特別メニュー ミツバ戦隊結成 2
料理倶楽部の活動の無い今日、5人の高校生が調理実習室に呼び集められた。呼び集めたのは私だけどね。
「南のりこ料理部部長、これは何の集まりですか? キミがどうしてもというから来てみれば……今日も剣道部は稽古があるのに」
「いいじゃん、金剛寺くんいなくても一日くらいなんとかなるでしょ? お願い」
「……仕方がないな」
苦笑しながらも爽やかなこの立ち姿の綺麗な男は、金剛寺剣介。言葉遣いが多少残念なのとプライドが高いのとを省くとなかなかの好青年なの。もちろん、商工会会長の【肉のマツザカ】の息子だからというチョイス。
「そこ! イチャイチャしない!!」
水を掛けられた猫のようにビクッと玉野くんから離れたのは、渡瀬美晴。2年生の途中からの転入生なんだけど、顔可愛い、性格可愛い、声可愛い、胸囲大きい、勉強できると、天は二物も三物も与えたように見えるけど、実は経験不足による料理オンチでバランスを取っているという可愛い後輩。実は料理以外にも指先を使う作業が案外苦手っぽいことを私は見抜いている。けれど努力型なので、これからの成長が楽しみなところ。
そして美晴ちゃんが離れたことによって、いつもより機嫌が悪そうな顔をしているのが玉野咲。我が料理倶楽部の期待の新星。というより、彼でもっていると言っても過言じゃないかもしれない。【ねこまんま食堂】の跡取り息子。私の幼馴染で片想いの男の子の弟くんで、なんだかんだと小さい頃から彼を見てきた。秘かにおじさんに料理人養成ギブスでもはめられてるんじゃないかってくらい、小さい頃から包丁を持ち鍛えられている。今も。
最近は美晴ちゃんという可愛い彼女が出来て、表情では分かり辛いけどデレデレの毎日。あー、渋いお茶誰か淹れて~。
そしてどうしてここに連れてこられたのか分からず不安げにしているのが、西脇健大と庄司秋生。
「南先輩、俺たちもう行っていいですか? バスケ部遅刻すると主将うるさいんで……」
「あ、いいの、いいの。男バス主将には話通してるから、そこの椅子に座って」
調理準備室から運びいれた緑色の丸椅子を勧めると、二人は絶望的な顔をして座った。
そんなに恐がらなくてもいいのに。
西脇健大くんは、【西脇理容室】の息子。うちの父がよく行っている商店街のおじさんたち御用達の散髪屋さん。
庄司秋生くんは、これから話すプロジェクトにとって必要不可欠のキャラである「悪そうな」のを紹介して、と友達に聞いたら出てきた名前。ただそれだけ。結構昔からあるくすのき団地にお住まいとの情報である。
「今日集まってもらったのは他でもない。みんなにミツバ商店街の活性化の為に力を貸して欲しいの」
みんなの顔を見回す。商店街っ子は興味を引かれている。よしよし。
美晴ちゃんはきょとんとしているな。でもまあ、あの子は咲ちゃんがすると言ったら付いてくるだろうし、奥の手もある。
問題は庄司くんか。我関せずな様子で一気に興味を失くしたように見える。
「今度ね、商店街で秋祭りがあるんだけど」
「ああ、毎年大根の炊き出しが出たり、焼き秋刀魚の屋台が出たりするんだよな」
「そー、そー、去年はさぁ……」と、話が脱線しそうなのを咳払いして注目を集める。
「そう、それでね。商店街の宣伝と出し物を頼まれちゃったの。助けてくれないかなぁ」
「南のりこ料理部部長……その話は俺も少し聞いています。もちろん力になりますよ。その代わり……」
「ありがとう!! 金剛寺ならそう言ってくれると思った」
みなまで言わせずにっこりほほ笑むと、金剛寺くんは少し頬を赤くして胸を張った。
「南のりこ料理部部長の為ならみんな協力するよな。男バス主将とも俺は仲がいいんだ。コイツらをイベントの時は借り出せるように話しておくよ」
「え……! ちょっと待って!! 話が見えないんだけど。咲何か知ってる?」
