誰にも言えない恋心
《プロローグ》
笑う。それは感情表現の一種で。
もし笑えなくなったら。
きっと、伝えたいのに伝わらない。もどかしさで胸がいっぱいになるんだろうな。
キーンコーンカーンコーン
たくさんの話し声が聞こえる中、
それに混ざるようにチャイムが鳴り響く。
また今日も同じような一日が終わってく。
いつもと変わらない。つまらないと言うより酷かった。そんな一日が。
朝は上靴を捨てられ、当たり前のように私の机が傷つけられ。
休み時間は、一人で本を読んでいた。
ヒソヒソと私の悪口を言う人達。
それを聞いてクスクスと笑う人達。
私はただ静かに本を読んでいるだけなのに。
その姿さえも、彼女達には
『不気味』に見えるらしい。
それでもなんとか耐えられた。
だって私には、最高の親友がいたから。
「笑莉、帰ろー」
「うん!」
立ち上がった私は親友の舞川涼香と教室を後にした。
帰り道。
夕焼けが綺麗なはずなのに、
なぜか私には何も映らなかった。
「大丈夫?」
「えっ、何が?」
「何がって、いじめに決まってんじゃん」
「あぁ、うん。いつもの事だし」
昨日もその前も、いじめられていた。
そういえば、私がいじめられるようになったのっていつからだっけ。
分からなくなるくらい、いじめられてきた。
「でもまぁ、お金持ちってのも大変だね」
「・・・」
お金持ち。たったそれだけの理由でいじめられているなら、この世界は理不尽だ。
産まれたときから決められた道を歩んできて
自分の道を変えることが、自分一人じゃ出来ないなんて。
「・・り、笑莉、笑莉!」
何度も名前を呼ばれ、私はようやく我に返った。
「あ、ごめん、何だった?」
「だから笑莉さぁ、笑わない方がいいよ」
「え?」
「いや、何て言うかほら。笑莉って笑うと超美人になっちゃうから」
涼香は私に笑うなって言ってるの?
何でそんな事言うの?
親友だと思ってたのに。
信じてたのに。
「でさ、高校の事なんだけど。私はちょっと遠い××市の専門学校に行こうと思う」
この時、私の顔から笑顔が消えた。
感情表現が出来なくなって、
瞳に映る景色は一瞬で暗闇に飲み込まれた。
「ごめん、今日私こっちだから」
その日から涼香と話すことはなかった。
私にとって半年なんてあっという間。
私達はそのまま高校生になった。
涼香の事を親友だと思っていたのは私だけだったのだろうか。
いじめはあの日からも続いていた。ただ一つだけ変わったのは、涼香もいじめる側に付いたことだった。
不思議だったんだ。
涼香が私と仲が良いことは、みんな知ってるのに、涼香はいじめられなかった。
後から知ったのは涼香がいじめの主犯だという事実だった。
味方が誰もいない私はただただ孤独で。
先生に相談しても、証拠がないと相手にしてもらえない。
お母様には、相談出来なかった。
心配かけたくなかったし、
学校を訴えるとか、いじめている子の両親が働いている会社を潰すとか。
いくらでもお金を使ってしまいそうだから。
独りは恐くて、まるで暗闇に閉じ込められてるみたいで。
苦しくて、泣きたかった。
でも涙が出なかった。
本当に感情を失ってしまったんだ。
自分で自分を孤独にした。
こうして私は感情を失った。
四月からは新たな高校生活が始まる。
今と何も変わらない。
同じ三年間が始まると思った。
この時はまだ知ることのない。
苦しくて切なくて、ちょっぴり甘いあの感情の事を。
《出会い》
普通なら、入学式は楽しみなものなのだろうか。
普通なら、胸が弾むものだろうか。
私には、普通が分からない。
入学式が楽しみじゃないし、
入学式なんてこなければいいのにって
ずっと願ってた。
桜が舞い散る校庭。
春の暖かい風が心地よい。
「あの子でしょ?瑠璃ヶ崎財閥の」
「あぁ、お金持ちの」
もう噂になってるんだ。
また一人になるのかな・・・。
吐き気がするくらいの恐怖が、私を襲った。
1-Bと書かれたプレートを確認して、教室に入った。
中にはすでに10人ほどいて私が一歩踏み入れると、いっきに注目の的となった。
理由は、なんとなく分かっていた。
こそこそと話し始める人達。
何も知らないくせに、人の悪い噂にばっか喰いついて。
誰も本当の事を知ろうとしない。
今すぐにでも耳を塞ぎたくなった。
私の席は、窓際の一番後ろか。
一番安心できる席だ。
周りを見渡すと、すでに友達グループというのができていて、リーダー的な人の机の周りに集まっている。
私にはこえられない、見えない壁があった。
「ちょ、あの子めっちゃ美人!」
「どれどれ?うわ、すげー美人…」
教室に入ってきた5人くらいの集団が大声で話し出した。
「俺話しかけてくるわ」
「早速ナンパかよ」
チャラそうな人だなぁ。
話しかけられた人かわいそう。
「あたしも美人ちゃんと友達になりたい!」
ん?なんか集団が近づいてきて・・・
「初めまして、俺は市瀬湊。よろしく」
私じゃない、私じゃない!きっと私の後ろに誰かいるんだ。
「・・・」
「・・・」
・・・・・
「えっと、瑠璃ヶ崎、さん?」
やっぱり私なの?
