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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
54/82

特別メニュー ミツバ戦隊結成 4

「あれは誰なんだ」


 初戦を終えてチームの中に動揺が走る。


 いやしかし、ご当地ヒーローを結成したその日から対抗組織が現れることは予想されていたことではないか。

 光の傍には陰がある。その光が強く明るければ明るいほど、闇は濃くなるものである。


 言い換えれば敵がいないヒーローに存在価値がないのだ。


「あのセンス……商店街のおっちゃんたちの誰かが裏で糸を引いているのは確かよ」

「黒幕を炙り出すか」


 わお、秋生くん。ブラックらしい発言じゃない。


「どんな奴が現れても美晴は俺が守る!」

「咲くん……」


 いや、守るのはミツバ商店街だから。リア充どもは置いといて。


「祭りを盛り上げる為の布石のショーだったんじゃない? 奴らは絶対秋祭りに現れる」

「それは間違いないわね」


 健大くんの発言に強く頷いた。


「今回は何とか追い返したけど、光線銃が効かない敵がまた現れるかもしれない。対抗できるのが咲ちゃんのコテだけというのは心許ないわ。なにか考えましょう」

「戦隊といえば、ソードに……」


 十年前にハマっていたであろう少年たちが遠き記憶の封印を解く。


「合体するバズーガーに合体ロボだよな」

「合体……」

「きゃあ! 咲くん、やだぁ」


 美晴ちゃんの悲鳴に振り向けば、ピンクとブルーが合体していた。

 つまり肩車していた。

 美晴ちゃんが怖がって太ももでブルーの首を挟み、ブルーの後ろ頭にへばりつくように豊満な胸を押し付けている。はいはい、イチャイチャは場所を選んでやろうねー。

 取り合えず妙な合体じゃなくて良かったと安堵しつつ、見なかった振りで作戦会議に戻る。



「合体バズーガーは難しいよね。既存のオモチャを使うとちびっこにはバレちゃうし、作るにしても予算が……」

「合体しなくても良いんだよ。皆の力を合わせたパワーが発射されればいいんだって」


 健大くんはヒーロー大好き少年だったのだろうか。秋生くん相手にやけに熱く語り始めた。


「それにロボは絶対要るって!!」

「でも敵は巨大化しなかったじゃん。リアルじゃ不可能じゃね?」

「きっと何か考えてくるよ。作ろう! ロボット!!」

「ボールと盥とホースで?」


 秋生くんが意地悪く笑う。健大くんは真っ赤になって反論した。


「それじゃコロッケ好きなロボになるだろ! 違うよ、もっとでかくて強いやつ!!」

「宇宙世紀に突入したらできるようになるかもな」


 何だかんだとこの二人は仲がいいみたいね。ああ、このじゃれ愛、木綿子に見せてあげたかった。


 結局、段ボールでロボットを作ることになったので、段ボールを貰いに協賛店舗を廻ることになった。


 中に誰が入るって?

 そりゃもちろん、金剛寺くんよ♡

 彼にも見せ場をつくってあげなきゃね!




◇◇◇


「ふふふ……。ついに出来たわ。あとはこれに恐怖、怒り、悲しみの感情を集めれば……この世は私たちズールのものよ! オーホッホッホッ!!」


 女王様顔負けのボンテージに赤い唇。11センチの高いヒールのロングブーツを履いた女幹部が高笑いをしている。

 黒に銀ラメのいかにもな仮面で顔を隠し、手にはしなる鞭。ボンデージ衣装に肩当てやマントが無ければ誰が見ても夜のお仕事の人と思うだろう。

 背後に茶トラとサバトラを従えている。


「このトンズーラと、イタズーラにお任せ下さいズラ」

「子どもを捕まえてくるズラよ。出でよ! ザーコ」


 茶トラの声に何処からともなく、黒タイツの怪人が現れる。ぽっこりお腹も紛れている。中身は誰だ?


 黒タイツ怪人が会場に集まっていた子どもを拐おうと近寄ると、ぎゃあ~と泣き出す子どもや、固まって硬直する子どもが続出した。


「そんなことはさせないぞ!」


 抜けるような秋晴れの空よりも爽やかな声が、スピーカーを通して響き渡った。


 ジャーン、チャチャッチャチャ、チャー!


