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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
60/82

特別メニュー いい風呂の日

1日遅れましたが。

「11月26日はいい風呂の日なんだよ」


「日本人はゴロ合わせ好きだよなぁ」


 平静を装っているけどぎこちない会話が二人の間で交わされる。

 ミツバ商店街、商工組合の日帰り温泉ツアーに私と咲くんは参加していた。


 都合で行けなくなった咲くんのおじさんとおばさんの代わりに急遽バスに乗せられたんだけど、温泉。ちょっと楽しみ♪



 そしてバスは湯けむりが情緒ある温泉街へと着いた。

 おっちゃん、おばちゃんたちと一緒に温泉旅館へと入る。赤い絨毯にスリッパがたくさん並べられていた。


 つるっつるに磨かれた廊下を仲居さんの先導で歩き宴会場へ。


「こちらでお食事の後、当館自慢の『美人の湯』にておくつろぎ下さいませ」


 頭を深々と下げると、仲居さんは着火用ライターを手に固形燃料に火を着けてまわった。


 酢の物、お刺身、煮物、揚げ物、焼き魚、牛肉の陶板焼き、炊き込みご飯。食べきれない程のごちそうが並ぶ。もちろんそのどれもが美味しい。


 おっちゃんたちはビールや日本酒を昼から飲んでいてご機嫌だし、おばちゃんたちはお芝居に夢中だ。


「お腹いっぱいだね」


「だな」


 おばちゃん、おっちゃんたちの宴会はまだまだ終わりそうにない。


「先にお風呂行っちゃう?」


 そういうわけで、私も咲くんはフロントでお風呂の場所を確認して大浴場に向かった。


「ねぇ、露天風呂だって」


 大浴場に向かう廊下に露天風呂の案内もあることに気付いた。


「今の季節だったら紅葉が綺麗だよ。行ってみたいな」

「行ってみようか」

「うん」


 途中スリッパを下駄に履き替え、カコカコと石の床を鳴らしながら回廊を進む。

 すると、小屋のような脱衣場があるのに気付いた。


「んじゃ、30分後な」


 咲くんと別れて赤いのれんを掻き分け、引き戸を開けた。

 低い上がり口に下駄を脱いで上がると、服を置いておくロッカーが並んでいる。その中のひとつを選んで服を脱ぐと、鍵を腕につけてタオルで身体を巻いて浴場へと続く引き戸を開けた。


「うわぁ!」


 目に入ったのは、壮観とした言い表せない景色だった。目の前には山。紅葉が絶妙なグラデーションで山を彩っている。眼下には豊かな水を湛えた大川がゆっくりと水面を金色に輝かせながら流れていた。

 岩に囲まれた露天風呂にかけ湯をしてから、そうっと入る。少しぬるめのお湯はずっと浸かっていられそうだった。


 もっと景色をよく見ようと露天風呂の真ん中に立つ大岩の向こう側に回り込んだ。


 ちゃぷん。


 誰がが湯船に入る音がした。さっきまでは脱衣場に誰も居なかったから、その後で誰か来たのだろう。


 こっそり覗いて驚いた。向こうも私を見て驚いている。


「咲くん……」

「美晴……」

「ええ~!? なんで? 混浴?」


 タオルで隠すにしても濡れているタオルでは身体の線が見えちゃう。お互いお湯からも上がれなくて、大岩を挟み、背中を向けながら温まった。


 後で着替えるときに確認したら、この時間は家族風呂に使われているらしい。うっかり入ってしまったけれど、特別注意もされず私たちは宴会場に戻ったのだった。




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