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天空の墜落  作者: 卯月
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運命の出会い

青年と少女の旅物語ファンタジーです。

ぬるいですが残酷描写も入るかと思われますのでR15とさせていただいております。

誤字脱字などの至らない点もあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。


時はヴェリス540年4月。

神に最も近い大陸と呼ばれるゴルテヌスの東の深い森に、ひとりの青年が血まみれで倒れている。殆ど虫の息の青年、アレス・アゾットはゆっくりと深呼吸をして森の新鮮な酸素を取り込む。

「…こりゃあ、いくら俺でもちと時間がかかるな」

一番深い傷は心臓のあたりに空いた大穴。

ぽっかりと空いた穴を覗けば向こう側が見えると同時に、彼の内蔵を伺うことができる。

「あの野郎、手加減なしでやりやがって」

プッと口内の血液の味がする唾液を吐き出し、背の高い草木に体を埋める。

「動けるまでじっとするしかねぇか…」

近くには追手の気配はない事を確認したアレスは重い瞼を閉じしばしの休憩を取ることにした。


どれくらい眠っただろうか、ぼんやりする脳で考える。すると視界の端に黒いものが小さく動いているのに気が付いた。

「あの、大丈夫…では、ないですよね」

軽く揺さぶられる事で脳は覚醒し重い瞼を開けると、海よりも深く澄んだ蒼い瞳の少女がアレスを見ていた。

「アンタ、は?」

体を起こそうとすれば、蒼い瞳の少女が起きないでくださいと言う。

「通りすがりの旅人です。 随分酷い傷ですが、一体何があったんですか」

「…少し喧嘩をしてな」

考えるのも億劫な脳で答えれば、少女は不満気にアレスを見る。納得のいく答えではない事はアレスも重々承知している。だが見ず知らずのヤツに自分に起こっている事を馬鹿正直に話はしない。

そんな事を考えていれば、腹の辺り…大穴が空いている部分が心地よい暖かさに包まれている事に気が付いた。見れば、少女がアレスの傷付近に手をかざし、淡い青い光が傷と少女の手を包んでいる。

「おまえ、何してんだ…」

「見ればわかるでしょう。治療です。 それにしても、あなたは不思議な体質のようですね。これ程の傷を追えば人間死にますよ。生きているということは、あなたは人間ではないという事ですが」

違いますか?とアレスの金の瞳を見つめる少女。

「どうだろうな。おまえがそう思うんならそうなんじゃねぇの」

「まぁいいですよ。人のことは言えませんからね」

小さく呟いた少女は治療を続けつつ空を見上げる。少女に気付きアレスも空を見上げ、意識を周囲に向けるとある事に気が付いた。

「何か来ますね。あなたのお友達ですか?」

どうやら少女にも気配は分かるらしく首をかしげてアレスをみる。

「俺にダチなんぞいねぇ」

「寂しい人。 すこし我慢してくださいね」

「あ?」

少女の言葉を理解する前に、バサリと頭からスッポリと布に覆われたアレスは困惑する。何かと思い布を見ると、それは少女が先程まで身に着けていた藍色のマント。微かに良い香りがアレスの鼻腔をくすぐった。

どうやら、アレスの体を自分のマントで覆って隠したらしい。だが、2人は体格にかなりの違いがあり到底マント一枚で隠し通せるようなものではない。

アレスが体を起こそうとするが、まだ治療しきれていない傷が痛み体を倒す。するとガサガサと付近の草木が揺れ、アレスの聞き覚えのある声が耳に届いた。

「あぁ?なんでこんなトコに女がいんだァ?」

「おい女、この森に何か用事か?」

しゃがれた太い声がふたつ。それを発するのは緑色の肌に豚のような鼻をもち人間とはかけ離れた姿をした悪魔。普通ならばその姿を見れば少なからず恐怖を覚えるものだが、少女は臆せず微笑みかける。

「こんにちは、今日はとても良いお天気でついついここまで歩いてきてしまったのです。ちょっとした散歩ですよ」

「ほう?散歩、ねェ…。その黒髪と目玉の色からすると東の小国からの散歩か。そりゃあまた随分長い散歩だなァ?」

「あら、私の国をご存知なのですか?光栄ですねぇ。 お二人はどちらへ行かれるのですか?」

「男を探してんだよ。金髪金目で黒い剣を持ったヤツだ。見てねぇか」

悪魔たちの言葉からすると、たった一枚のマントに体を覆われたアレスの姿と気配は悪魔には気付かれていないようだ。マントに気配を断つ魔法がかけられているのか、それとも悪魔達が気配を辿れない馬鹿なだけなのか…。

「いえ、申し訳ありませんがそのような方は…」

「そうか。なら、お前にこれ以上用はねぇな」

笑うような声にアレスはハッとする。悪魔の姿を見られた奴等が人間の小娘相手に何もしない筈がない。殺される可能性だって十二分にあるのだ。

「用がお済みでしたらお引取り願えますか?」

「そうはいかねぇ。俺らの姿は人間に見られるワケにゃあいかねぇのよ」

「それはそうでしょうね。ここはゴルテヌス大陸。神と最も近いとされる地。あなた方悪魔は立ち入ることを禁じられていますもの」

「話が分かるじゃねぇの。なら大人しく、死ねや」

下品な笑い声と微かな剣の音。アレスはマズイと思い、痛む体にムチうってマントを剥ぎ取り、腰の黒い剣を抜いた。少女を守らなければと起きたアレスの視界に映ったのは、自分よりも遥かに大きな体の魔物相手に水の膜に覆われ守られている少女が不敵に笑っている姿。水の膜はとても強固で悪魔共の攻撃を弾き飛ばしている。