 登場の音楽とともに舞台に現れたのは、私たちクローバーファイブ。


 私を中心として左にピンクとブルー。右にブラックとイエローが並んで決めポーズ! どうみても組体操の『扇』じゃないかとのツッコミはいらない。



「また出たズラな」

「今日こそおまいらをやっつけてやるズラ」

「それはこっちのセリフだ」

「お前たちの好きにはさせないぞ!」


 おお! 言ってやれ! ブルー! イエロー!


「行け! ザーコ」

「「うぃーー!」」


 なんだ、なんだ。雑魚キャラはフランス語なのか?


 がに股で両手をゾンビのようにして、フラフラ襲ってくるザーコを、五人で手分けして舞台に沈めた。

 新調したクローバーソードの切れ味は抜群だ。


「なかなかやるじゃないか。だが、こいつらはザーコとは一味違うよ。トンズーラ、イタズーラやっておしまい!」

 

 女幹部の一声で、頭にリーゼントを乗せた茶トラとサバトラが襲ってきた。だがしかし、サバトラの弱点は知っているのよ!


『レッド、気を付けろ。サバトラがパワーアップしている』


 カチューシャに付いているイヤホンから司令官の声が入った。


 ピロロン、ピロロン、ピロロン。


「なに? 効かない!! うあ!!」

「レッド!!」


 光線銃が効かないことに気をとられた一瞬、サバトラの一撃をまともに受けて弾き飛ばされた。


「これでも喰らいなさい! ポールンシャワー」


 ピンクが魔法のステッキのようなものを振り回す。

 すると、サバトラが立て続けにくしゃみをした。


「今だ!! ボーンアタック!」


 イエローがウマの大腿骨の様な形と大きさの骨を投げつけると、サバトラは倒れた。

 

「こしゃくな! 俺が相手ズラ!」


 茶トラがバットを引き出す。ブルーが巨大コテを構えた。


「助太刀する!」


 ブラックが剣道仕込みの構えでクローバーソードを構えた。五人の中で一番様になっていてカッコいいかもしれない。

 よく考えたらヒーローにあるまじき多勢に無勢で、茶トラは舞台の上に倒れた。

 暴れん坊な将軍様を相手にする用心棒でさえ、斬りかかる順番を待つというのに、前から後ろからのメッタ斬りはいかがなもんか。

 そう、ミツバ商店街の平和を守るためにはなりふり構っていられないのよ。

 情を見せたら殺られるのはこっち。生きるか死ぬかのバトルにルールは無いの!


「ええい、情けなやトンズーラ! もう一度チャンスをあげるからやっておしまい!」


 女王様な女幹部が、光線銃のようなものを味方の茶トラに向けた。すると、その背中が割れて茶トラが巨大化した!!


「まさか!」

「くそう、こちらもクローバーファイブオーの発進だ!」


 金剛寺くん入りの段ボールロボットが舞台上に現れた。関節はきちんと曲がるように作られているから、動きは多少ぎこちないものの、そこそこ動ける。

 そして、巨大化した茶トラにパンチを繰り出した。


 バアーーーーン!!


 派手な破裂音が会場に木霊する。子どもたちも、お客さんも鳩のように目を真ん丸くしている。


 そう、巨大化した茶トラは、実は風船で出来ていたのだ。そして、ロボットパンチには少し細工が施されていて、中にいる金剛寺くんが針を持って突いていたのだ。


「な、何ぃ!! これではズール様はお怒りになってしまう!! 一時撤退だ!!」


 女幹部の指示に、死んでいたはずの茶トラとサバトラ、ザーコがむくりと起き上がって撤退した。




 チャーン、チャチャッチャチャ、チャチャーン。



「みなさん、応援ありがとう!」

「ミツバ商店街に平和が戻りました」

「でもまたいつズールが襲ってくるか分かりません」

「私たちはいつもミツバ商店街の為に戦います」

「あばよ!」


 チャーン、チャチャッチャチャ、チャーン。


 ビシッと決めポーズを取って、拍手をもらって退場した。


 ショーが話題を呼んで商店街の売り上げが全体的にアップした。新しい住民たちに商店街の存在をアピールできたことが大きかったのだろう。

 キャラクター商品を出すまでには至っていないが、地元の幼稚園児になかなかの人気で、クリスマス会に出張ショーもしたりしたし、商店街のアーケードで握手会もした。



 結局ズール達の正体が誰だったのか、分からず仕舞いだ。

 故にこれからもミツバ商店街の平和を守ることになるだろう。もしあなたがミツバ商店街でズールたちがイタズラしているのを見かけたらこう呼んで。「助けて! クローバーファイブ!」とね!



(「特別メニュー ミツバ戦隊結成」おしまい)


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