どうしよう…
「私に関わらないで下さい、死にますよ!」
ちょっとおおげさに言い過ぎたけど、
関わらない方がいいのは事実だし。
「うち、この子気に入った」
「あたしも!ってことで、あたし達と友達になろ!」
「・・・友、達?」
キーンコーンカーンコーン
「んじゃ、そう言う事で」
行っちゃった。
いろんな不安が残ったまま入学式を迎えた。
あの人達、私がお金持ちって事まだ知らないのか。
だから友達になろうって言ってくれたんだ。
じゃあもし知ったら、どうなってしまうのだろうか。
ー翌日ー
私は昨日の人達に昼食に誘われ、屋上に来ていた。
今は円になって雑談中。
「知ってるよ?」
「え?」
「美人ちゃんがお金持ちだって事でしょ?」
「有名だし、誰でも知ってるよな」
そんなに有名なのか。
でも。
分かってて話しかけてくれたのが、素直に嬉しかった。
この人達なら、分かり合えるかもしれない。
「私の名前」
「ん?」
「美人ちゃんじゃなくて、瑠璃ヶ崎笑莉」
瑠璃ヶ崎財閥の一人娘。
二重できりっとした目に、茶髪ロング。
細身の体型。
それが私の特徴。
「笑莉か、かわいいな・・・」
黙々と食べていた市瀬君(チャラ男)が手を止めた。
男の人にかわいいなんて、初めて言われた。
「ほー、湊がかわいいって言ってんの初めて聞いた」
「な、わりーかよ」
「べっつにぃ~」
なんか、こうゆうのいいな。
大勢でワイワイして、
からかったり、からかわれたり。
今という時間が、すごく楽しい。
「笑莉が自己紹介したんだから、お前らもしろよ」
いきなり呼び捨てにされた。
不意打ちの出来事に、ドキッとした。
「笑莉、ねぇ~。湊が下の名前で呼ぶなんてめっずらしぃ~」
めずらしいんだ。意外にチャラ男じゃないのかな。
「ね、ね、あたしから自己紹介していい?」
「じゃあ美架から右回りで」
「やった!あたしは茅原美架。右隣のかっわい~奴の彼女だよ」
さっきまで私の事を美人ちゃんと読んでいたのはこの人だ。
アイドルみたいで
ぱっちり二重の目にピンクのリップが塗られたかわいい唇。
ツインテールがよく似合っている。
「褒めるんならカッコイイって言えよ。美架のか、彼氏の西田悠希っす」
顔を真っ赤にした彼は
まつ毛が上向きに長く、少したれ気味の可愛らしい目。
男だけど女装すればいい線いくと思う。
「うちは松尾沙彩。よろしく」
今度はかわいいと言うよりかっこよかった。
スラッとしたモデル体型に、つり目と黒髪ポニーテールがクールを思わせる雰囲気だ。
「沙彩!何で俺の事、彼氏って言ってくんないのさ」
「言うほどでもないから」
やっぱクールだな。
ひょっとしたら、そこら返の男子よりカッコイイかもしれない。
「えー、まあいいや。俺は滝本浩也。沙彩の彼氏でっす!」
この人はとにかく声がでかくて、元気いっぱいってキャラだ。
顔立ちが整っていて左耳だけにつけられたピアスが特徴的だ。
「あたし達の事は、呼び捨てでいいからね」
美架が最後に付け加えた。
(湊、か。なんかいいかも)
心の中で呼んだ名前が響いて、思わずにやけそうになってしまう。
「あっ!今ちょっと笑っただろ」
湊に言われて、すぐに真顔に戻った。
「笑ってない」
「つか気になってたんだけど、何で笑わねーの?」
「それは・・・」
悠希の一言に言葉が詰まる。
「もう、デリカシーないな~。誰だって話したくないことの一つや二つあるもんなの」
答えられない私をフォローしてくれた。
こんなに優しい子と友達になれたのが嬉しかった。
のと同じくらい、事実を言えないのが苦しかった。
「ごめん、いつか話す」
「謝んなくていいよー。こいつが悪いんだから」
悠希を睨む彼の目はどこか可愛いげのあるものだった。
「俺が悪いのかよ」
「あったりまえじゃん!」
背中を叩く音がきれいな青空に消えていく。
「はいはい、イチャつくなら今度のダブルデートでしてくださーい」
湊が呆れた顔で言った。
「ダブルデート」
ダブルデートって、2つのカップルが一緒にデートするやつの事?
やっぱデートとかするんだ。楽しそう。
「一緒に行くか?」
「え」
いきなりの爆弾発言に本気で驚いた。
「いや、俺だけ一人で行くことになってたし人数あわせっつーか」
「湊ついてくるなんて言ってな」
「あーー!いいね!そうしよ!今度の日曜なんだけど空いてる?」
美架がすごいノリで日程を確認してきた。
今週は丁度お母様が出張で家を空けている。
出掛けてもばれることはないだろう。
「空いてる」
「マジで!よっしゃ!んじゃ俺、笑莉ん家まで迎えに行くわ」
そんなに楽しみなのかな。
私もちょっと楽しみ。
今日私は、本当の友達に出会えた気がした。
まだ心のどこかで信用しきれてない自分もいる。
でも、あんなに真っ暗だった私の世界はたしかに色付き始めたんだ。
つづく
初めての小説で、おかしな文があるかもしれませんが、楽しんで頂けたら幸いです。
私の夢を小説にしています(笑)
ドキドキ、キュンキュンしてもらえたら嬉しいです(*´ω`*)