特別メニュー ミツバ戦隊結成 1
お遊び小話です。本編には交わりません。
「のりちゃん、頼むよ」
とある日曜日、図書館の帰りに商店街のアーケードを歩いていると、ミツバ商工会の役員に今年当たっている魚屋のおっちゃんに声を掛けられた。そして、引っ張られるように【カフェプリマヴェーラ】へと連れ込まれたものだから、「ごめん、私援交はちょっと……」と言ったら、「冗談はやめてくれ。変な噂がたったらどうするんだい」と窘められた。冗談だったのに。
店長の春子さんは、それをいつもの優しげなポーカーフェイスで聞き流しているようだ。
とりあえずおっちゃんの奢りだそうだから、一番高いスペシャルチョコバナナパフェとニューヨークチーズケーキと紅茶をポットサービスでオーダーした。おっちゃんが尻ポケットから小銭入れを出して、テーブルの下でこっそり中身を確認していることは、見ないフリを通す。
「で、なんですか?」
待ってましたとばかりにおっちゃんが話す。
「今度さ、ミツバ商店街の秋祭りでおっきなイベントをやることになったんだ」
「やればいいんじゃないですか?」
とろりとチョコソースのかかったバナナをアイスクリームと一緒にすくって口に入れる。
「最近はさ、車で15分のところに大型スーパーができただろ? ウチは三つ葉稲荷のご加護か、他の商店街よりかはマシなほうだよ。地方じゃシャッター街になって寂れていってる商店街もあるんだし」
うん、それは私もテレビのニュースで観たことある。生まれも育ちもここだし、両親もこの商店街で昔からの豆腐屋をやっている。この商店街で生活が成り立っている私だから、他人事とは思えないニュースだったから余計に印象に残っている。
「地元の人達は、商店街の店で買う方がいいものを買えるし、なによりお店の人との会話が楽しいんだって言ってくれるんだけどね。どんどんそういうお客さんも高齢化もしてきてるし、新しくできたマンションとか新しい戸建の辺りはスーパーに流れちゃってるんだよね……」
「ふんふん、それで集客を目当てにした大きなイベントをしたいと……」
おじさんは私の相槌に凄い勢いで身を乗り出した。コーヒー零れるよっ!
「そう! そうなんだよ!! さすが秀才南の娘は違うなぁ~! 打てば響くっていうか、人の気持ちを汲みとるのが上手いっていうか、一を聞けば十を知るっていうか……!」
ちなみに末は博士か大臣かといわれたウチの父は豆腐屋になってますが。魚屋のおっちゃんとウチの父は同級生なのだ。
「で?」
「で?」
おじさん、小首傾げても可愛くないから。そういうのはウチの料理倶楽部の美晴ちゃんにメイド服着せてやってもらいたいと切に願う。
「私に何を頼まれたいのですか?」
「なんかいいアイデアないかなぁ」
ちょっと待て!! ノーアイデアなのか? ノーアイデアで人に頼みごとしに来たのか??
信じられない思いでおっちゃんを眺めていると、さすがに居心地が悪くなったらしい。尻をもぞもぞさせてコーヒーで唇を湿らすと、言い訳を始めた。
「いや、色々案は出たんだよ? チラシを撒こうとか、セールをしようとかさ。でもこの時期に秋祭りするからさ、それに便乗して何かしようって事になって」
「うん」
ニューヨークチーズケーキ、濃厚でウマ!! 紅茶でもいいけど、これはコーヒーの方が合うかも。
「最近、ご当地キャラクターとか流行ってるだろ?」
「ああ、ゆるキャラとか流行ってますね。でもあの着ぐるみ作るの結構予算かかるらしいですよ」
「そうなんだよ。まあ、他にもほら。お城のある場所とかはさ……」
「イケメンが武将の恰好してお迎え隊を結成して観光客をがっちりつかんだりしてるところもありますねぇ」
「他にもさ……」
じわじわと核心に誘い込まれている気がしていた。というか、ここまで来たら到達点、というかおっちゃんが何を言いたいのか見えてきた。
「そうですね。ご当地戦隊モノがイベントでショーをしたり街おこしに一役買っている地域もありますね。あれをやりたいんですか?」
「そうなんだよ、どう思う? レッドファイヤー、フィッシュブルー、フレッシュグリーン、フローリストピンク、イエローミートって考えてるんだけど、どうかな」
どうかなって言われましても、そこまで具体的に話が固まって来てるんならやればいいじゃないかと思う。
「レッドファイヤーとイエローミートがよく分かりません……」
おっちゃんは死んだ魚の様な目で半笑いした。
「ああ……レッドはね、消防団からの希望なんだ。で、イエローミートは……」
「大人の事情なんですね。よく分かりました」
つまり商工会会長のごり押しがあったという事だろう。まあ、昨今は多少違うとはいえ、元祖イエローは食いしん坊キャラなのだからミートでもいいや。レッドのファイヤーもよく考えればカッコイイかもしれない。
「問題は誰がやるかってことなんだ」
おっちゃん達がやればいいんじゃ、と思ったが出方を見る。
「自分達がやればいいんだろうけどね、おっちゃん達もう歳だからバク転とかできないし……」
商店街の活性化を図るためのショーごときでバク転しなくてもいいんじゃないかな。
「のりちゃん達若い子にお願い出来ないかなと思ってね。どうかおっちゃん達とこの商店街を助けると思って頼むよ!!」
僅か16~18歳の青少年に商店街の将来を預けないで下さい!!
そう叫びたかったけれど、商店街が寂れると自分達の生活にもダイレクトに響いてくるのは確かだし、ケーキとパフェという賄賂は受け取ってしまった。それに、この企みに巻き込むのにちょうどいいキャストには心当たりがある。
「仕方ないなぁ……ひと肌脱がせてもらいますよ」
私はそう答えた。
(つづく)




