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天空の墜落  作者: 卯月
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戦闘狂の噂

「…お前よくこんなの動かせるな」


ガラガラと砂利や石が転がっている安定しない道を進むのは、いなくなった馬の代わりに馬車を引くレックス。昨日のように山賊に襲われないよう、彼の隣を歩いていたアレスが関心したように声を出す。


「車輪が付いてるからまだ動かしやすいけどな!どっかに野生の馬いねぇかな…」

「居たとしても鞍もないし、調教もしてないから無駄だけどね。本当君は思ったことをすぐ口にするね」

「言ってみただけだよ!悪いか!」

「誰も悪いなんて言っていないよ。頭が悪いなぁとは思ってるけど」

「てんめぇ…」


レックスが御者台に座っているウィリットを睨むが、彼は涼しげな顔で景色を楽しんでいる。


「お前ら仲悪いのか?」

「仲は悪くないよ?僕ら同じ村出身だし、本当に仲が悪かったら同じ騎士になんてならないさ。レックスは直情型だから、冷静な僕が操作してやらないとね。あ、あまり揺らさないでね、僕は乗り物酔いしやすいんだから」

「んじゃあそっからどけや!」


チッと舌打ちをしたレックスは隣を歩くアレスを見やる。


「お前らの行くブロクストってなにもない田舎村だけど、親戚でもいんの?」

「いや、呪いに詳しい奴が居るって聞いてな」

「…何。オタク誰か呪いたい奴でもいんの」

「違う。呪いを解いてもらいたいんだよ。そこに解ける奴がいるかもしれないって噂を聞いてな」

「呪いを解いてもらうねぇ。アレスくんって悪いことでもしたの?」

「してねぇ。親から呪い貰っただけだ」

「へー、親から子供に伝染るなんていやらしい呪いだ。どれだけ恨んでたんだろうね」

「…俺が知るかよ」

「そういえば、お二人の目的地はギークでしたっけ」


話題を変えるティリアの問いにウィリットが頷く。


「ギークの城でリカルラという女性が働いているのですが、知ってますか?」


リカルラ。その名を出した途端、レックスはゲッと顔を青くし、ウィリットは苦虫を噛み頃したような顔をした。


「どうしたお前ら」

「いや…思い出したくねぇ奴の名前がでてきて…」

「ティリアちゃん…なんであの人の名前を…?」

「幼馴染なんですけど…。あの、リカルラが何か失礼なことでも…」


焦るティリアにいや…とウィリットが首を振る。


「失礼というか…ね」

「あんなのが幼馴染か…。幼馴染なら、あの戦闘狂を何とかしてくれよ」


レックスの言葉にどういう事か察したティリアはあー…と苦笑いをこぼす。


「ちなみに、彼女はどこで働いているんですか?前はメイドだったのですが」

「同じメイドだよ」

「メイドなのに何で騎士団の訓練に割り込んでくるんだよあの女!」


やっぱり、と呟いたティリアに反応したウィリットが前もやってたの!?と驚く。


「はい…騎士団の魔物退治にも喜々として乱入してました」

「うわぁ…簡単に想像できる…」

「…なんか、お前らの話聞いてると…色々と凄い女なんだな」

「凄いなんてもんじゃねぇよ…。あれは酷い」

「一緒の部隊には居たくないよね。巻き込まれるよ、アレ」

「お前は後衛だからまだマシだろ。俺なんかアイツと同じ前衛だぞ…。いつ巻き添え食うか分からねぇんだぞ」

「…流石に味方を巻き込みはしませんよ」


多分、とティリアは脳内で補完した。


「あの剣の腕も凄いけど、彼女がメイドとして働いているのにも驚きだよね…。傭兵でもやっていけそう」

「リカルラは元々メイドとして雇われていたので…。メイドとしての仕事はちゃんとしていますよ」

「乱暴でメイドの仕事できなかったら王城では雇われてねぇだろうしな」

「勇ましくも優秀な仕事の腕の御陰か彼女は随分と好まれているようだよ」


でも、と続けるのはウィリット。


「君と似たような色の髪と目って事は同じ出身地だろうけど…。なんで今更ギークで努めだしたんだろう。 確か、君達の出身地ってアステリアだろう?本や噂でしか聞いたことがないけど、周囲を海で囲まれた水の都。 対してギークのあるドラクスは周囲を火山で囲まれた、言わば焔の都。まるで正反対で、遠いこの地で働こうと思ったんだろうね」

「本当に正反対だな。海と火山って…」

「うん。別にドラクスじゃなくても近場で給金の良さげな所なんて他にもあるだろうに…」

「ドラクスには知り合いが居たので、知り合いを介して職の候補をあげたんです。 そして、リカルラ自身が選んだのがドラクスの城だったんですよ。多分、ドラクスは力の強い者が多いという噂を聞いたから喜んで飛びついたのでしょうね」

「あぁ…戦闘狂らしい発想だ」


納得、と遠い目をするウィリット。


「あぁ…それとオレンジ色の髪をしたカルメンという娘に聞き覚えは?」

「カルメン…?悪いけど僕はないかな。レックスは?」

「ある。つっても、あの戦闘狂に聞いただけだけどな。なんでも自分が仕えてた主が拾ってきた娘とか…」


レックスの言葉にティリアは頷く。


「確かにカルメンとリカルラは同僚ですので、間違いないですね。私はそのカルメンを探しているんです」

「そうだったのか。 わりぃな、力になれそうにねぇ」

「いえいえ、知らないという事だけでもギークには居ない可能性があるというのが分かりますので。むしろ助かります。宛てもなく探すのはちょっと…いえ、かなり骨が折れます」

「ギークの詰め所に戻った時にでも他の連中にカルメンって女を見てねぇか聞いてみるわ」

「ありがとうございます」



「わしらも商会の方で聞いてみるよ。カルメンちゃんだっけ?」


商人の一人がティリアに笑いかけ、他の商人達も頷く。


「騎士は都市に集中しとるが、俺等商人は古今東西色んな所に居るから多少は情報も集まりやすいだろうしな!」

「なに、礼は要らんさ。なんてったって命の恩人だからな!!」


商人達の言葉にティリアは礼の言葉の代わりに笑顔で応えた。


「良かったな。協力者が増えて」

「えぇ、最初はひとりで探そうと思ってましたが…協力者が居ると思うだけで頼もしくありますね」

「こいつ等送ったらどうする?一晩はトレンタで休むとして…」

「まずはリカルラ…私の幼馴染の居るギークへと行きましょう。そこなら人も多いですし…もしかしたらリカルラも何らかの情報を掴んでいるかもしれませんしね」

「分かった。 じゃあ、まずはギークか。その後はブロクストな」


俺の目的地。と告げればティリアは忘れてませんよ、と苦笑いをこぼした。

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