずに、いつも下を向いて生きていた君の方が。どこか割り切ってるっていうか、何もかも目に映る物全てを諦めている感じの瞳が、凄く魅力的だった。……そうだよ、絶対にその方が良かった……」

 先生は俯き気味で何やらぶつぶつと呟いている。何を言っているのかはさっぱり分からないが、これから良くないことが起きるというのはことだけは嫌というほどに理解できてしまった。

「……私がまた、君に悪夢を見せてあげるよ。終わることのない、永遠に覚めない夢を――」

 と、小声でだったが、確かにそう聞き取れた。そしてその言葉を理解した次の瞬間には――先生が、僕に向かって跳び掛かっていた。無論手には、限界まで刃を伸ばしたカッターナイフが握られている。

「っ……!」

 僕は反射的に、腰に帯びていた刀を抜刀する。しかし間に合わず、刃が僕の右腕をかすめた。それでもこの咄嗟だから、直撃を避けただけでも奇跡みたいなもんだ。あともう少しだけでも抜刀が遅かったら、刃が腕の間をすり抜け腹の中心に突き刺さっているところだった。

 腕の傷口を片手で押さえながら、僕は慌てて先生と距離をとる。一方先生はその場でしばらく突っ立って、不思議そうに僕を見つめていた。

「あれ? なんで逃げるの? なんで武器を構えるの? 君まで……、私をいじめるの?」

「ふざけないでください……! あなたが先に僕を……」

 言いかけて、僕は気づいた。

 たいしたことはないが、先生の右手にも、浅い切り傷がついている。たぶん抜刀の拍子に、刀の刃が先生の手に接触したのだろう。いじめるというのは、このことを指していたのか? それにしたって、僕らにした仕打ちを考えてもいくらか大袈裟すぎるような気がするが……。

 そう思ってふと先生の顔を見ると……、なんと彼女の頬には、一筋の涙が伝っていた。

「え? あ、あの……、先生?」

「……たい」

「は?」

「……痛い。痛い、痛い痛い痛い痛い痛いイタいイタいイタいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ――」

 僕がつけてしまった傷で、先生は何を思い出したのだろうか? 膝をつき、苦痛に顔を歪め、体をぶるぶると震わせて、先生は壊れたラジオのように小さく何度もただただ痛いと繰り返す。

「……はぁ……はぁ……はぁー……」

 過呼吸気味に深呼吸をして、やっと落ち着きを取り戻す先生。

 先生は苦しそうに胸を押さえながら立ち上がると、最後にまた大きく息を吸う。それから虚ろな目で僕を睥睨して、小さく舌打ちをした。

「ほんっと嫌な気分……。痛いし息苦しいし昔のことは思い出すし……、それもこれもみんな君の所為……。おとなしく私のオモチャになっていればよかったのに……、ね!」

 瞬間――地面を弾くように跳躍した先生が、逆手に持ったカッターを僕に向けて襲い掛かった。

 その弾丸のような圧倒的な速さは、篠倉に勝るとも劣らない。おかげで、防御するのがやっとだった。

 鍔迫り合いの状態で張り付いたままでは獲物の長さで圧倒的に不利だから、僕は何とか間合いを作ろうと後ろに下がる。が、それとほぼ同時に先生も詰め寄って来て、さらにその度に僕を切りつけてくるものだから、受け手に回るので精一杯だ。しかも先生は、カッターを順手に逆手に持ち替えて、突いたり切ったりときにはフェイントを織り交ぜて変則的に襲い掛かってくるので、どうにも切り筋が読みにくい。目線は僕の目だけに向けられているし、まるでどこを狙っているのか分からない。それは会長のような単なる素人芸ではなくて、かといって僕のように型にはまった競技としての剣術でもなく、言うなれば相手を痛めつけ殺すことだけを目的とした何でもありの喧嘩殺法だ。全く今更だが、この人は僕を本気で殺しにかかっている。

