ねこまんま食堂のまかないメニュー おかわり6杯め
創立祭当日。
南校舎1階、料理倶楽部のミーティング用部室兼荷物置き場である家庭科準備室で、寿は女子部員に囲まれていた。
「わー、お似合いです」
褒められている当の本人、寿は笑顔が引きつっていた。
白い軍服風の服には金ボタンが輝く。深紅の長いマントと金モールのきらびやかな肩章、そして黒革の長靴。
「よ、よく、こんなすごいの作れたね?」
寿が笑顔を引きつらせながらも感謝の気持ちを述べ、労うと、彼女たちはキャアと嬉しそうに声をあげた。
「舞踏会といえば王子様じゃないですか」
そう言って、白い手袋と、帯剣用の革のベルト、そしてサーベルが手渡された。
キャイキャイと盛り上がって何枚も写真を撮られた。
寿はとりあえずちょんまげやハゲカツラ、ましてやぴったりタイツの王子様ではなくて良かったとプラス志向に捉えることにした。
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八百長を防止するため、じゃんけん大会の組み合わせは直前まで知らされなかった。
朝、教室で番号くじを引かされ、そのまま体育館に移動させられる。
全校生徒だけでなく、教職員もお祭り騒ぎに浮かれているのか、仮装をしていた。
予想に反して本格的な仮装をしている人が多く、まるでハロウィンパーティーのような光景に圧倒される。プレミアムプリンへの意気込みが熱い。
校長先生の挨拶のあと、生徒会長の挨拶が行われ、生徒会役員によって組み合わせ表が発表された。
近眼のため細かい字が見えなかった寿は、目を細めてそれを確認しようとした。
ぽんと肩を叩かれ、振り向くと、関本がにやにや笑って立っていた。関本は白い胴着に紺の袴でキリッと決まっていた。
「似合うじゃないか、王子様」
「関本、俺、恥ずかしい」
白い手袋をはめた片手で両目を覆う。
「いやいや、そのくらい大丈夫だって。それにしてもスゴいなあ。全部手作りか?」
「うん、そうみたい。器用だよね」
「そのサーベルはどうなってるんだ」
「ああ、これ。引き抜くと笑えるんだけど、竹のモノサシに銀紙巻いてあるみたい」
やがて、実行委員長の司会で番号が呼ばれ、じゃんけん大会が始まった。
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四回戦まで勝ち抜くと、千人近くいた生徒は、およそ60人ほどになった。
寿は順調に勝ち抜いていた。
プリンに興味がないと言っていた関本も残っている。
そして、ボロボロのベストに汚れ加工をした白シャツと黒いパンツ、幅の広いバンダナを額に巻き、その下からカラフルなビーズがいっぱいついた三つ編みを垂らした柚子も残っていた。
目の下には隈のようなメイクまで施してあり、非常に凝っている。
「ジャック・スパロウだ……」
ある意味感動したが、そのあとの舞踏会を意識してか、華やかな仮装をしている女子のなかで、柚子の仮装は異彩を放っていた。
寿はダンスに誘われた意味をどう受けとればいいのか分からなくなった。
五回戦はもう一度、組み合わせをくじ引きし直す。
ここからは勝ち抜きトーナメント戦に加えて順位決定戦も行われる。
五回戦の初戦で負けても、そのあとのじゃんけんの結果で49位までに入ればプリンが得られるからだ。
お互いの出方を窺い、一戦、一戦に時間がかかった。
寿は勝ち進んでいた。初戦を勝てば、プリン獲得は約束されている。
「アイツも五回戦まで残ってるんだって?さすが食欲クイーンだな。執念が凄まじい」
いつの間にか傍に来ていた関本がせせら笑った。
「関本は誰と踊るんだ?」
寿は舞台から視線を下ろして、友人を見た。関本はニヤリと笑う。
「寿と踊るって言っただろ。俺以外に誰か誘われたのか」
「うん。ジャック・スパロウに」
関本は器用に片眉をひょいと持ち上げて、愉快そうな表情になる。
「へえ。そりゃ……寂しくなるな」
「へ?」
「付き合うんだろ?」
「いや、ダンスに誘われただけだよ」
「へえ、まだ返事を焦らしてるのか。速攻食欲クイーンのくせに生意気だな」
「そうじゃないんだ」
前からどうもどこか誤解をしているらしい関本に、寿は迷いながら「手紙渡したのあの人にじゃないんだけど」とポツリと言った。
幸か不幸か、その呟きは歓声で沸き上がる会場において、関本の耳に届きにくかったようだ。
「ん?」
寿は大声では言いにくいとばかりと誤魔化すように微笑んだ。
関本は怪訝な顔をしたが、それ以上は突っ込んでこなかった。
リンクの上ではジャック・スパロウが初戦敗退して、膝をついて悔しがっていた。




