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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
7/82

メニュー05 シンデレラ・ガール?

 文化祭一日目、前の順番のクラスの『ロミオとジュリエット』がクライマックスを迎える頃、次の順番の私達二年一組は舞台袖で待機していた。

 いつもは華やかに取り巻きに囲まれてにこやかに談笑している細木さんも、主役の緊張からか、青ざめてその表情は硬い。


「うっ……!! ぐっ……ぅ」

「きゃあ……!!」


 白雪姫の衣装を可憐に着こなした細木さんが、舞台袖でお腹を押さえて突然うずくまっり、倒れ込んだ。

 吐き気も催しているらしく、真っ青な顔をして、手で口を覆い、脂汗をたらりたらりと流している。

 誰がどう見ても緊急事態だった。


「おい! 細木、大丈夫か?」


 担任の先生が飛んできて声を掛けるが、痛みでうずくまる細木さんには届いていないみたいだった。

 王子様の衣装を着た玉野くんが、細木さんをお姫様抱っこに抱きあげて保健室へと連れていく。担任の先生と、細木さんの取り巻き……いや、仲の良い女子が数人その後を追った。

 ざわりとクラスの空気が揺らぐ。

 細木さんの体調が心配……。

 それに、今まで準備してきた劇が出来なくなるかもしれないことへの不安。

 それらは本来天秤に掛けられるべき問題ではないのだけれど、これまで放課後の時間を費やしてきたことを考えると、秤はゆらゆらと私達の心の中で揺れていた。

 学級委員は文化祭実行委員へと連絡を取り、とりあえず順番を送らせて貰う事にした。場合によっては二年一組の発表を諦めることも仕方がない。

 誰もがそう考えていた時、担任と玉野くんが戻ってきた。


「細木は救急搬送されることになった。劇は残念だが諦めよう」


 担任の口から苦渋の決断がなされた。

 やっぱり……。

 そう誰もが諦めかけた。

 その時、玉野くんが硬い表情のままで口を開いた。その声は大きい声ではなかったけど、良く通る声だった。


「細木は今日をすっげー楽しみにしてたんだ。練習もすげえ頑張ってた。自分のせいでみんなが発表を諦めたって聞いたら、アイツ……自分で自分が許せねぇと思うし、きっとむちゃくちゃ怒ると思う、俺達でなんとか出来るなら、このまま白雪姫をやらないか」


 玉野くんは静かに皆を見渡した。


「しかし……」


 言い淀む担任の声を遮って、女子の一人が反論する。


「そんなの無茶だわっ! 細木さんは白雪姫なのよ? 小人が一人いなくなるのとは訳が違う!!」

「そうだよ、誰も主役の台詞なんて今からじゃ、覚えきれない」

 

 消極的な意見が大多数。劇の発表はしたいけれど、主役が抜けた穴は大きい。


「そんなことねぇだろ? 台本なんか直ぐに覚えられるヤツ、うちのクラスにいるだろ?」


 そう言い切った玉野くんと、バチッと目線が合った。

 は? え? 何?

 白ひげを付けた小人Bの私に皆の視線が集まっていく……。

 えーーー?


「渡瀬さん、暗記得意って言ってたわよね」

「そうだ、この間の古文で枕草子すらすら暗誦してたな」


 え? ちょっと待って!!


 皆の目に希望と期待という光が灯り出した。

 眩しすぎて堪えられない……。





 結局皆に押し切られて白雪姫をやることになってしまった。

 発表の順番を一番最後にしてもらい、他のクラスの発表の間に必死で白雪姫の台詞と動きを頭に叩き込むこととなった。


 教室で二人きり、私の前の席に横向きに足を組んで座っているのは、王子様ルックが似合う玉野くん。


「……玉野くん、そんなに『白雪姫』したかったの?」


 台本から顔をあげて、聞いてみたかった事を問う。

 確かに、玉野くんはクラスじゃ皆の人気者で、彼の発言には何故かみんな納得してしまう様なところがある。

 女子には、頼りがいのあるところと、そのルックス。男子にとっては……なんだろう。料理の上手いところ? 玉野くんが自分で作って来ているというお弁当の周りには、男子が群がっていておかずを奪い合っている。

 表情が不器用で分かりにくいけれど、なんだかんだで優しい、みんなそういう玉野くんを慕っているんだなぁ、と思う。

 ……中間休みにアイドルのグラビアを前にエロバカ話を楽しそうにしている男子の集団の中心にいることは除いても、未だクラスに馴染めている実感のない私にとっては、羨ましいよ。


 不機嫌そうな表情の玉野くんが何かを言おうとしたその時、教室の引き戸がガラリと勢いよく開いた。


「渡瀬さん! 衣装合わせしよう!!」


 緊急事態だったので、細木さんは白雪姫の衣装のまま、救急車で運ばれたらしい。

 その事実を知って、またまた萎えそうになったクラスの士気は、他のクラスのお姫様ドレスを借りようというアイデアで盛り返した。


「う……うん」

「悪いけど、タマちゃん教室から出ててくれる?」

「おう」


 お姫様ドレスを抱えた女子に教室から素直に追い出される玉野くんを見送った。

 

 さっきの返事、なんだったんだろう。




「うわお! 渡瀬さん、着痩せするタイプだったんだね。パットいっぱい借りてきたのに要らないじゃん!! あ、丈だけがちょっと長いか……。裾踏んじゃわないように気を付けてね」

「う、うん」

「もう台詞覚えた?」

「大体……」

「さっすがぁ!」

「あ、あの。私の小人Bは……」

「ああ! 小人役の台詞ならそんなに多くないから、皆で振り分けるって言ってたから心配しないで」

「ありがとう」

「や~だ!! 私達の方がありがとうだよ! いきなり台詞が多い主役やって貰うことになちゃってごめんねぇ。っていうか、ほんとはちょっとだけ羨ましいけどね」

「え? なんで……」

「だって、相手が玉野王子じゃん!」


 すっかり着せ替えさせられた私の前でムフフとその子は笑った。

 

 白いサテン生地のドレスは、『シンデレラ』のクラスから借りてきたらしい。

 白雪姫のイメージとは違うけれど、制服のままよりはいいよね?

 

「タマちゃんお待たせ~」


 教室に入ってきた男子達……いつの間にか玉野くんの他にも廊下にクラスメイトがいたらしく、ぞろぞろと入ってきた。

 みんな一様に視線が……視線が……!!


「うおお! ムネでっか!!」

「バカヤロ!! エロ魔人は退場じゃ!!」

「うるせー、おっぱい星人はお前だろ~」

「ひゅー、渡瀬さん、可愛いじゃん」


 ううう……皆好き勝手言って……。

 恥ずかしいよぉ。


 玉野くんの姿を探すと、教室を出て行ってしまったらしく、マントがひらひらとドアから一瞬はためいて隠れるのが見えた。


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