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おいしい料理のつくりかた  作者: 紅葉
おいしい料理のつくりかた本編
53/82

特別メニュー ミツバ戦隊結成 3

「今日はミツバ戦隊【クローバーファイブ】のお披露目を兼ねて、ビラ配りしま~す!」


 とある土曜日、商店街の中にある商工会会議室に集まった5人をぐるりと見回して言った。

 昨日刷り上がったばかりの黄色い紙に印刷された秋祭りの宣伝チラシの束を適当に分けると、それぞれに配った。

 既に5人は、クローバーファイブのコスチュームに着替えている。

 ピンクの美晴ちゃんと私のレッドのコスチュームは、咲ちゃんの強い要望により一部デザインチェンジがあった。白いベアトップから袖ありの上着に変更になったのだ。

 立ち襟の白い上着にはクローバーのモチーフがつけられている。そして、袖もふんわりパフスリーブで可愛らしい。


 そして男子のコスチュームは、それぞれのカラーを基調とした作業着ちっくな上下にやっぱり白のロングブーツと長手袋。左胸にクローバーのモチーフ。

 右腰には武器ホルダーがベルトで吊られてる。もちろん女の子にも武器ホルダーがある。美晴ちゃんだけ右太ももにベルトで締め付けるタイプの武器ホルダーになっていて、ちょっとエロ可愛い。


 そして、背中には……。うん、これはもう仕方がない。コスチュームひとつ作るにも予算がかかるからね。

 レッドファイヤーの背中には『三つ葉町消防団』と印刷されている。円の中に消防団の恰好をしたお兄ちゃんのイラスト入り。

 フィッシュブルーの背中には、『魚辰』と白抜き勘亭流文字で印刷されている。

 フローリストピンクの背中には、『フローリスト沢井』、イエローミートの背中には漫画でしかお見かけしない骨付き肉のイラストがドンと描いてあって、『マツザカ精肉店』とある。ベジタブルブラックには『前田青果店』。黒い野菜って……と思われるでしょう? 私がうっかりブラックをスカウトしちゃったもんで、魚辰のおっちゃんには迷惑かけちゃった。でも庄司くんがグリーンのイメージじゃないしなぁ……。前田のおっちゃんは「のりちゃん気にすんな。ブラックカッコいいじゃねーか。ごぼうもアボカドも黒皮カボチャもあらーな」と笑ってくれたけど……。

 まあ、いっか。

 そういうわけで庄司くんの背中にはカボチャと茄子が描かれてます。


「んじゃ、レッツゴー!!」



◇◇◇


「ちょっと恥ずかしいんですけど、いっぱいお客さん来てくれたらいいですね」


 美晴ちゃんが頬を染めながら、積極的にビラを配る。


「そうだね」


 それに比べて男子は役に立たん。

 ブルーは美晴ちゃんについて回るカメラ小僧を追い払ってるし、イエローはワンコを構っている。

 ブラックは熟女相手にナンパか、コラ。

 もっと真面目に配れ~~と念力を送る。

 

 昼間は駅前でビラを配ってた私達、今は夕方の商店街でビラ配りをしている。

 大人の反応はまず、ギョッとする人が多い。そして迷惑そうにする人、好奇の目を向ける人、無断で写メを撮ろうとする人……。美晴ちゃんに向けられるカメラは咲ちゃんが追っ払ってるけど、注目度で言えば合格点だったんじゃないかな。


「あー! ヒーローがいる!!」


 3歳ぐらいの男の子がこっちを見て、瞳をキラキラさせて見ている。


「今度秋祭りがあるから来てね~」


 と、チラシを渡す。漢字ばっかりでごめんね~とは思ったんだけど、男の子はクローバーファイブの写真をじっと見つめていた。


「毎年やってるんですか?」


 三十代のお母さんが訊ねてきた。最近引っ越してきた家族だろうか。だとすれば、魚辰のおっちゃん!!ターゲットに接触しました!!


「そうなんですよ。あ、だけどヒーローショーは今年からなんですけどね」


 思わず立ち話を展開しそうになっていた時、不審な動きをする変な怪人の姿を見付けた。


 それはトラ猫の着ぐるみに茄子のようなリーゼントと、サングラスをつけて、80年代を彷彿とさせる長ランを着せたもの。それが茶トラとグレーのサバトラと2匹いる。リーダーなのか、茶トラの方は長いハチマキをしていた。

 それらがスプレー塗料を持って、店舗の壁に吹き付ける。たちまち壁は赤と緑の線で汚される。


「へへへ、兄貴。上手くいきましたズラ」

「そうズラな、兄弟。それじゃあここらでずらかるズラ」

「イタズラは楽しいズラ」

「次にいくズラ」


 そういって路地に消えようとする二匹を私は見逃しはしなかった。


「待て!!」


 茶トラとサバトラはゆっくりと振り向いた。


「なんズラ?」

「我々の野望の邪魔をすると痛い目みるズラよ」

「ミツバ商店街の平和を乱す者は、このクローバーファイブが許さない!」

「どう許さないのか、その実力みせてもらうズラ」


 サバトラが背中からバットをスルスルと取り出した。

 

「いくズラよ~」


 私はみんなを振り返った。さすがにイエローとブラックも腰の武器ホルダーに手を伸ばしていた。


 お客さんたちは遠巻きにして固唾をのんでこの様子を見守っている。


 振り下ろされるバットを交わしつつ、腰の武器ホルダーから光線銃を取り出した。


 ピロロン、ピロロン、ピロロン


 お間抜けな音が鳴る。これでいいのか……。


「ぐはっ!! やるズラね」


 サバトラが胸を押さえて膝をついた。


 茶トラと交戦しているブラックとイエローが苦戦している。どうやら光線銃が効かないみたいだ。


『ブルー、聞こえているか。茶トラ怪人には光線銃が効かない。ブルーのコテで応戦するんだ』


 司令官の声がトランシーバーを通して聞こえた。金剛寺くん……あ、ひとり寂しく電柱の陰で司令官してる。


 ブルーが腰からコテを抜き、両手に構えた。コテとは女の子が巻き髪に使うヤツじゃなく、左官屋さんの商売道具でもなく、お好み焼きをひっくり返すアレだ。しかも「ホームセンターで売ってるの見るけど誰が買うんだ、アレ」というでっかいサイズ。


 金属バットとコテの交戦は、カキンカキンと硬質の音を響かせる。ちょっとホントに大丈夫?

 咲ちゃん頑張れ! と心の中で応援していたら、先程の男の子が興奮した様子で「ブルーかんがれー!!」と声を上げていた。


 かんがれになってるけど、ありがとう!

 ちゃんと気持ちは伝わってるよ!!


「こしゃくな、ズラ」


 茶トラがよろけて……そして定番とも言える巨大化をするのかと思ったら、走って逃げた。


 わぁ!! っと周りから拍手が沸き起こる。


 ありがとう! みなさんの応援のおかげですよ。




 そして、私は南豆腐店の店先に駆け込んだ。


「お母さん、バケツと雑巾貸して!」


 ミツバ商店街の平和と清潔は我々ミツバ戦隊クローバーファイブが守る!!


 このあと私達は地味に茶トラとサバトラが汚した壁を拭き掃除したのだった。



 



(つづく)




 

 




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