「あははははは! ねぇ楽しい? 楽しい? 荻村君。 私はすっごい楽しいよ!」

 先生はカッターを振り回しながら、甲高く笑う。

 ……それにしても、よくもそんなにころころと表情を変えられたもんだ。さっきから事あるごとに態度や情調が急変するし、あまりにも精神が不安定だ。普段の先生からでは全く想像もつかなかったことだが、今の先生は、抑鬱と興奮が頻繁にスイッチしている。

 ……とすると、もしかするとそこに付け入る隙があるのかもしれない。人間、精神状態が劇的に変化する瞬間は、集中力が途切れるものだ。自分の様々な感情を整理するのに思考と意識のリソースを割いて、他のことには手が回らなくなるからな。その節目を狙って、僕に注意が向けられていない一瞬の隙に攻撃を仕掛ければ、何とかこちらにも勝機はあるかもしれない。

 ……そんなことをつらつらと考えていると、

「――がっ……!」

 突然、下腹部に強烈な痛みを感じ、後ろによろける。どうやらカッターを持った右手ばかりに気をとられている隙に、左手で鳩尾を殴られたようだ。

「……ダメだよ荻村君、考えすぎるのは君の悪い癖。打開策を見つけるのも大事だけど、今この状況を凌がなくちゃどのみち一緒なんだから。……傷つけあうってことは理屈じゃなくて、もっと衝動的で感覚的なものだよ」

 ……隙だらけなのは、僕の方か。そりゃそうだろうな。だって一番動揺しているのは、様々な感情の整理ができていないのは、この僕なのだから。

 今だってできるだけ今までの先生のことは忘れようとしているのに、どうにも頭から離れない。応戦しようと刀を振り上げても、あの特別教室で無理やり相談をさせられていた日々のことが頭によぎる。力なく、また刀を下ろすことしかできない。

 仕方ないだろ。だって、つい昨日までは先生と普通に接していたんだぜ? 普段と何も変わらず先生の授業を受けて、何げない会話をして、いつもの近況報告をして、それだけだったのに、どうして僕は今先生と刃を交えているんだ?

 ――何度も何度も同じ疑問が繰り返し頭に浮かぶ。

 こちらにも勝機はある。それは間違いない。だがこのよく分からない争いに僕が勝ったとして、どうなるんだろうか? いや正確には、勝つとはどういうことを指すのだろうか? 負ける条件ははっきりしている。僕が先生に殺されることだ。ではそうならないためには、僕が勝つためには、先生を殺さないといけないのだろうか? 僕は昼間先生と別れたときから、再三自分に問うた。もちろん僕は殺されたくはない。しかし、僕に先生を殺すことなんて到底できない。だったら僕は、どうすればいい? いまだ答えは出ない。

「……何? 君、まだ私と闘うことに迷いがあるの?」

 先生は一旦攻撃の手を休めると、僕に、憐れむような呆れるような視線を投げた。

「何のために時間をあげたと思ってるの? 私、言ったよね? 心の準備をしておきなさいって。それなのにまだ踏ん切りがつかないの? だったらなんでここに来たの?」

「………………分かりません」

 まっすぐと僕の目を見る先生とは対照的に、僕は下を向いて、ぼそっと独り言のように呟いた。全身の力が手足の先からどんどん抜けていくような気がして、握っていた刀はもうほとんどぶら下がっているだけにすぎなかった。

 そんな僕に追い打ちをかけるように先生は、つかつかと傍までやってきて、僕をなじった。

「あのさ荻村君、確かに私、君とは話をつけないといけないって言ったよ? でもさ、当然それは、言葉通り話し合いで決着をつけるって意味じゃないよね? それは君も分かってたことでしょ?」

