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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
59/82

メニュー32 もやもやしたきもち

「うっまっ!!」


 茄子とベーコンのトマトパスタを一口食べるなり、咲くんが叫んだ。そして、ずるずるパクパクと気持ちいほど豪快に食べ勧める。

 カウンターの内側にいる新田さんもその様子を見ていて笑顔になっていた。


「美晴、仕事終わったら俺んち寄って。入部説明会と新入生歓迎会の打ち合せしたいから」


 コーラを飲んで口の中を空にした咲くんは、テーブルを離れようとしていた私にそう言って、また食べ始めた。



◇◇◇


 そして四月。私達は3年生へと進級した。

 私と咲くんと彩子ちゃん、そして秋生くんが同じ1組になった。涼夏ちゃんと晃大くんは2組。健大くんはひとりだけ4組だ。健大くんは休み時間ごとにはるばる4組から彩子ちゃんに会いに来る。だけど、彩子ちゃんいわく付き合っていないのだそうだ。


 新入生へのオリエンテーリングの一環である入部説明会は体育館で行われた。各部の部長と副部長が壇上に上がり、活動内容を説明する。なかにはパフォーマンスをする部もあって、新入部員獲得に熱が入っていることが分かる。

 吹奏楽部はマーチングを披露した。揃いの白い楽隊の制服を身につけて行進しながらの演奏は圧巻の一言だった。


「あーあ、今年も吹奏楽部のひとり勝ちかな」


 主将になったらしい健大くんが、バスケのユニフォームにバスケットボールを小脇に抱えて苦笑して言ったので、思わず顔を見上げる。


「見てみ、新入生の顔。マーチングに圧倒されて引き込まれまくってる。実際にうちの吹奏楽部強いからな~」


 そう言われて新入生の集団を改めてみれば確かに。インパクトはどのクラブにも勝るよね、うん。


 そして入部説明会があった日の放課後から一週間は、部活見学会が行われる。

 といっても、料理倶楽部をただ見学したってつまらないだろうし、見学に来た1年生を交えて一緒に料理をすることとなった。

 見学に来た1年生にエプロンと三角巾を貸し出す準備をし、事前に準備しておいた食材を均等に切り分けてバットに乗せる。

 ボウルやまな板、包丁など必要な調理道具を用意してそれぞれの調理台にセットした。


「タマちゃん、美晴ちゃんお疲れ様~」

「美晴先輩! 手伝いますよぉ」


 ちらほらと集まってきた同級生や2年生が身支度を調えて準備完了。


 今日のメニューは、太巻き寿司。サクラデンブと茹でた三つ葉、人参、かんぴょう、干ししいたけに、咲くんの特製卵焼き。自分の分が作れるから達成感があるし、衛生的に体験をして貰いやすいかな、と咲くんと二人で考えた。

 副部長が下手っぴだって思われないように私も家でちゃんと練習してきた。だから大丈夫。私はやれる。


 廊下側の開け放った窓から、ドアから1年生らしい紺のネクタイの男子が二人、調理実習室を覗きこんでいる。向こうも上級生相手に緊張してるっぽいけど、こっちも緊張するんだよ~。なるべく笑顔、笑顔!


「体験入部ですか?」

「あ、いえ。別に。おい、科学部も見て行こうぜ」

「ああ」


 声をかけたら逃げられてしまった。残念。

 と、その時。調理実習室の後ろのドアから紺のリボンの女の子が3人、身体を半分調理実習室に入れて声を掛けてきた。


「すいませ~ん、体験いいですか?」

「どうぞ、いらっしゃいませ」

「お邪魔します~♪」


 咲くんがお店モードでにこやかに対応したのに対して、きゃあと女の子たちが黄色い声で騒いでぞろぞろと入ってくる。

 むむむっ。先頭の女の子を見た途端、なんだか嫌な予感がした。多分気のせい……。

 頬が桜色なのも、咲くんを見る目がなんだか熱っぽいのも気のせい……だよね?


「あ、あのっ! 玉野先輩ですよね!!」


 その先頭の女の子が咲くんに勢いこんで話しかけた。


「そうだけど……」

「あのっ、私、文化祭でお見かけしてっ。あの、すっごく去年のお好み焼き美味しかったです。一昨年のクレープも最高で! 私、絶対ここの高校に合格して玉野先輩のいる料理倶楽部に入るって決めてました! や~ん、玉野先輩に会えて嬉しいですぅ~。あ! 私、梅本佳奈です!!」

「ありがとう。じゃ、これエプロン……」

「私、最初から料理倶楽部入るって決めていたのでっ、エプロン持って来たんですっ」

「そう……」

「はいっ!!」


 梅本さんの勢いに圧倒されている様子の咲くんは、連れの二人に貸しエプロンを手渡した。

 梅本さんはてきぱきとエプロンを身につけ、咲くんの後ろをついて歩く。こういうのをどこかで見たな。なんだっけ……と思考を巡らせていると、料理倶楽部の面々が微妙な顔をしてこちらと咲くんを交互に窺っていた。




「え~? のり巻きですかぁ。私大好きなんですよ!! あ……かんぴょうはちょっと苦手なんですけど、あ、デンブも苦手です。うちじゃサラダ巻きが多いのでぇ……」


 梅本さんはちゃっかり咲くんの担当している調理台に立って、手よりも口の方がよく動いている。話しかける先は咲くんオンリーだ。実習室に微妙な緊張感が漂っている気がする。


「あ~~ん! 上手く巻けない~~。コツとかあったら教えて下さい玉野先輩ぃ」

「もうご飯と具を載せた後だからどうしようもない」

「え~~? そこをなんとかぁ」

「って、人参と玉子ばっかりだな」

「だぁってぇ、好きなんですもん」


 みんな、あっち見てからこっちに視線移すのやめてっ!

 私だって、甲斐甲斐しく女の子の相手する咲くん見たくないけど、咲くん部長なんだもん。1年生の相手したって仕方ないじゃない……。


「ええと……すみません」


 梅本さんの友達らしい一年生が何かを察したように私に謝った。


「気にしないで。さ、こっちもやろうっか。海苔巻きしたことある?」

 

 半年前の私みたいにお料理が上手くないらしい梅本さんに捕まっちゃっている咲くんのために、私がフォローしないとね!!

 巻きすに海苔と酢めしを乗せて、好きな具を選んでもらって……割りと和やかに体験してもらえたんじゃないかな。

 


◇◇◇


「はぁ~」

「どうしたの溜息吐いて。仕事中だよ」


 新田さんに心配そうな顔をされてしまった。


「すいません……」

「新入部員たくさん来た?」

「今日、入部届けを出してくれたのは3人でした」

「そっか、そっか。初日で3人か、まずまずの出だしじゃない?」


 コップを洗いながら相槌をうつ。


「そうですね~」


 帰り2年生の梅本君に突然「ウチの妹が空気も読まずすみません」って謝られた。梅本君が中学3年生の時に、受験しようとしていたここの文化祭に当時中学2年生の妹さんを連れてきたのがきっかけだったらしい。でもそれを知ったところで私ができることなんて何もない。

 咲くんを好きにならないで、なんて言えるわけがない。気持ちは自由なんだから。

 でも咲くんの気持ちが梅本さんに傾いたら……考えたくないのに頭から離れてくれない。




 





 

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