ねこまんま食堂のまかないメニュー その3
同じクラスで生徒会副会長の玉野遼くんの弟、玉野咲くんは兄とは違う意味で有名だった。
料理倶楽部に所属している彼は、ピカイチの料理の腕を持っており、みんなから親しみを込めて【シェフ】と呼ばれている。
あ、ちなみに親友ののりこは【女将】らしい。
伝統的に女子が部長をやるときは、そう呼ばれるらしいのだけど、オバハンくさいネーミングに笑ってしまう。
せめて【若女将】にしたら? と言ったら、「いいの、いいの」と朗らかに笑い飛ばしていた。
手芸倶楽部の部室は、料理倶楽部の部室である家庭科調理室のとなり、家庭科実習室。
差し迫っている文化祭は手芸倶楽部の一年間の活動の発表の場であり、文化系倶楽部にとっては重要な祭典なのだ。
前期試験が明けてからは展示用の作品作りと販売用の作品作りの追い込みに寝る間も惜しむ。
その苦労も今日で報われる。
順調に緑の投票用紙に引き換えられて、売られていく可愛い作品たち。可愛いがって貰えよ~と送り出す心境は娘を嫁に出す母のもの。
文化祭二日目、3-Bのブースで売り子の当番をしていた私は、プラカードを持って客寄せに回る玉野弟を見つけた。
その時は接客で忙しいのもあって、ちらっと目のはしに捉えただけだったのだが……。
ん?
思わず二度見しましたとも。
あの咲ちゃんが女の子と手を繋いでるんだもの。
うちは商店街で洋品店をやっている。うちの学校の制服も取り扱っている地元密着型のお店だ。
その商店街には、のりこの家の南豆腐店や玉野兄弟の家のねこまんま食堂もある。
小さい頃から一緒に育ったようなもので、だから口は悪いけど見かけは女の子みたいだった咲ちゃんが、女の子と手を繋いで歩いてるなんて!!
ビッグニュースだよ!!
あのブラコン男はこれ知ってるの?
いやあ、面白いことになりそうじゃない?
っと、咲ちゃんと手を繋いでいる女の子が、こちらの見世をじっと見ていた。
ん?
このヘアピンかな?
アンティークのボタンは、とろりとした艶があってまるでキャンディのよう。これを加工してアクセサリーにしてみたんだよね。
結構売れ行きが良くて、もう余り残ってないんだけど。
あ~あ、咲ちゃん、彼女が何が欲しいとか全然気付いてあげられてないじゃないのよぉ。
いいこと考えた♪
仕方がないなあ、お姉さんが可愛い咲ちゃんのためにひと肌脱いであげるよ。
男もののセーターをダボンと着て、裾から可愛いフリフリレースを覗かせた彼女は、咲ちゃんに手を引かれて名残惜しそうに離れて行ってしまった。
「部長、店番交代します」
「ありがとう」
青いボタンのヘアピンを見世から取り上げて、自前の投票用紙を一枚缶に入れた。
「さあて、料理倶楽部のお好み焼き食べに行こうかな。それと唐揚げとぉ~、クレープとぉ」
残り9枚の投票用紙の使い道を算段する。
ポケットに入れたヘアピンを咲ちゃんにいつ渡そうか。
ああ、それと生徒会役員が詰めているテントも冷やかしに行かないとね~♪
クスクス……。