 僕は先生の方を向きもせずに、俯いたまま黙って頷いた。

 それを受けて先生は苦笑する。

「でしょ? じゃあなんでそんな半端な覚悟で私に挑むのさ? まさか君、私が君のことを見逃すとでも思っていたの? ……笑っちゃうね。甘すぎるよ、荻村君」

 吐き捨てるように言って、先生は僕の顔を振り払うように殴った。全身脱力していたこともあり、僕の体は跳ね飛ばされる。

 そして先生はその場に倒れてしまった僕の顎を乱暴に掴むと、無理やり立ち上がらせた。

「いい? 荻村君。私はね、君を自分の手元に置いておきたいの。キレイな箱の中に大事にしまって、ずっと変わらない景色の中ただたださまよう君の姿を、私は眺めていたいのよ。鳥かごの中の鳥みたいにね。だから私が君に手を出さないだなんて、万に一つも有り得ないの」

 先生はそっと僕の顔から手を放すと、僕の体をぎゅっと抱きしめた。そして、耳元で小さな子供に語りかけるように、優しくゆっくりと囁く。

「君にはまた悪夢を見せてあげる。君が一番魅力的だった、あの子たちと出会う前の君の夢を、ずっとずっと見せてあげる。……特別だよ、荻村君。私、他の子にはこんなことは絶対しないんだから――」

 先生はそこまで言って、僕の頭をそっと撫でる。

 名残り惜しそうに手を放すと、僕の肩を強く掴み、もう片方の手を縦に大きく振りかぶった。

「あ――」

 それとほぼ同時に、僕の胸部に焼け付くような鋭い痛みが走った。

 見ると、先生が僕の胸にカッターを突き立てている。体中の熱と共に血液が傷口から漏れ出し、頭の中がしだいに空白で埋め尽くされていく。足に力が入らず倒れそうになった僕を、先生が両手で抱えて支えた。

「……そ、君は特別。君の暗澹とした日々を、悪夢の中でもう一度、永遠に見せてあげるの。それは夢と現実の区別もつかない胡蝶の夢――いつの間にかその夢が君の中での現実になって、現実の世界のことなんてすっかり忘れちゃうだろうね――」

 聞き取れたのは、そこまでだ。それ以降は意識が朦朧として、目を開けていることすらつらくなっていた。

「行ってらっしゃい。荻村君」

 完全に僕の意識がなくなる間際、先生はもう一度僕の体を優しく抱きしめて、たぶんそう言った――


 ――――――――

 ――――

 ――


 ピーピッ――ピーピッ――ピー……。

 目覚まし時計の癇に障る音を、僕は途中で遮った。

 時刻は午前七時ちょうど、朝の身支度を済ませ電車の時刻に間に合わせるには、割とぎりぎりの時間だった。

 僕はベッドから跳ね起きると、急いで顔を洗い歯磨きを済ませ制服に着替えて家を出る。朝食をとるのを忘れてしまったが、学校ではほとんど寝て過ごすだけでたいしてエネルギーも使わないので、さして問題はないはずだ。

 桜並木を小走りで過ぎ去り、僕はバス停まで向かう。走りながらケータイで時刻を確認すると、午前七時一九分。後ろを振り返ると、向こうの方にもうバスが見えていた。

 バスと並走するようなかたちでバス停に到着した僕は、息を整えながら一番後ろの席につく。

 駅まで約一〇分。まだ眠気が残っていたので、僕はこの間少し目を閉じておくことにした。

 バスに揺られながら、僕は昨夜のことを考える。昨夜は、何か大変な夢を見ていたような気がする。僕はそこで絶体絶命のピンチに陥っていたはずだが、そのピンチが何だったかはまるで思い出せない。とりあえず夢を見たことだけは覚えているのだが、その内容はさっぱりだ。だがまぁ忘れてしまったということはたいしたことでもないのだろう。ただでさえ心労が常日頃から多いというのに、そんなくだらないことを思い出そうとして無駄に頭を使う必要も無いだろう。そんなことを考えている暇があれば、今日の小テストの勉強をした方がいくらか有意義だ。

 今日は四月一二日――二限目に倫理の小テストがある



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