「んだコレ!?」

「まさかお前、魔法を!?」

「ご名答。私は水の魔導士です。あなた方には悪魔によく聞くと云われる聖水で退治してあげましょう」

どこから取り出したのか、少女の手にはいつの間にか透明の水が入った小瓶がいくつもあり、そのひとつの中身が悪魔の肌に触れるとジュワッという音をたて、緑の肌が蒸発して溶けていく。

「がああああああ!?なんだこれ!?」

「クソガキ!!何を!?」

痛みが襲うのか悪魔の一人は野太い悲鳴を上げてその場に倒れこむ。もう一人の悪魔は少女を睨み、その背後にこの森に入った目的であるアレスが居る事のふたつに目を丸くした。

「ですから聖水ですってば。 さて、どうします?ここで引くならば何もしません。それでも掛かってくるというのなら…こちらも全力でお相手させていただきます」

笑みを深くし、懐から同じような小瓶を沢山だす少女に悪魔は怖気づき、そそくさと逃げていった。

「…悪魔といっても随分簡単に逃げるんですね。あら、もう起き上がれるんですか。生命力強いですね」

少女はアレスに気付くと、先程と同じ柔らかい笑みを浮かべて小瓶を懐へとしまう。

「お前、何者だ」

「ただの人間ですよ。魔法が使えるだけの」

「悪魔を退けるようなヤツがただの人間の筈がないだろう」

「それならば貴方も同じですよ。それ程までの傷を負っておきながら死なないとは貴方もただの人間の筈がない」

「…」

暫しの沈黙が2人に訪れる。先に折れたのはため息をついたアレス。

「言いたくなければいいさ。どうせこれきりの関係だ」

起き上がる時に落としたマントを拾い、少女に差し出すアレス。

「えっ」

「え?」

アレスの言葉に驚き目を丸くする少女に、アレスも同じような反応をしてしまう。

「治療は私が勝手にしたことですけども、悪魔たちを追い払ったというのにお礼もなにもないのですか?」

「…」

大人しい外見とは裏腹に意外にも図太い性格の少女にため息をつく。

「…何をすれば満足だ」

「そうですね…。貴方はこれからどちらへ向かう予定ですか?」

「それを聞いてどうする」

「いいからいいから」

「…目的地は決まっていないが、目的がある。今のところ、アテは南にある小さな村だ」

「村…。そこまで同行させていただいても?」

その言葉に目を丸くするアレス。

「同行だと?あって間もない男と供に行動するつもりか」

「ご心配なさらず。私は自衛の術が沢山ありますので」

にっこりと。それはもうにっこりと笑う少女に本日何度目になるか分からないため息が溢れる。このまま引き下がりそうにもなさそうだと判断したアレスは、

「勝手にしろ。後悔しても知らねぇからな…」

「ありがとうございます。一緒に行動するならば名乗らねばいけませんね。私はティリアといいます」

「…アレス・アゾットだ。ちなみに聞くがお前いくつだよ」

「今年の夏で15になります。アレスは?」

「少なくとも成人してる。…その年で旅とはな」

「色々事情があるのですよ。 さて、そろそろ夕飯にして休みますか」

「森を抜けたところに宿があったぞ。小さいが」

「…そこまで歩けますか? それにもう少しでお月様が顔を出すので歩き回るのは得策では無いかと」

ティリアの言葉に辺りを見回せば、既に薄暗くなっていることに気が付いた。

「…野宿か」

「大丈夫ですよ。ご飯も毛布もありますから」

「どこにそんな物もってるんだよ」

彼女は荷物と言えるような物は一切持っていない。決して旅人と言えるような格好ではないのだ。

「このマントの中です」

ティリアが差すのは、彼女が身にまとっている藍色のマント。

「マントの、なか?」

「はい。空間系の魔法をかけてあるので、マントの裏側から色々物を収納しているんです」

便利ですよ、とマントの裏側を探ったティリアは大きめのリュックを取り出した。どうやらリュックの中には沢山の食料が入っているらしい。

「世の中には色んな魔法があるんだな」

「そうです。世界は広いんです。 私はその世界を見るために旅をしています」

「世界を知る…ねぇ」

「はい。まだ人様には話せませんが、やるべき事があります。それを成し遂げるためには世界を旅する必要があるのです」

語るティリアの手には力が入り、震えているのが見え、その姿をアレスは自分と似ていると思った。

「さて、そんなことはさて置き、そろそろご飯にでもしましょう。森から離れた街でアップルパイを買ったのでそれを食べましょ。アレスは苦手なものはあります?」

「ない。基本的に食えるものなら食う」

「それは良かった。はい、どうぞ」

小さな袋に入ったそれを受け取ると、まだ出来てからそれ程時間がたっていないのか仄かな暖かさがアレスの手を温めた。一口食べると程よい甘みが口内に広がり疲れを取ってくれるような、そんな気がした。





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