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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
【番外・新田寿編】
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ねこまんま食堂のまかないメニュー おかわり2杯め

 そんな中、英稜高等学校は創立五十周年記念日を迎えようとしていた。


「おい、創立記念プリンが発売されるんだって!」

「マジで今年?」


 誰が言い始めたか、創立記念プリン発売の話題に一気に学内が沸き立った。


 創立記念プリン、それは五周年ごとに学食で販売されるプレミアムなプリンであり、運が悪ければ在学中に販売されない卒業生もいた。

 その数、限定50食。


 生徒数千人規模の学校で限定50という、過酷な数字。


 血を血で争う闘いになるのは目に見えていた。







 職員室に呼び出されていた寿は、教室に入るなり、その異様な盛り上がりに目を見張った。


「どうしたんだ、みんな」


 音楽を聴いていた関本はイヤホンを耳から外し、コードを巻き取りながら寿を見てにやりと笑った。


「みんな今年がプレミアムプリンの年だって気付いて騒いでるんだよ」


 へえ、なるほどと寿は納得した。寿も創立記念プレミアムプリンのことは知っている。


 涙を流しているもの、神に感謝の言葉を捧げているもの、頭を突き合わせてプリン獲得作戦を練るものなど、教室内がちょっとしたカオス状態だ。

 いつもなら食べ物のこととなると熱くなる寿が、やけに冷静な反応を返したことに関本が不思議そうな顔をした。


「あれ、寿は真っ先に盛り上がるクチかと思っていたけど?」

「え? あ、いや」


 そんなことない、と言いかけたとき、関本はしたり顔で頷き、肩に腕を回した。


「寿の気持ちはよーく分かる。必死でプリンのために戦い、奪い合い、ようやく最後の一個に手が届きそうなところで、あの食欲クイーンに奪われるところまで想像したんだろ」


「なんだよ、その食欲クイーンって」


 誰のことだか分かりやすくて寿はくすっと忍び笑いを漏らした。そんな寿を見て関本は人の悪い笑みを浮かべた。


 プリンを欲する生徒をかきわけ学食のレジに辿り着く寿。

 プレミアムプリンの残り数が気になって堪らなく、そわそわと品出し担当のおばちゃんの手元を見守る。

 先に会計を済ませた女生徒が振り返り、寿にあっかんべーをして言うのだ。


「はい、寿くんざんねーん。プリンは売り切れだよ。早い者勝ちだから恨まないでね」


 柚子の憎たらしい顔を想像して、寿は額に手をあてた。


「ありえすぎて笑えない」


ーーーー

ーーー


「寿もたいがいお人よしだよな」


 今日のA定食のメインおかずであるエビフライをつつきながら関本は、てんぷらうどんをすすっている友人、寿を見た。

 この頃食堂のおばちゃんから同情を買っているらしい寿のトレイには、少しだけおばちゃんの気持ちがプラスして乗っている。

 今日は、揚げ損じたのか、規格外なのか、小さくて丸まったエビのてんぷらがひとつ余計にトッピングされていた。


 授業中は掛けている眼鏡をかけっぱなしにしていたことに気付いた寿は、眼鏡を外して、曇りを拭き取り、細い眼鏡ケースにそれをしまってから関本に視線を合わせた。


「だってさ、今日もあいつにA定食奪われてたじゃん」


 むっとした様子の寿を可愛く思いながら、関本は箸で少し離れた席に座る柚子を指した。


「箸で人を指すなよ。奪われてないよ」


「今日もしっかり後ろにマークされてたろ? それに気づいて寿、A定食注文しなかったじゃないか」


「別に。今日はうどんの気分だったんだ」


「うそうそ、A定食言いかけて、途中で言い直したの、俺、お前の左で聞いてたんだから」


 寿は俯き黙り込んで箸を再び持ちあげた。


「……俺、惚れそうだわ」


 寿のその目は柚子ではなく、どんぶりの中に向けられている。


 予想外のつぶやきに関本は目を丸くした。


「はあ?」


 一瞬自分の事かと勘違いした関本は胸を庇うように自らを抱き締めてのけ反る。


「違うって、『神ノ木さん』のことだよ」


「へー、んじゃ食欲クイーンと付き合っちゃえば?」


「はぁ? なんでそうなるんだよ」


 寿の顔が赤く染まった。照れ隠しのように寿は、ダシに浸かったエビのてんぷらに豪快に噛り付いた。


――――

―――



 創立記念日は一般的に休校となる学校が多いが、ここ英稜高等学校は休みにはならず、創立祭が行われる。


 一ヶ月前から創立祭実行委員会が生徒会長の名の下、発足され、学級を代表とし委員が招集される。


 創立祭といっても、文化祭のように外部には開放されない。


 年によってやることはまちまちで、寿が一年の時は球技大会。二年の時はかるた大会だった。


「今年はなにをやるんだ」


 寿は、B定食の納豆をかき混ぜながら、創立祭委員になった関本に目を向けた。

 関本はカレーを口に入れたばかりですぐには話すことができないらしい。


「ごめん、タイミング悪かった」

「いや、大丈夫。どのみち情報漏えいはできないから、話すわけにはいかなくてさ」


 関本は不敵に笑う。


「今日のホームルームを楽しみにしててくれ」

 