「あ……まあ」
タマちゃんが歯切れ悪く頷いた。
「つまりね、今流行りのご当地戦隊を作りたいの。寡黙でクールなブルーのイメージはタマちゃんにぴったりだし、ピンクの可愛いイメージは美晴ちゃん。人好きのする親しみやすさは西脇くんのイメージだし、シャープでどこか危険な香りのするイケメン役なブラックは、庄司くんしかいないと思うの」
「そして、リーダーシップを取ってみんなを引っ張っていくレッドは……!」
「あたしがしようと思うんだけど、ごめんね金剛寺くん。だけど、カリスマ性のある金剛寺くんには指令役になって欲しいのよね。指令役がいないとみんなが上手く働けないでしょ? お願いできたら嬉しいな」
「も、もちろんだよ。指令役は俺以外にできるわけがない」
「そうだね、よろしくね♡ お祭りの広報活動もしたいから毎週土曜日は予定を空けておいてね。祭りの日は10月26日日曜日だから、その日も空けておいてね! では解散~♪」
ふふふ。秋生くんには念入りに根回ししたから逃げ道はないのだよ。
金剛寺くんと西脇くんと庄司くんは、足早にクラブ活動へと戻っていった。
さて。
「美晴ちゃん、衣装合わせしない?」
「え、もう出来てるんですか?」
美晴ちゃんが目を大きくあけて驚く。もういちいち反応が可愛いんだから♡
「まだ仮縫いなんだけどね。【マドンナ】に美晴ちゃんと放課後来てくれって木綿子に頼まれてて。あ、木綿子ってこの隣の手芸部の部長やってる子なんだけどね。家がやっぱり商店街で洋品店してるの。彼女自身もコスプレっていうの? アニメの衣装とかゲームの衣装とかプロ裸足で作るのよ」
さすが女の子、ちょっと興味引かれたみたいに瞳がキラキラしてきたよ。
「でね、今回のコスチュームを頼んであるの」
「すごーい!! わ~、ちょっと興味ある」
「でしょ、行こう、行こう♪」
美晴ちゃんと連れだって、無言の咲ちゃんを後ろに従えて、ミツバ商店街にある【マドンナ】へと私達は向かった。
◇◇◇
「ダメだ!!」
「あ~ら、タマちゃんたら照れちゃって」
「美晴ちゃん可愛いじゃない」
「こんな肩出てるの、美晴に着せられない」
試着室から出てきた美晴ちゃんを見て咲ちゃんが吠えた。
ミツバ商店街を基地とするミツバ戦隊らしく、カチューシャの両端には三つ葉のクローバーがあしらわれている。そして、白いベアトップにピンクのパフスリーブが袖の役割は放棄してちょこんと肩口に乗っている。ベアトップの下は同じくピンクのフレアパンツ。一見すっごく短いスカートをはいているみたいに見える仕様になっている。そして白いロンググローブにロングブーツ。戦隊の戦士というより美少女戦士みたいなコスチュームとなってる。イヤリングやチョーカーまで用意されていたのには、さすがの私もびっくりだよ。木綿子の萌えが詰まった一着だな、こりゃ。
そして……。
「で、木綿子。私のはどうしてパンツスタイルなわけ?」
美晴ちゃんとお揃いなコスチュームを頼んであったのに、試着してみれば私のはフレアスカートではなくスキニ―パンツになっている。
「ま、いいじゃん。それがのりこのイメージなの」
木綿子がうっすらと隈のある顔で楽しそうに笑うから、思わずゴメンと謝った。
「ありがとう、木綿子。助かった。いい友達持って私、幸せだよ~!」
「どういたしまして。女の子のは作ってて楽しかったんだけど、男子のはもうちょっと待ってね! やだ、のりこ泣かないで。ちゃんと報酬は商工会から貰うんだし。そうね、来年の夏に例のブツを売りに行く時にこれ着て美晴ちゃんと一緒に売り子してくれればいいから」
木綿子はやっぱり木綿子だった。
「のり姉……なんかヤバイことしてんの?」
咲ちゃんが不審げな顔をして呟く。
そんな訳ないでしょ! アンタにゃ見せられない薄い本のことだから!!
(つづく)




