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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
【番外・新田寿編】
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ねこまんま食堂のまかないメニュー おかわり4杯め

「もう告ってきたのか」


 関本がラーメンを前にして、愉快そうに言った。

 寿はきょろきょろとあたりを確認して、誰も耳をそばだてていない様子を確認してから、こそっと言った。


「や、手紙、渡してきた」


 へえ、と意外そうに関本が目を丸くする。


「意外だな。寿なら旧校舎二階美術準備室前に女子を呼び出して、壁ドンでもしながら直接告ると思ってた」


「なんでそんなに具体的なんだよ。ってか、俺、そんな風に見られてたの?」


「旧校舎二階美術準備室前って人目もないし、知る人ぞ知る告白スポットだからな」


 そして、ずるずると関本はみそラーメンをすすり込み、飲み込んでから問う。

 その顔には興味津々と書いてある。


「で? 返事は?」


 寿は眉をちょっと下げて、弱々しく笑った。


「別に、返事は期待してないから」


「なに乙女入ってるんだよ」


「や、でも。本当に付き合いたいとか、そういうことじゃなくて、気持ちだけどうしても伝えたかったというか」


「そんなわけないだろ。健全な男だったら、好きな女がいたら最終的にヤルところまで妄想するだろ」


 ゴフッっと寿はカレーを喉に詰まらせた。

 おかしそうに笑みを浮かべながら、関本は寿に水の入ったコップを差し出す。


「それは関本だけだと思うけど」


 ゴホゴホと咳き込みながらなんとか返事を返した寿の隣に人が座る。

 関本の隣にも見知った顔の女子が座った。

 色々な意味で非常に危なかった話題を聞かれていなかったらしく、女子は平然と箸を手に取る。

 きつねうどんの乗ったトレイには菫色の財布が置かれていた。


 どこで会ったかな、と寿は記憶を探った。


 その時、本日のA定食、ミックスフライのうち白身魚フライが寿の皿に移動してきた。

 隣に顔を向け、寿はギョッと目を丸くした。

 天敵、神ノ木柚子が隣にいた。


「な、なに?」


 今日は珍しく柚子が列の後ろの方に並んでいたことに寿は気づいていた。

 あの日以降しばらくはA定食が食べたいと思っていたものの、最近では柚子の姿を見ればA定食を避けるようになっていた。基本、食べたいものが食べられればいいので、特にA定食にはこだわっていない。

 頭が冷えれば、どうしても食べたいものがあれば夕食に自分で作ればいいし、部長という権限を使って部で作ることもできるということに気付いたのだ。

 それでも一度植え付いた苦手意識は払しょくされない。


「それあげる」


 頬を少し染め、拗ねたような口調でフォークでそれと表現された白身魚のフライを指した。

 この行動に寿はもちろん、関本も、隣の女子も口を開けて驚いていた。


「いらないなら返してもらうけど」


 なぜ睨まれながらフライを譲られなければならないのか寿には分からなかったが、これまでかけられた迷惑料と受け取っていいのだろうか。

 今さらカレーまみれになったフライを返すのも申し訳ないと寿はありがたくもらうことにした。

 

「あ、ありがとう」


「ん」


 短く返事したかと思うと、柚子はひたすら無言でA定食を平らげた。


 関本と隣の女子が目くばせしあって、秘かに笑っていたのだが、寿にはこの状況がよく分かっていなかった。



―――――

――――



 それからも寿と関本が学食でお昼ご飯を食べていると、柚子と里紗というらしい菫色の財布を持った女子が度々隣に座りにきた。

 寿はそれが居心地悪くて仕方がなかったが、柚子は前のようにわがままな発言をすることはなく、むしろ無口で、毎度のようにイカフライだのしょうが焼きだのとA定食のメインおかずを強制的に押し付けてきた。


「いったい何の嫌がらせだと思う?」


 教室に戻り、寿が関本に助言を求めた。


「さあ? あの食欲クイーンが自分のメシを分け与えるくらいだから、そうとうな愛情表現だよな」


「いや、笑い事じゃないから」


 寿はげんなりしたように言った。


「カレーにフライを乗せられるのはまだいいんだけどさ、どう考えても鯖の味噌煮にしょうが焼き乗せてくるのはアウトだろ。うどんにてんぷらならわかるけど、デミグラスソースたっぷりの煮込みハンバーク乗せられるのはきつい」


 そう訴える寿を関本は愉快そうに見ていた。

 寿は関本の態度にムッとして、関本のコーヒー牛乳を奪って一口飲んだ。

 関本は驚愕に目を開き、声も出ない。

 返された紙パックを手にしたまま、ストローに口をつけるのを躊躇していた。

 してやったりと寿は得意そうに関本の出方を窺う。


「俺の気持ちわかった?」


「いや、寿の仕返しの仕方が可愛いってことくらいしか分からなかった」


 クスクスと関本が笑う。そして、しみじみと寿の気持ちを代弁するように言った。


「まあな、味が混ざるのは嫌だよな」


「そう、それなんだよ。それに、急に手のひら返したみたいに。なんだろ、あれ」


 寿は顔をしかめて、頬杖をついた。


「それが返事なんじゃないのか。それはそうと、寿、仮装の準備はしてるか?」


 じゃんけん大会のあと、仮装の恰好のまま体育館で仮装舞踏会のようなことをするらしい。

 女の子たちは誰と踊るかを話題に盛り上がっているが、どうやら女の子同士で組むようなことを話しているようだ。男子はあぶれる運命のようだから、寿はあまり気にしないでいた。


「う~ん、買って済まそうかと思ってたんだけど、部の女の子たちが用意してくれるって言ってくれてさ」


「へえ」


「何の恰好させられるか分からなくてちょっと不安ではあるんだけど、とにかく考えなくて良くなった。関本は?」


「俺はそこまでプリンに執着してないんだけど、お祭りだしな。一種のコスプレってことで、弓道着でいいやって思ってる」


「ふぅん、袴とかかっこいいもんな」


「寿に素で言われるとなんか照れるわ」


「関本はもう一緒に踊る女子だって唾つけてるんだろ。ああ、俺、ちょんまげとかハゲカツラとかだったらどうしよう」


 寿は頭を抱えた。関本は寿のその姿を見て、にやりと笑う。


「インパクトあっていいかもよ」


「バカ言え。ちょんまげだったら関本に被せる。ちょんまげに着物って将軍様みたいで似合いそうだし」


「バーカ。だれが被るか。一緒に踊ってやろうか?」


「バーカ。女の子同士は見てても可愛いけど、野郎同士なんて絶対ごめんだ」


 ふざけあっているうちに、午後の授業の予鈴が鳴った。












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