 そして、ホームルームになった。

 創立祭実行委員の関本と、もう一人の女子が黒板の前に立つ。

 関本が教卓に手をつき、教室を見まわした。


「今年の創立祭は、創立記念プリン獲得権を賭けたじゃんけん大会になりました」


 喜色、非難両方の声があがる。それらを受け止めても関本は臆することはなかった。

 本当に委員長タイプだな、と寿は席から関本を見て感心した。


「全校生徒総シャッフルで組み合わせを決めます。体育館の真ん中にリングを作って、仮装して対決します。トーナメントで上位49名までにプリン獲得券が手渡されます。あ、プリンは今回賞金なので、創立祭の予算で買ってくれるから。のこり1名の枠は仮装特別賞として、敗者の中から先生と生徒会役員の総意で決めるんだってさ」


 女子の一人が手を挙げ、席を立った。


「卵や乳製品のアレルギーがあったり、プリンが好きじゃない人には、この企画は楽しくないんじゃないですか」


 もっとも、というように関本は頷いた。


「それでも学校行事だから参加してもらいます」


 発言した女子はプリンが食べられないのだろうか。キッと眼光を鋭くした。


「横暴じゃないですか」


「横暴じゃないです。このあと説明するつもりだったんだけど、創立記念プリンは、5年に一度ということで毎回食べたい人の購買競争が半端ないです。正直、裏でよくない取引があったり、ケガ人もでてます。だから今年は賞品に据えて、知力体力の関係なく運で勝負できるようにじゃんけん大会にしたんだけど、内海さんの言うように、食べられない人も興味のない人もいます。そういう人には別に賞品を用意することになってます。その分のプリン獲得券は順位を繰り下げません」


「え、じゃあ、プリンどうなるの?」


「プリン1つ分の価格相当の賞品との交換なので、発注されません。プリンは後日引き換えになります」


 男子が手も挙げずに席に座ったまま発言する。


「八百長は防げるんですか」


「皆さんの良心を信じます」


 関本はさわやかな笑みで壇上を降りた。


 嘘だ。SNS、学校掲示板、ありとあらゆるネットワークを使って監視の手が入るだろうと、関本の爽やか笑顔を見て、寿は逆に寒気を感じていた。




――――

―――


「で、もう告ったのか?」


 関本はカレーを食べている寿に言った。前回の意趣返しのつもりはなかったが、寿は頬をもぐもぐさせて、目だけで訴えてきた。


「分からねぇよ」と、関本は笑う。

 関本は寿のカレーに目を止めた。寿のカレーに乗っているカツが、自分のものより一切れ分長い気がするのは気のせいだろうか。


「告ってない。そもそもそんなんじゃないし」

「そうなのか? この前惚れたとか言ってなかったっけ」

「あれは、惚れそうって言っただけで、別にどうこうっていうんじゃないし……」


 寿は料理倶楽部の部長なんてやっていて、普段から女子に囲まれているのに恋愛系には意外に奥手のようだ。モテないわけではなさそうな容姿をしている。

 背は人並みに高いがひょろっとしているわけでもない。

 スポーツも器用にこなすし、頭もよくて、性格は温和。

 顔もそこそこ整っている方だと思うし、料理は上手い。

 寿が女なら嫁にするな、と関本は常々思っていることを寿は知らなかった。


 あれだな、女子と馴染みすぎて男としてみられてないってやつじゃないかと、関本は笑いをかみ殺した。


「----かな」


 物思いにふけっていて、関本は寿の会話を聞いていなかった。

 聞き返すと寿は頬を染めて睨む。

 関本は不覚にも胸を高鳴らせたことに瞬時に後悔した。


「だからさ、告ってもいいのかな、って」


「別にいいんじゃないか。彼がいるって聞こえてこないし」


「そうだな、情報通の関本がいうんだから信用できるな。ありがとう、俺、頑張ってみるよ」


「あ、ああ」


 A定食を奪われているうちに相手に恋に落ちるなんて、つくづく変な男だ。もしかしたらエムな気質があるのかもなぁと関本は前に座る寿に憐憫の視線を送った。






 


 









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